11/30/2020

新歳時記より 2020-11

新歳時記より 2020-11



冬(ふゆ):冬の宿(ふゆのやど)冬の庭(ふゆのには)冬の町(ふゆのまち)冬沼(ふゆぬま)冬の濱(ふゆのはま)
   逆立ちて野良犬が毛並み冬の町
文化の日(ぶんかのひ)
   通販で国旗揃えし文化の日

立冬(りつとう)
   立冬や新しマスクてふの柄
十一月(じふいちぐわつ)
   息見えて十一月の連休
初冬(はつふゆ)
   初冬やカメラ構えてフルムーン

神無月(かんなづき)
   人不足神主募集神無月
神の旅(かみのたび)
   八百万空路開通神の旅
神送(かみおくり)
   紙送り神事の後に神送

神渡(かみわたし)
   神渡地の神さまが社揺れ
神の留守(かみのるす)
   鎮守様宮司の守り神の留守
初時雨(はつしぐれ)
   身震いが雀あわてて初時雨

初霜(はつしも)
   初霜や袖口に受く陽の温み
冬めく(ふゆめく)
   剥ぐ蒲団冬めく朝の奪い合い
爐開(ろびらき)
   爐開や去年がかをりの舞い上がり

口切(くちきり)
   口切や正客眺む竹垣根
亥の子(ゐのこ)
   父残業猪の子餅搗く母と僕
御取越(おとりこし)
   山の上檀家少しの御取越

達磨忌(だるまき)
   達磨忌や僧の仕度の早さかな
十夜(じゅうや):「十夜粥・ごこく粥」
   提灯の招く参道十夜かな
酉の市(とりのいち):「一の酉・二の酉・三の酉」
   手拍子があちこち響く酉の市

熊手(くまで)
   皆が目を背なの熊手の引き寄せて
箕祭(みまつり):「箕納(みをさめ)」
   箕納を母の行事とはるか前
鞴祭(ふいごまつり)
   盆にのせ鞴祭の温き餅

茶の花(ちゃのはな)
    屋敷裏茶の花風に揺れもせず
山茶花(さざんか)
   のど自慢山茶花の唄鐘一つ
柊の花(ひいらぎのはな)
   文机柊の花かをりけり

八手の花(やつでのはな)
   竹鉄砲八手の花が咲く前に
石蕗の花(つはのはな)
   雨音を下から聴けり石蕗の花
芭蕉忌(ばせをき)
   芭蕉忌や森林を行く人の列

蘭雪忌(らんせつき)
   線香や菊の香被ふ蘭雪忌
空也忌(くうやき):「空也念佛」
   空也忌や奥州の空雪待てり
鉢叩(はちたたき)
   川越えて鉦のリズムや鉢叩

冬安居(ふゆあんご):「雪安居(せつあんご」)
   山寺や夕日の浮かび冬安居
七五三(しちごさん)
   七五三妻の着物も様になり
帯解(おびとき)
   帯解きて簪ゆれて氏神へ

袴著(はかまぎ)
   袴著や氏神様の石段を
髪置(かみおき)
   髪置や洗髪が指つんつんと
新海苔(しんのり)
   新海苔と墨痕太く乾物屋

棕櫚剥ぐ(しゅろはぐ)
   梯子持ち棕櫚剥ぐ父を見上げたり
蕎麦刈(そばかり)
   蕎麦刈て庵の裾も見えにけり
麥蒔(むぎまき)
   麥蒔やふわふわの畝紅葉の手

大根(だいこん)
   土出でて白き大根なまめかし
大根引(だいこんひき)
   真っ直ぐと大根引の極意聞き
大根洗ふ(だいこんあらふ)
   そそくさと大根洗ふ寒さかな

大根干す(だいこんほす):「懸大根・干大根(ほしだいこ)
   空稲架や大根を干す三方ヶ原
切干(きりぼし)
   切干や強風に耐えしがみつき
淺漬(あさづけ)
   浅漬やけふは固いが文句なき

澤庵漬く(たくわんつく):大根漬ける
   桶の中澤庵を漬くあがる息
茎漬(くきづけ):茎の桶・茎の石・菜漬
   茎漬や味すっきりと鷹の爪
酢茎(すぐき)
   名店へタクシー廻り酢茎かな

蒟蒻掘る(こんにゃくほる):蒟蒻干す
   風強し蒟蒻を掘る裏の畑
蓮根掘る(はすねほる):蓮掘
   泥水やホースくねくね蓮根掘る
泥鰌掘る(どぢやうほる)
   羊羹を切るが如しに泥鰌掘る

鷲(わし)
   一筋に棚田が煙鷲の飛び
鷹(たか):鷹渡る:「鵟(のすり)・沢鵟(ちゅうひ)・大鷹(おほたか)・蒼鷹(もろがへり)・八角鷹(はちくま)・鶚(みさご)・熊鷹(くまたか)」
   駅の木や椋鳥散らすにほふ鷹

隼(はやぶさ)
   隼や眼光赤く睨みつけ
鷹狩(たかがり):放鷹(はうよう)・鷹野
   鷹狩や殿が休みの屋敷跡
鷹匠(たかじやう)
   鷹匠や鳥打帽をゆがめたり

小春(こはる):小春日和・小春日
   縁側の小春日和のカフェテラス
冬日和(ふゆびより):冬晴
   冬日和冷えた焼き芋歯に沁みて
冬暖(ふゆあたたか):冬ぬくし
   手探りて脱いだ靴下冬ぬくし
 
靑寫眞(あをじやしん)
   曇り空けふは出るかな靑寫眞
帰り花(かへりばな):返り咲(かへりざき)忘れ咲(わすれざき)狂ひ花(くるひばな)狂ひ咲(くるひざき)
   突然の濃くて口紅狂い咲き
冬紅葉(ふゆもみぢ)残る紅葉(のこるもみぢ)
   仲間ゆく取り残されて冬紅葉
 
紅葉散る(もみぢちる):散紅葉(ちりもみぢ)
   公園のベンチに一人紅葉散る
落葉(おちば):落葉掻(おちばかき)・落葉籠(おちばかご)・落葉焚(おちばたき)
   しんしんと庭の西にて落葉焚
 
銀杏落葉(いてふおちば)
   コーン立て銀杏落葉の終の色
柿落葉(かきおちば)
   柿落葉蜘蛛糸結びチークダンス
枯葉(かれは)
   枯葉散る夕暮れ時の露天風呂
木の葉(このは):木の葉雨(このはあめ)木の葉散る(このはちる)
   木の葉散る猿ゐる梢風の吹き
木の葉髪(このはがみ)
   木の葉髪けふは多いか新聞紙
凩(こがらし):木枯
   凩に負けてなるかとランドセル
 
時雨(しぐれ):朝時雨・夕時雨・小夜時雨・片時雨
   傘がない止むこともなき夕時雨
冬構(ふゆがまへ)
   築山や縄の広がり冬構
北窓塞ぐ(きたまどふさぐ)
   鉤閉めて北窓塞ぐ心地なり
 
目貼(めばり):隙間張る(すきまはる)
   一筋の光も消して目貼かな
風除(かぜよけ)
   風除や一段毎の増す温さ
新嘗祭(にひなめさい):勤労感謝の日
   新嘗祭祢宜捧げし鏡餅
 
お火焚(おほたき)
   お火焚や幣舞い上がり火を連れて
神農祭(しんのうさい)
   神農祭張り子の虎の首を振り
几董忌(きとうき)
   鳴瀧へ几董忌酌み交わす銘酒
 
報恩講(ほうおんかう):御正忌(ごしやうき)御七夜(おしちや)御講(おかう)親鸞忌(しんらんき)お講凪(おかうなぎ)
   山寺の告知板書く報恩講
網代(あじろ)
   波もなく上弦照らす網代守
柴漬(ふしづけ)
   柴漬や小魚跳ねて光る朝
 
竹瓮(たつぺ)
   寝ぼけ顔竹瓮が見えて凍てし朝
神迎(かみむかへ):神還(かみかへり)
   白鷺や屋根に並びて神迎

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10/31/2020

新歳時記より 2020-10

新歳時記より 2020-10




十月(じゅうがつ)
   十月の廃屋の草音さやぐ
長月(ながつき)  
   長月のいへぢ照る月おとがひへ
菊月(きくづき)  
   菊月の父読みし本病床に
秋の日(あきのひ) 
   秋の日や光到来開く厨子
秋の入日(あきのいりひ)
   石けりや秋の入日に燃ゆる庭
秋晴(あきばれ)  
   秋晴や浜名大橋渡りけり
秋日和(あきびより)
   秋日和籠屋は竹を運び入れ
秋高し(あきたかし) 
   秋高し赤石山脈見晴るかす
天高し(てんたかし)
   天高し頂上目ざし秋葉山
馬肥ゆる(うまこゆる)
   肥ゆる馬と戦ふ適正体重

秋の空(あきのそら)
   秋の空雲の行方は我知らず
秋空(あきぞら) 
   秋空に突き刺し伸びるムサシかな
秋天(しゅうてん) 
   秋天を隠して見せぬ悪茄
秋の雲(あきのくも)
   雨上がり田んぼに写す秋の雲
秋の山(あきのやま) 
   秋の山声の塊切れ切れに
山装ふ(やまよそふ)
   山装ふ乙女恥じらふごと染めて
秋山(あきやま) 
   秋山や人家が見えて足軽く
秋の峰(あきのみね)
   青空へ上に雲添え秋の峰
秋の野(あきのの) 
   行商人背の荷も軽き秋野かな
秋郊(しうかう) 
   秋郊や遠くの家にたつ煙

秋風(あきかぜ) 
   秋風や森の公園葉音かな
秋の風(あきのかぜ)
   秋の風さざ波抜いて鯉のいて
金風(きんぷう)
   金風や揺れて楠木騒がしく
秋の聲(あきのこえ)
   秋の聲湖上が橋の潮早し
秋聲(しうせい) 
   秋聲や水音消して手を洗ふ
秋の暮(あきのくれ)
   にわか雨傘を渡して秋の暮
秋の夕(あきのゆうべ)
   帰り道秋の夕の灯る窓
秋の雨(あきのあめ)
   秋の雨濡れて帰るか傘がない
秋雨(あきさめ) 
   秋雨や下に伸ばして万国旗
秋霖(しゅうりん)
   秋霖やこうもり廻し晴れを待つ

秋黴雨(あきついり)
   五重塔乾く間もなく秋黴雨
初紅葉(はつもみじ)
   薄暗き山の階段初紅葉
薄紅葉(うすもみじ)
   鐘楼へ向かふ細道薄紅葉
桜紅葉(さくらもみじ)
   風吹けば桜紅葉の庭の色
菌(きのこ) 
   倒木や菌一本伸びにけり
茸(きのこ) 
   そこここに色鮮やかに茸生ゑ
たけ   
    松葉陰のけて現るたけのしろ
羊肚菜(いくち) 
     ?句が詠めない宿題とす
毒茸(どくだけ)
   そこここに毒々し色毒茸よ
茸山(たけやま) 
   茸山に登ればぺたり松の脂

茸番(きのこばん)
   茸番今夜は何時泥動く
茸飯(きのこめし)
   夏の具も刻みていれて茸飯
初茸(はつだけ)
   初茸や袂揺らしてしたり顔
濕地(しめじ) 
   登り着く濕地がしろは荒らされて
松茸(まつたけ)
   松茸を縦列駐車隙間なく
椎茸(しいたけ) 
   ポンと打つ椎茸の種山麓に
茸狩(たけがり)
   茸狩に人溢れ逃げる猪
茸とり(たけとり)
   茸とりや天女は招くかをるしろ
松茸飯(まつたけめし)
   ほかほかの松茸飯をよそふ小夜
新米(しんまい)
   新米のかをる朝飯電車来る

今年米(ことしまい)
   30㎏どさり玄関今年米
焼米(やきごめ)
   焼米や籾が邪魔する食べさせぬ
新酒(しんしゅ)
   来る友新酒栓抜き酔い加減
今年酒(ことしざけ)
   ショーケース我先前へ今年酒
新走(あらばしり)
   美と云う名待ちわび手にす新走
古酒(こしゅ)
   かび泳ぐ我が家の酒は古酒になり
濁酒(にごりざけ)
   濁り酒こどんだ米が格別で
どびろく
     どびろくや父は秘かに挑む壜
醪酒(もろみ)  
   杜氏述ぶ熟成度合醪酒が音

酢造る(すつくる)
   酢を造る甍に風の寒くなり
秋の田(あきのた) 
   秋の田に囲まれ白き鳥居立ち
稻(いね) 
   稲実る刈り取り進む棚田かな
稻筵(いなむしろ) 
   稻筵さすりて風の吹き渡り
初穂(はつほ) 
   展望台初穂の揺るる棚田道
稻穂(いなほ) 
   豊作と今年の稻穂手にとりぬ
稻の秋(いねのあき)
   棚田道上まで続き稻の秋
稻田(いなだ) 
   雀除けきらきら光る稻田かな
陸稻(おかぼ) 
   陸稻刈る母のリズムに追いつけず

中稻(なかで)
   中稻刈る隣りの田圃色づきて
浮塵子(うんか) 
   道見えぬヘッドライトへ浮塵子舞ふ
ぬかばえ  
    ぬかばえやチリチリ落ちて誘蛾灯
蝗(いなご) 
   偵察や蝗見つけて袋出す
蝗捕り(いなごとり)
   捕るよりも入口狭し蝗捕り
螽(いなご)   
   稲束を提げて蝗の振るひ落ち
蝗串(いなごぐし) 
   昼飯のおかずはけふも蝗串
ばった   
    自慢話しながらばった追ひ払ひ
きちきちばった 
    田んぼ道きちきちばった露払い

蟿螽(はたはた) 
   蟿螽やおしろが跡野面積み
稻雀(いなすずめ)
   豊作も追い払われて稻雀
案山子(かかし) 
   雀の子案山子が頭一休み
鳴子(なるこ) 
   雀来る鳴子忙しく鳴りもせず
引板(ひた) 
   豊作へ備えてけふは引板作り
ひきいた 
     雀来た遠くひきいた鳴りにけり
落し水(おとしみず)
   落し水集めて太き滝になり
秋の川(あきのかわ)
   ぎいぎいと櫓音のんびり秋の川
下り簗(くだりやな)
   水泡の弾ける音や下り簗

落鮎(おちあゆ)
   赤き炭落鮎落とす油の香
錆鮎(さびあゆ) 
   水底を朱く錆鮎染にけり
渋鮎(しぶあゆ) 
   渋鮎や囲炉裏の炭のはじく音
下り鮎(くだりあゆ)
   枝拾ひ焚き火に炙る下り鮎
秋の鮎(あきのあゆ)
   見納めと水面を下り秋の鮎
落鰻(おちうなぎ)
   長旅へ太くて肥えて落鰻
渡り鳥(わたりどり)
   渡り鳥あいつ何処からここの池
鳥渡る(とりわたる)
   広がりてまた寄り添いて鳥渡る
色鳥(いろどり) 
   棚田にも色鳥来たり晴れる朝

小鳥(ことり)  
   風消えて苅田喧し鳴く小鳥
小鳥来る(ことりくる)
   柿の木に林檎吊るして小鳥来る
鵯(ひよどり) 
   ばたばたと音がしそうな鵯よ
ひよ     
    ぴーぴーと羽搏き止まりひよは鳴き
鵙(もず)     
   鵙の雛押し落とされて巣は高し
百舌鳥(もず)   
   楠木に百舌鳥現れて風変り
鵙の聲(もずのこえ)
   強風を押して大きな鵙の聲
鵙の贄(もずのにえ)
   玄関を出ればその木鵙の贄
鶉(うづら)  
   煙立つ墓苑にわたる鶉聲

鴫(しぎ)   
   砂浜や波を受けつつ鴫が群れ
懸巣(かけす)  
   瑠璃色の羽根を納めて来る懸巣
かし鳥(かしどり)
   声音真似かし鳥にやる実はひとつ
椋鳥(むくどり)
   椋鳥や戸袋に蓋場所探し
むく    
    むくの群れ選挙かき消す騒がしさ
白頭翁(はくとうをう)
   土手を掃く白頭翁の群れ進み
鶫(つぐみ)   
   渡り来る風を横切り群れ鶫
鶫網(つぐみあみ)
   追い立てて一斉に飛び鶫網
頬白(ほほじろ) 
   頬白や旅の途中が枯れ野原

蒿雀(あをじ)  
   一ツ家の庭へ賑やか蒿雀かな
鶸(ひわ)    
   棚田へと群れ立つ鶸が聲たかし
金雀(きんじゃく・カナリヤ) カナリヤ色金雀が聲美しき
まひわ     
   最果ての句碑に舞い降りまひわ鳴く
眼白(めじろ)  
   眼白飛ぶ縦横上下籠の中
眼白押(めじろおし)
   十五羽も枝も折れぬか眼白押
眼白とり(めじろとり)
   木の実付け鳥もちべたり眼白とり
山雀(やまがら) 
   お神籤を山雀の引く百貨店
山雀芝居(やまがらしばい)
   人に媚び山雀芝居餌を得て

四十雀(しじふがら)
   また来たわ窓辺の枝へ四十雀
小雀(こがら)  
   小雀飛ぶ翼の速さ留まらず
こがらめ   
    こがらめや甲高き声今朝の庭
連雀(れんじゃく)
    連雀や森に舞ひ込み囀りぬ
緋連雀(ひれんじゃく)
   緋連雀一斉に尾羽見せにけり
菊戴(きくいただき)
   菊戴公園の木々渡り鳴く
瑠璃色(るり)
   街道に瑠璃色(るり)鳴きやめば森暮れる
鶺鴒(せきれい)
   鶺鴒の石から石へ軽快に
石たたき(いしたたき)
   石たたき長い尾を振り虫を追ひ

庭たたき(にはたたき)
   庭たたき苔の間の虫探し
啄木鳥(きつつき)
   啄木鳥や遠くへ聞こゆドラミング
木の實(このみ) 
   暗闇にぽとり一粒木の實かな
木の實(きのみ) 
   こうもりへ雨と木の實のぽとぽとと
桃(もも)   
   食べ頃が桃は梢に脚立立つ
毛桃(けもも) 
   棘恐れ毛桃の皮の柔らかき
林檎(りんご)  
   宅配の林檎待ちかね持つナイフ
石榴(ざくろ) 
   誰も見ぬ庭の石榴が寂しくて
梨(なし)    
   空臨む袋破くか梨の尻

青梨(あおなし)
   青梨や肘まで濡らし喰らう午後
梨子(なし)    
   街道に青い旗立て梨子稔る
ありのみ    
   さくさくとありのみを噛む妻の剥く
梨賣(なしうり) 
   街道や梨賣旗の連なりて
榠樝(くわりん) 
   葉を下ろし榠樝の素肌見せにけり
唐梨(からなし) 
   色づきて唐梨の実ただ一つ
海棠木瓜(かいだうぼけ)
   どの枝も海棠木瓜が垂れ下がり
きぼけ   
    細き枝折れても持つときぼけの実
柿(かき)   
    見上げれば空より熟れて柿の色

渋柿(しぶがき) 
   渋柿や熟れても甘く成りきれず
甘柿(あまがき) 
   甘柿や緊張もなく皮を剥く
豆柿(まめがき) 
   豆柿や垂らし豊作鐘の音
柿の秋(かきのあき)
   色付きて空仰ぐ日々柿の秋
柿店(かきみせ)  
   柿店に山盛りずらり並べ見せ
吊し柿(つるしがき)
   吊し柿甲で開いて気になる子
干柿(ほしがき) 
   干柿やつついて揉んで待ちきれぬ
串柿(くしがき)
   串柿や残りあるかと年の順
甘干(あまぼし) 
   甘干を吊るす母ゐぬ母を見て

熟柿(じゅくし)  
   大叔母や掌(てのひら)に載す熟柿かな 
無花果(いちじく)
   無花果や体験の手が柔らかき
枸杞の實(くこのみ)
   枸杞の實やところどころに道標
茱萸(ぐみ)    
   茱萸群るる植物園が奥へ行き
あきぐみ    
    あきぐみの酸っぱき甘さ歯に残り
榎の實(えのみ)  
   鳥騒ぎ梢の榎の實何急ぐ
椋の實(むくのみ)
   鳥が鳴き椋の實拾ふ子らが聲
葡萄(ぶだう)   
   皮ごとに種無し葡萄食ぶ勇気
葡萄園(ぶだうゑん)
   葡萄園谷の向こうの停留所

葡萄棚(ぶだうだな)
   たわわなり光り遮り葡萄棚
山葡萄(やまぶだう)
   蔓続く導く如し山葡萄
蘡薁(えびづる)  
   崖が上蘡薁稔り鳥招き
通草(あけび)   
   言い難し通草たべてた帰り道
郁子(むべ)    
   郁子ひとつばばが供えし地蔵様
荔枝(れいし)   
   苦瓜や人気上昇温暖化
蔓荔枝(つるれいし)
   掻っ捌き腸えぐり蔓荔枝
苦瓜(にがうり)  
   眼もやらず母が作らぬ苦瓜よ
錦荔枝(きんれいし)
   錦荔枝食べられぬ味その苦さ

冬瓜(とうぐわ)  
   冬瓜の皮の硬さと実の透けて
かもうり     
     生垣や登りかもうり受け止めて
桐の實(きりのみ)
   桐の實や朝日の中へ種の舞
椿の實つばきのみ)
   海鼠塀ぽんと落として椿の實
五倍子(ふし)  
   枯れ枝や素手に染み付き五倍子が色
五倍子(ごばいし) 
   折る枝や干して五倍子寒くなり
ふし干す(ふしほす)
   ふし干して中身をかぞえ置き薬
瓢の實(ひょんのみ)
   鳴らしたしたたく瓢の實未だ出ない
柞の實(いすのみ) 
   柞の實や花芽が見える横に着き

蚊母樹の實(いすのきのみ)
   蚊母樹の實優しく息を吹きてみて
猿瓢(さるへう) 
   猿瓢や破れてならぬそつと剥ぎ
山梔子(くちなし) 
   山梔子や大木となり細き苗
新松子(しんちぢり)
   浜松の殿通る道新松子
靑松かさ(あをまつかさ)
   街道や靑松かさが太る朝
杉の實(すぎのみ)
   忌み嫌ふ花粉患者の杉の實よ
山椒の實(さんしょうのみ)
   鰻屋の山椒の實のかをる部屋
臭木の實(くさぎのみ)
   臭木の實変わりてまさか浅黄色

藤の實(ふじのみ) 
   公園に藤の實垂るる棚に雨
皀角子(さいかち) 
   皀角子や古壺を磨く日長かな
烏瓜(からすうり) 
   夕焼けを毒々し色跳ね返し
朝顔の實(あさがおのみ)
   潰し見て朝顔の實が白きこと
數珠玉(じゅずだま)
   揺さぶれど數珠玉土手の上
ずずだま    
     ずずだまを集めすぎたる大きな輪
松手入(まつていれ)
   もみ上げて下をすっきり松手入
秋祭(あきまつり)
   豊作に囲まれ祝ふ秋祭
里祭(さとまつり)
   流鏑馬や農馬むち打ち里祭

浦祭(うらまつり) 
   子ら混ぜて浜の太鼓や浦祭
村祭(むらまつり) 
   村祭小さな神輿子らの聲
在祭(ざいまつり) 
   勝ち相撲大きなにぎり在祭
重陽(ちょうよう) 
   重陽や漆の土産夫婦椀
重九(ちょうく)  
   黒板に選びて黄色重九の日
後の雛(のちのひな)
   飾る花芒桔梗と後の雛
菊の宴(きくのえん)
   懸崖を床の間に据え菊の宴
菊の節句(きくのせっく)
   障子開け菊の節句が揃ふ庭
重陽の宴(ちょうようのえん)
   杯を干す重陽の宴かをる菊

菊の酒(きくのさけ)
   菊の酒なみなみ注いで良き宴
今日の菊(けふのきく)
   雨あがる色が引き立つ今日の菊
高きに登る(たかきにのぼる)
   連れ立ちて高きに登る病み上がり
菊(きく)    
   菊一輪姉の挿し方文机
百菊(ひゃくぎく)
   百菊を花瓶に溢れ写生前
初菊(はつぎく) 
   初菊や心地よき香と噛み心地
白菊(しらぎく)  
   白菊や開花寸前増す白さ
黄菊(きぎく)   
   祖父の刈る黄菊活けたる壺の口
一重菊(ひとへぎく)
   一重菊一輪挿しに凛とたち

八重菊(やえぎく) 
   八重菊を育て仕立てて懸崖へ
大菊(おおぎく)   
   大菊や母が目指すや金リボン
小菊(こぎく)   
   踏みゐれば小菊はらはら散り始め
菊日和(きくびより)
   大鉢へ藁敷く母に菊日和
菊畑(きくばたけ) 
   田舎道闇でも嗅げて菊畑
菊の宿(きくのやど)
   大輪を並べ玄関菊の宿
作り菊(つくりぎく)
   咲き始む互い鑑賞作り菊
菊作り(きくづくり)
   腰伸ばし半年余り菊作り
菊供養(きくくよう)
   菊供養供えもらいて晴れる空

菊膾(きくなます) 
   晩酌や白磁の皿に菊膾
野菊(のぎく)  
   昆虫を埋めて土盛野菊かな
野路菊(のじぎく)
   野路菊を手刀で切る帰り道
菊枕(きくまくら) 
   作り上ぐ真っ赤な柄の菊枕
温め酒(あたためざけ)
   けふからと杯の指温め酒
海蠃廻し(ばいまはし)
   ぶつかり合う樽に響くや海蠃廻し
ばい独楽(ばいごま)
   ばい独楽や浜を歩きて巻貝を
海蠃打ち(ばいうち) 
   まぜてよと海蠃打ちが技染み付きて
去来忌(きょらいき)
   去来忌やここにも住めぬ仮の宿

牛祭(うしまつり) 
   牛祭あまりに軽き面の僧
太秦牛祭(うづまさうしまつり)
   尻痛し太秦牛祭乗る背
御命講(ごめいかう) 
   御命講遊ぶ場所ない鳩が群れ
後の月(のちのつき)
   解散と仰ぐ玄関後の月
十三夜(じふさんや)
   晴美たつ連絡船の十三夜
栗名月(くりめいげつ)
   名刹や栗名月が写る庭
豆名月(まめめいげつ)
   山寺や豆名月が影伸びて
砧(きぬた)   
   砧打つうろつく犬の尾をしまう
藁砧(わらぎぬた)
   ようなべや藁砧打つ母が音

衣打つ(ころもうつ)
   集団の子供見送り衣打つ
しで打つ(しでうつ)
   枕辺にしで打つ音の届きたり
檮衣(たうい)  
   檮衣してふわりと肩へなじみけり
夕砧(ゆうぎぬた) 
   暗くなり夕餉も済まし夕砧
小夜砧(さよぎぬた)
   音弱し隣の嫁の小夜砧
遠砧(とおきぬた) 
   街道に土間の親父が遠砧
砧盤(きぬたばん) 
   砧盤腰伸ばし電灯の下
初猟(はつれふ)  
   初猟や鉄砲の音聞こゆ朝
小鳥網(ことりあみ)
   小鳥網遠くに見えて林前

霞網(かすみあみ)
   逃げられぬ慌てて抑え霞網
鳥屋師(とりやし) 
   目を逸らし鳥屋師右手捻りたり
小鳥狩(ことりがり)
   息殺しどっと声出し小鳥狩
高擌(たかはご)  
   高擌の優し鳴き声聞きて来て
囮(おとり)    
   囮鳴く救いたく着く籠の上
囮守(おとりもり) 
   日は高しけふはこれにて囮守
やや寒(ややさむ) 
   井戸端ややや寒の朝皆早き
秋寒(あきさむ)  
   痒きとこ手が届かなく秋寒し
うそ寒(うそさむ) 
   うそ寒や切れた電球窓の月

肌寒(はださむ) 
   肌寒や探し靴下穴のあり
朝寒(あささむ)  
   朝寒やおはようの息影となり
夜寒(よさむ)   
   見送りて玄関までの夜寒かな
冷まじ(すさまじ) 
   冷まじや歩きも早き夜が道
そぞろ寒(そぞろさむ)
   最果てのプラットホームそぞろ寒
身に入む(みにしむ)
   身に入むや最古の標右に見て
露寒(つゆさむ) 
   露寒の渚が砂の黒きかな
神嘗祭(かんなめさい)
   陣取りて神嘗祭の餅の舞ふ
べったら市(べったらいち)
   ベったら市大根が白麹も白

浅漬市(あさづけいち)
   なまめかし浅漬市に並びけり
誓文拂(せいもんばらひ)
   駆け出して誓文拂大売りだし
夷布(えびすぎれ) 
   蝦夷育ち噛みて味知る夷布
夷講(えびすかう) 
   鮒泳ぎ鯛のはんぺん夷講
牛蒡引く(ごぼうひく)
   長靴の土にめり込み牛蒡引く
牛蒡(ごぼう)   
   ごんぼうや鉛筆削り技生かし
牛蒡の實(ごぼうのみ)
   生け花へ棘に守られ牛蒡の實
牛蒡掘る(ごぼうほる)
   牛蒡掘るまだまだ深き鍬の先
落花生(らくくわせい)
   土払ふ落花生ぞもがれけり

南京豆(なんきんまめ)
   すかっぺや南京豆の証なり
馬鈴薯(ばれいしょ)
   馬鈴薯やコンテナに詰む北の畑
ばれいしょ    
   ばれいしょをレンジにかけるおやつかな
じゃがたらいも  
   母出さぬじゃがたらいもの蒸したもの
甘蔗(かんしょ) 
   霜避けて慌ててむろへ甘蔗かな
さつまいも    
   冷蔵庫入れてはならじさつまいも
りうきういも  
   りうきういも栽培法や古書のあり
からいも    
   肴にすからいも揚げて焼酎を

自然薯(やまのいも)
   登る蔓下へ辿りて自然薯
やまいも    
   やまいもや皮ごと擂りてとろろ汁
じねんじょ   
   杉燃やしじねんじょが髭焼き切りて
つくねいも
   手繰り寄せ蔓の長さやつくねいも
薯蕷(ながいも) 
   つるはしを寄せぬ所へ薯蕷よ
長薯(ながいも)  
   縦並び育て長薯長パイプ
可首烏芋(かしゅういも)
   掌の濃く長い髭可首烏芋
黄獨(けいも)  
   髭の濃き根塊に着く黄獨かな
零餘子(ぬかご)  
   スペードに隠れ連なり零餘子かな

むかご    
   猿の如するする登り採るむかご
零餘子飯(ぬかごめし)
   籠溢る夕餉のお膳零餘子飯
むかご飯(むかごめし)
   昨日山けふの昼めしむかご飯
薬掘る(くすりほる)
   つるはしや土方道具が薬掘る
薬草採(やくそうとり)
   枯れぬ間に薬草採や山々へ
茜掘る(あかねほる)
   眼は赤を凝らしスコップ茜掘る
千振引く(せんぶりひく)
   晴れてる間千振引くと引き出され
當薬引く(たうやくひく)
   芽がしのまま當薬引かず来年に
葛掘る(くずほる)
   山日和鍬と鎌持ち葛を掘る

野老掘る(ところほる)
   野老掘り茂る叢蔓探し
草棉(わた)   
   静電気おびてる如し草棉逃れ
桃吹く(ももふく) 
   桃吹くと触れる指さき跳ね返し
木綿(きわた)   
   いつ見てもはじけて木綿雨の中
綿取(わたとり)  
   綿取や籠一杯の軽きこと
棉摘(わたつみ)   
   篭出せど棉摘出来ぬけふの雨
新綿(しんわた)  
   種弾き新綿ふわり山となり
今年綿(ことしわた) 
   今年綿遠州縞の粋な色
古綿(ふるわた) 
   古綿や陽を吸い込みて脹れたり

蕎麦(そば) 
   アーケード蕎麦啜りたく暖簾なり
新蕎麦(しんそば)
   新蕎麦の暖簾新しサラメシよ
走り蕎麦(はしりそば)
   お喋りの沈黙時間走り蕎麦
秋耕(しうこう) 
   秋耕や牛が足取り水もなく
紫雲英蒔く(げんげまく)
   薄曇り風に逆らい紫雲英蒔く
蘆(あし) 
   蘆の奥釣りのポイント指定席
蘆原(あしはら) 
   蘆原に隠れた歴史ありもせず
蘆の花(あしのはな) 
   四車線空き家の目立ち蘆の花
蘆の穂(あしのほ)
   蘆の穂の舞い散る土手を軽トラが

蘆の穂絮(あしのほわた)
   敵討蘆の穂絮の切りちぎれ
蒲の穂絮(がまのほわた)
   ニュータウン蒲の穂絮の届く先
蘆刈(あしかり) 
   大人数蘆刈進む歩の如し
刈蘆(かりあし)  
   葺き替えて刈蘆の山消えた小屋
蘆火(あしび)  
   朝河原蘆火が煙立ち昇り
荻(をぎ)   
   釣り人や通うポイント荻の道
荻の風(をぎのかぜ)
   一斉に右に左に荻の風
荻の聲(をぎのこえ) 
   土手道や軽トラ阻む荻の聲
荻原(をぎはら)
   天竜川荻原の先黒コート

萱(かや) 
   風もなくうとうとしてて萱の中
萱刈る(かやかる) 
   河原の色と空の色萱を刈る
木賊刈る(とくさかる)
   庭の隅少し多すぎ木賊刈る
砥草刈る(とくさかる)
   長靴を抜かれぬように砥草刈る
萩刈(はぎかり) 
   トンネルの上まで届け萩を刈る
破芭蕉(やればせう)
   山門を潜れば迎え破芭蕉
敗荷(やれはす)  
   敗荷や風と別れる手が如し
破れ蓮(やぶれはす)
   足元をだんだんと見せ破れ蓮
敗荷(はいか)  
   風浚ふ茎だけ残り敗荷たち

蓮の實飛ぶ(はすのみとぶ)
   参禅や蓮の實の飛ぶ音聞こゆ
蓮の實(はすのみ) 
   風吹けば蓮の實が鳴りあちこちと
火祭(ひまつり)  
   火祭りやのの字を描く闇屏風
鞍馬火祭(くらまのひまつり)
   忙しくて鞍馬火祭けふのこと
逆髪祭(さかがみまつり)
   逆髪祭髪整えて境内へ
木の實落つ(このみおつ)
   木の實落ついよいよ寒くなりにけり
木の實降る(このみふる)
   音もなく木の葉の上や木の實降る
木の實雨(このみあめ) 
   袋が口拡げてみたし木の實雨
木の實時雨(このみしぐれ)
   傘もなく木の實時雨の山の道

木の實拾ふ(このみひろう)
   電気柵木の實拾ふか熊も出て
猿酒(さるざけ)
   猿酒や木道揺れて樵の目
樫の實(かしのみ) 
   樫の實や羽搏く風の落とすとは
椎の實(しひのみ) 
   椎の實を拾ふ根元に風強き
落椎(おちしひ) 
   落椎を袋片手にたずね行く
椎の秋(しひのあき)
   炒り鍋や音とかをりの椎の秋
椎拾ふ(しひひろふ)
   おとがいを入れず屋敷へ椎拾ふ
まてばじひ   
   まてばじひ回す長さのうまき兄
まてがし 
    實一つまてがしらしき木もありて

栗(くり)     
   栗の旗何本もあり露店あり
丹波栗(たんばぐり)
   丹波栗今年も親父フレッシュ便
山栗(やまぐり) 
   山栗のありか知られてとき競ふ
柴栗(しばぐり)  
   柴栗の届くころなり落ちる音
ささ栗(ささぐり)
   ささ栗や籠一杯の剥く無口
毬栗(いがぐり)  
   毬栗を返し開いて中身なし
落栗(おちぐり)  
   木漏れ日や落栗拾ふ我一人
栗拾ひ(くりひろひ)
   珈琲とブルーシートの栗拾ひ
焼栗(やきぐり)  
   焼栗やポンとはぜるか音だけか

栗山(くりやま)  
   ころころと坂を集まり栗の山
栗林(くりばやし) 
   栗林見知らぬ人の現れて
栗飯(くりめし) 
   籠重し夕餉栗飯母の味
団栗(どんぐり)  
   境内に団栗拾ふ子らの聲
櫟の實(くぬぎのみ)
   音のせぬ茅葺屋根が櫟の實
橡の實(とちのみ)
   一休み橡の實餅の蒸せるまで
胡桃(くるみ)   
   新聞紙力をこめて胡桃割る
榧の實(かやのみ) 
   榧の實や裂けて紫踏みし音
銀杏(ぎんなん)  
   銀杏や雨降る夜の傘に打つ

銀杏の實(いてふのみ)
   銀杏の實下から照らすレフのごと
棗(なつめ)   
   同窓会あの二粒が棗とは
棗の實(なつめのみ)
   棗の實一粒噛みし記憶あり
無患子(むくろじ)
   無患子を山門に置く子らの礼
菩提子(ぼだいし) 
   菩提子を糸を通して数珠の音
菩提樹の實(ぼだいじゅのみ)
   数珠作り菩提樹の實を集めた日
柾の實(まさきのみ)
   柾の實夕日が卵映しけり
檀の實(まゆみのみ)
   しなる幹引き寄せて採り檀の實
真弓の實(まゆみのみ)
   バックスイング遠く飛び行く真弓の實

衝羽根(つくばね)
   衝羽根や袋が中の当たりあい
一位の實(いちいのみ)
   一位の實毒女が如き赤の色
草の實(くさのみ)
   分け入れば待つは草の實ニッカズボン
いのこづち
   控えめで日当たり避けていのこづち
駒の爪(こまのつめ)
   ぶららこの柱のもとに駒の爪
藪虱(やぶじらみ)
   革靴や紐だけにつき藪虱
草じらみ(くさじらみ)
   野の掃除手甲にまつく草じらみ
稲刈(いねかり) 
   稲刈りや体験授業笛を待ち
田刈(たかり)
   幼子も田刈の人の数の内

収穫(とりいれ) 
   日曜日収穫が朝そぞろなり
刈稲(かりいね) 
   刈稲や家族総出が空の如
稲舟(いなぶね) 
   使われぬ稲舟はりに括られて
稲馬(いねうま) 
   稲馬の脚の伸びゆく夕の影
稲車(いねぐるま) 
   稲車短き距離を母が曳き
刈田(かりた)  
   植えた後下手な具合が刈田かな
刈田道(かりたみち)
   刈田道稲わら舞ひて風の道
落穂(おちぼ)  
   そこここに落穂を拾ふ風の中
落穂拾(おちぼひろひ)
   籠腰に落穂拾の一人かな

稲架(はざ)  
   通学路吐く息白さ稲架写し
稲掛(いねかけ)  
   稲掛や田んぼに屏風建ちにけり
掛稲(かけいね)  
   棚田にもちさき掛稲小さい田
稲扱(いねこき)  
   ど真ん中風に追われて稲扱ぬ
籾(もみ)    
   一斗升籾の重さや笑みこぼれ
籾干(もみほし)  
   雨もなき風のやさしき籾干ぬ
籾筵(もみむしろ) 
   取りこぼし一粒拾ふ籾筵
籾磨(もみすり)  
   夕まぐれ終わり終いと籾磨機
籾摺り唄(もみすりうた)
   高々と籾摺り唄の谷わたり

新藁(しんわら) 
    梯子掛け新藁収むあまの中
今年藁(ことしわら)
   屋根裏や太陽にをふ今年藁
藁塚(わらづか)
    マスゲーム距離を保ちて藁の塚
晩稲(おくて)  
   田面見え刈り終え晩稲伸びる畦
秋時雨(あきしぐれ) 
   秋時雨田んぼに誰もゐない朝
露霜(つゆじも) 
   生垣を揺すれば落ちて露が霜
水霜(みずじも) 
   水霜や落ち葉が色の濃さ増して
秋の霜(あきのしも)
   陽を受けて解けるに早き秋の霜
冬支度(ふゆじたく)
   冬支度斧音終い薪を積み

障子洗ふ(しやうじあらふ)
   突き破り障子洗ふおてつだい
障子貼る(しゃうじはる)
   障子貼る部屋の温度の上がりけり
七竃の實(ななかまどのみ)
   風吹けば七竃の實芝生埋め
栴檀の實(せんだんのみ)
   樹形なす栴檀の實の輝けり
あふちの實(あふちのみ)
   葉は舞えどしがみつき枝あふちの實
金鈴子(きんれいし)
   蒼天にちりばめて粒金鈴子
櫨の實(はぜのみ)・はじの實
   一陣の櫨の實の雨吹き付けり
櫨ちぎり(はぜちぎり) 
   櫨ちぎりブルーシートの変わる色
櫨買(はぜかひ)
   櫨買や空籠運び空模様

南天の實(なんてんのみ)・南天(みなんてん)
   いち早く紅きや増して實南天
梅擬(うめもどき)・梅嫌・落霜紅
   裸枝赤き連なり梅擬
茨の實(いばらのみ)
   茨の實花瓶が向こう日本地図
美男蔓(びなんかづら)・南五味子(きねかづら)・眞葛(さねかづら) 
   美男蔓ぴしりと決めて髪の艶
橘(たちばな)  
   橘や棘を見せつけ黄色の実
柑子(かうじ)
   風避けてひとつづつ分け柑子かな
蜜柑(みかん)・靑蜜柑(あおみかん)・蜜柑山(みかんやま) 
   昼花火下から聞こゆ蜜柑山
橙(だいだい) 
   靑まじり採る人もなく橙ぞ
朱欒(ざぼん)・うちむらさき
   でっかさに実の小ささや朱欒かな

佛手柑(ぶしゅかん)
   手招けど味の悪さや佛手柑
九年母(くねんぼ)
   垣根越し九年母垂るる通学路
金柑(きんかん)
   金柑を一つだけ喰ふ祖母の前
柚子(ゆず) 
   柚子を植ゑ米寿食すと意気高し
柚味噌(ゆみそ)・ゆずみそ・柚釜(ゆがま)
   油落つ登るかをりが柚味噌かな
萬年靑の實(おもとのみ)
   遠慮して庭の隅なる萬年靑の實
種瓢(たねふくべ) 
   三々七拍子叩き種瓢
種茄子(たねなす) 
   種茄子や畑の隅に残りおり
種採(たねとり)   
   シート敷鶏頭叩き種採りぬ

宗鑑忌(そうかんき)
   出会わして橋の真ん中宗鑑忌
秋深し(あきふかし)
   秋深し隣りがおならそっと出し
秋さぶ(あきさぶ)
   秋さぶやこむら返りの目覚めかな
深秋(しんしゅう) 
   深秋やトレッキングの友は来ず
冬近し(ふゆちかし)
   冬近し障子の穴が増えていて
紅葉(もみぢ)   
   風なくも紅葉舞い散る今朝の庭
夕紅葉(ゆうもみぢ)・むら紅葉(むらみみぢ)・下紅葉(したもみぢ)・紅葉川(もみぢがわ)・紅葉山(もみぢやま) 
   公園の散歩急ぐや夕紅葉
紅葉狩(もみぢがり)・紅葉見(もみぢみ)・観楓(くわんぷう)
   毛氈を敷けどそぞろな紅葉狩
紅葉鮒(もみぢぶな)
   底の見ゆ白き絹網紅葉鮒

黄葉(もみぢ)  
   黄葉包む外人墓地の染めて髪
照葉(てりは)・照紅葉(てりもみぢ)
   照紅葉殿立ち寄りし庄屋跡
雑木紅葉(ざふきもみぢ)
   寺出でて雑木紅葉の囲む道
柿紅葉(かきもみぢ)
   髪からむ二三孔あり柿紅葉
漆紅葉(うるしもみぢ)
   かぶれまい漆紅葉を避ける藪
櫨紅葉(はぜもみぢ)
   石段を染めて招くや櫨紅葉
銀杏黄葉(いてふもみぢ)
   黄葉して廟を示すや大銀杏
櫟黄葉(くぬぎもみぢ)
   櫟黄葉足跡隠し丸木橋
白膠木紅葉(ぬるでもみぢ)
   紅葉して散りかかり堂白膠木かな

錦木(にしきぎ)錦木紅葉(にしきぎもみぢ)
   我が庵錦木紅葉見頃なり
柞(ははそ)柞紅葉(ははそもみぢ)
   風に乗り柞紅葉の遊びかな
蔦(つた)・錦蔦(にしきづた)・蔦蘿(つたかづら) 
   白壁や波打つ蔦の染まりけり
蔦紅葉(つたもみぢ)
   蔦紅葉古刹の塀を飾りけり
草紅葉(くさもみじ)草の紅葉・草の錦・蓼紅葉
   三方原戦が跡へ草紅葉
野山の錦(のやまのにしき)
   病み伏せど野山の錦練るコース
紅葉且散る(もみぢかつちる)
   せせらぎや紅葉且散る岩水寺
鹿(しか):男鹿(をじか)・小鹿・さ男鹿・鹿の聲・妻恋ふ鹿・鹿笛
   鹿の聲本読み終えて枕元
猪(ゐのしし):野猪(やちょ)
   山の尾根走らず野猪が掘りて穴

崩れ簗(くづれやな)
   崩れ簗上流の過去せき止めず
残菊(ざんぎく):残りの菊・十日の菊
   気の早く残菊を刈る粋のなさ
末枯(うらがれ) 
   末枯や一つだけ揺れ烏瓜
柳散る(やなぎちる):散る柳
   区役所の句碑にかかるや散る柳
穭(ひつぢ)
   風ならい穭一斉お辞儀して
穭田(ひつぢだ) 
   一雨に穭田青くなりにけり
鶴来る(つるきたる) 
   雲途切れ陣形なして鶴来る
行秋(ゆくあき) 
   行秋や隣りの今宵ラーメンぞ
暮の秋(くれのあき)
   鐘一つ赤い実の揺れ暮の秋

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2/25/2020

美しい花の季語で 2月を詠む

 


枯蘆(かれあし)
    枯蘆飛ぶ凸凹道の軽トラよ
ブロッコリー
    ブロッコリー花芽を覆う油虫
枯葎(かれむぐら)
    枯葎去年の形ぞ残しけり
梅(うめ)
    暗闇や朧に浮かぶ梅がちる
満作(まんさく)
    満作を求めドライブ春を観る
菠薐草(ほうれんそう)
    菠薐草ポパイになれると肩の肉
紅梅(こうばい)
    紅梅や白梅のなき庭歩き
節分草(せつぶんそう)
    節分草落葉かき分け時来たり
黄梅(おうばい)
    黄梅や咲けども来ない御用聞き
春菊(しゅんぎく)
    春菊を入れていいかと問われしが
薺の花(なずなのはな)
    薺の花萎れてしまう文机
蕗の薹(ふきのとう)
    積む枯葉庭の隅出る蕗の薹
クロッカス(くろっかす)
    サフラン柄姉がミシンをワンピース
雪割草(ゆきわりそう)
    雪割草昔も咲くやこの土手に
椿(つばき)
     一本を囲む絨毯散り椿
クレソン(くれそん)
    堤下クレソンを摘む冷たき手
繁縷(はこべ)
    摘み草や鶏にもと繁縷かな
芹(せり)
    飛び越して芽吹く小川の芹を摘み
牡丹の芽(ぼたんのめ)
    菰かぶり待つは出る時牡丹の芽
海苔(のり)
    波しぶき海苔摘む舟や父と我
防風(ぼうふう)
    花粉散る防風林の風の色
榛の花(はんのはな)
    榛の花風にも負けず紅紫
山茱萸の花(さんしゅのはな)
    丸一本春黄金花光りけり
菫(すみれ)
    歌声や春野の郷に菫咲く
    (春野:タカラジェンヌゆかりの地)
犬ふぐり(いぬふぐり)
    踏まれても可憐に咲くや犬ふぐり
蒲公英(たんぽぽ)
    アメリカより咲くや蒲公英士幌へと
ミモザ(みもざ)
    アウターを一枚とらぬミモザ咲く
蓬(よもぎ)
    杵つけば草から餅へ蓬色
シクラメン(しくらめん)
    真夜中や真綿色するシクラメン

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6/14/2019

今日はチョンチョンだった

今日はチョンチョンだった

方言は知らぬが仏の話である。
恥ずかしく口に出せぬ言葉を平気ではないた時の話。

「お父さん何処へいらっしゃったんですか」
と、新婚ほやほやの息子の嫁が聞くので靴を脱ぎながら
「やまへ行ってきたが、チョンチョンだった。」
「そんな薄着で」
「その革靴で」
「ガラス張りんとこからみてたもんでなんにも寒くないよ」
「ガラスの張ってある山は何処にあります」
と、矢継ぎ早に質問してきた。
「あー、オートのこん、いやオートレースのこんだよ。あそこで取ってりゃあなあ、まあチョンチョンだでいいか。」
「なにがチョンチョンなんですか」
「チョンチョンって何ですか」
と又も問い掛ける。
「勝ち負けなし、プラマイゼロ、おあいこのこんだよ。」
と、応えながらチョンチョンに関わる若い頃のおもしろい話を思い出した。
 
紙を貼り合わせてはみ出した部分を鋏で切っている時の話である。
「ここんとこ鋏でチョンチョンと切ってけっこくしといて、俺ん こっち やっとくで」
「おー、チョンチョンとだな」
「そーだ、チョンチョンとな」
二人はすぐ隣に佐賀出身の課長がいたことと、チョンチョンがなにを意味するかを知っていた。
「おー、チョンチョンとぞ」
「そー、チョンチョンとな」
と、
「チョンチョン」を何度も繰り返していたら
「お前らいつまで下らんことを大きな声で話してる」
と、大きな怒鳴り声がする。
振り返ると顔を赤くした課長が恥ずかしそうな顔をして睨んでいた。
同様な言葉を浜松の方言で言えないしまして書くことなど恥ずかしくて出来ない。持つ意味も知らないため恥ずかしいことを平然と口に出してしまう方言が持つ地域性を意識したできごとだった。


 

6/13/2019

ちっともいごかんベンチ

ちっともいごかんベンチ 

方言が外国語以上に通じない話である。
北海道へ仕事で行った時丸太で作ったベンチが邪魔になり現地の人と運んだ時の大笑いした話。
 
浜松の人:しょうがないなあ、ふたりで運ばまいか。
兄ちゃん:うん。
浜松の人:ちょっと重そうだがいいか、はこべるか?
兄ちゃん:うん。
浜松の人:おれんこっちさげるでそっちもてよ。
兄ちゃん:-----。
浜松の人:さあさげるか。そっちさげよよー。せえーの。
兄ちゃん:-----。
浜松の人:なにやってるだあ。さげにゃあだめじゃんか。
兄ちゃん:-----。
浜松の人:さあさげるぞ。せえーのー。
兄ちゃん:-----。
     
持って上げようとするが直ぐ降ろしてしまう。
浜松の人:なにやってるだあ。力ん無いのか?そんないい体してるだに。
     もたもたしてちゃかんで、はやくやるか。
浜松の人:さあさげるぞ。せえーのー。
兄ちゃん:-----。
     
又も降ろしてしまう兄ちゃんにむかって
浜松の人:そっちをさげにゃあもってけんだで。
     
と、言いながらはっと気がついた。
浜松の人:なんだあ、さげるってゆってるもんで、降ろいたんだなあ。あっはははは。
     
わるかった。さげるっちゅうのは上げるちゅうこんさ。さあ、あげるぞ。
浜松の人:せえーのー。
兄ちゃん:せえの。
 
 
やっとのこんでベンチを運べたっちゅう話。
 

苦しい思い出

苦しい思い出
小学1~2年生の頃作文が苦手だった僕が特に、
「誰かさんが言った言葉を書く時は「かぎ括弧」をつけて「と テン いいました マル」と書くのよ」
と、教えられてからはどう書けばいいのか苦しんだものだった。

例:朝先生に「おはよう」と、いいました。
と、書くところを

例:あさせんせいに「おはよう」と、ゆいました。
と、常用している言葉が頭の中を占拠して『ゆいました』とついつい書いてしまい消しゴムを出して『いいました』と、書き直していた。

『ゆった』『ゆわん』『ゆやあいい』『ゆいな』『ゆう』『ゆえ』『ゆをう』などという言葉が作文の時間に大いに悩ました。
辞典を使い始めてからはますます混乱が深まり『ゆう』とか『ゆい』を調べても出てこないので仕方なく『云う』を『言う』の替わりに使っていた。手書きで書いていたので『言う』を行書で書いている気分で『云う』と書いて満足していた。
口語文と文語文の違いを知り、『ゆう』は口語で、『言う』は文語と大きな勘違いに満足して納得していた。

浜松の方言を調べはじめてから小学校での作文の時間にいつも苦しい思いをさせていたのは方言であったのが解かった。

6/12/2019

あらいあげ

あらいあげ  

浜松では食後に奥さん達がする食器洗いをして片付けをすることを
『あらいあげ』と言うが共通語ではなんと言うのだろうか?

調べたところ「食器を洗う」とか「後片付け」と、言い
「後で食器洗っておいて~」とか「片付け頼むね~」
と、言うようで、けっして
「あらいあげしといて」とは言わないようだ

推理小説の警察が出てきて
「洗い終える」とか調べて暴くときに
「洗い上げる」と使うらしいが、
”食後の食器洗いから後片付け”までをひっくるめて
『あらいあげ』と言うのは浜松の方言だ。
「あらいあげしちゃってからいくでちーっとまってて」とか、
「なんにもしやへんだであらいあげくらいしっせえ」などと、
『あらいあげ』は現在も使われている。


 昔は洗濯も盥と洗濯板で冷たい水に手を突っ込んでしていたのが現代では衣類をいれ蓋をして特に注意しなくて良いものはスタート釦を押すだけで済み盥や洗濯板がほとんどの家に無くどんなものかも知らぬ子供も多い。

食器洗い器が多くの家庭に設置され、洗剤を含んだスポンジでする食器洗いをさす『あらいあげ』と言う言葉も盥や洗濯板と同じように死語になるのだろうか?

とんで来い

とんで来い
デパートの屋上に回転飛行機や汽車ぽっぽがある頃の東京に住んでるいとこの話である。子供を連れて来たので唯一の遊園地のデパートの屋上へ行き子供達を遊ばせている時に友達が隣のビルの屋上に母親らしき人と連れ立って来ているのを見つけ大きな声で呼び合っていた。
「○○ちゃーん。ちゃっととんで来なー」
「わかったー」
と言い後ろに下がった。
「えー。あのここの間をとぶの」
と、思っていたら、暫くして向うのビルにいた髪の長い少女が後ろから額に汗を流しながらやって来た。
「おまちどうさま。」と。

6/11/2019

とんでる生徒たち

とんでる生徒たち
研修に来た学生がスリッパに替えてこの学校はとキョロキョロすると、板壁に注意書が貼ってある何処にでもあるがその文章を読んでびっくりした。
「ローカでとんではいけません」と、大書きしてある。
「この学校はスーパーマン育成スクールか、それともパーマンが通ってる」と、疑問を抱きながら歩いていると、生徒が横をバタバタと新しい先生の顔を窺いながら走り抜けて行く。
「コラー、ローカをとんじゃいかんちゅうのがわからんかー」
と、迎えに出た先生が怒鳴りつけていた。
2005/09/28 15:09