9/21/2021

俳句手帖 2019-10



10/1
白秋(はくしゅう)
   静けさや白秋の夜聞く汽笛
錦秋(きんしゅう)
   音もなく錦秋の苑葉ぞ光り
晩秋(ばんしゅう)
   晩秋の一つ家集う筆自慢
十月(じゅうがつ)
   十月や我が身に授く世の重き
長月(ながつき) 
   長月の半纏の裾ほつれけり
寒露(かんろ)  
   水鳥の潜りて食みし寒露の日
10/2
秋の暮れ(あきのくれ)
   道ひかる草の実飛ばす秋の暮れ
秋の夜(あきのよる)
   戸を閉めて一部屋集う秋の夜
身に入む(みにしむ)
   父居ぬと夕餉身に入む席ひとつ
秋寒(あきさむ) 
   秋寒や雨戸を閉めるせわし音
そぞろ寒(そぞろさむ)
   云わずとも布団がせかすそぞろ寒
10/3
漸寒(ややさむ)
   漸寒しつるり滑るはだし下駄
うそ寒(うそさむ)
   祭り間近床屋へ後がうそ寒し
肌寒(はださむ)
   肌寒し十時の光よこになり
朝寒(あささむ)
   朝寒や車の息も白くなり
夜寒(よさむ) 
   狭き部屋夜寒は火鉢各々が
霜降(そうこう) 
   息白し霜降る朝の固き砂利
10/4
秋の暮れ(あきのくれ)
   道ひかる草の実飛ばす秋の暮れ
秋の夜(あきのよる)
   戸を閉めて一部屋集う秋の夜
身に入む(みにしむ)
   父居ぬと夕餉身に入む席はあり
秋寒(あきさむ)
   秋寒や雨戸を閉めるせわし音
そぞろ寒(そぞろさむ)
   云わずとも布団がせかすそぞろ寒
10/5
冷まじ(すさまじ)
   冷まじきごいさぎが立つ水なき田
秋深し(あきふかし)
   秋深し隣りの家が動く夜
行く秋(ゆくあき)
   行く秋を追うが如くの落ちる柿
秋惜しむ(あきおしむ)
   紅い花囲むスタジアム秋惜しむ
冬隣(ふゆどなり)
   温暖化雲のかたさま冬隣
10/6
秋晴(あきはれ)
   秋晴や運動会があと黙す
秋日和(あきびより)
   秋日和子犬腹ばい庭を占め
秋の声(あきのこえ)
   風静かくぐる草むら秋の声
秋の空(あきのそら)
   声響く万国旗揺る秋の空
秋の雲(あきのくも)
   いつ見ても明日を思わす秋の雲
10/7
鰯雲(いわしぐも)
   豊漁の予感も空し鰯雲
後の月(のちのつき)
   約束を果たしてくれぬ後の月
十三夜(じゅうさんや)
   明日よりと輝き上り十三夜
秋風(あきかぜ)
   秋風や草の波立ち絮の舞う
色無き風(いろなきかぜ)
   浜名湖や色無き風がわたる朝
10/8
爽籟(そうらい)
   爽籟やウッドカーテンを上に揚げ
秋霖しゅうりん
   秋霖や関所が跡で砂利の音
秋時雨(あきしぐれ)
   秋時雨社映した水溜り
秋雪(秋雪)
   不作にも秋雪の白青き嶺
露時雨(つゆしぐれ)
   急ぐ足裾を濡らすか露時雨
露寒(つゆさむ)
   露寒やカバン揺らして早歩き
10/9
露霜(つゆじも)
   露霜を避けて通れぬ裏の道
秋の霜(あきのしも)
   身震ひて微かに白し秋の霜
釣瓶落し(つるべおとし)
   戯れて釣瓶落して水を汲む
秋の山(あきのやま)
   収穫を見せびらかして秋の山
山装ふ(やまよそおふ)
   温暖化山装ふ日バスは来ず
10/10
秋の野(あきのの)
   忙し世としばし訪ぬ秋の野へ
秋園(しゅうえん)
   秋園や鳥囀りぬ日笠さし
落とし水(おとしみず)
   静けさや水琴如し落とし水
刈田(かりた)
   待ちわびた刈田がベースホームラン
穭田(ひつじだ)
   穭田や風に追われし靡きけり
10/11
秋の川(あきのかわ)
   絹網をさして鮒待つ秋の川
秋の海(あきのうみ)
   輸送船左へ静か秋の海
浅漬大根(あさづけだいこん)
   浅漬大根つれあいが味懐かしき
菊膾(きくなます)
   父が好き母残す味菊膾
氷頭膾(ひずなます)
   氷頭膾色鮮やかも酸いと知り
10/12
柚餅子(ゆべし)
   土産にはふるさとの味柚餅子あり
柚味噌(ゆみそ)
   食欲を誘ふ香りが柚味噌かな
新蕎麦(しんそば)
   新蕎麦や打つと招きし客二人
新米(しんまい)
   新米を載せて自転車重きけり
新麹(しんこうじ)
   切り溜めや花咲く香り新麹
10/13
夜食(やしょく)
   夜食にも息子はマンガ読みふけり
零余子飯(むかごめし)
   零余子飯語るふるさと家もなし
栗飯(くりめし)
   行事とす栗飯の栗買いに行く
橡餅(とちもち)
   橡餅を搗く石臼の重きこと
干柿(ほしがき)
   待ちきれぬ甘き干し柿歯の裏へ
10/14
新酒(しんしゅ)
   新酒でき知らす杉玉つるす朝
古酒(こしゅ)
   古酒には古酒の趣き有ると知る
温め酒(ぬくめざけ)
   野暮抜けぬ息子嗜む温め酒
菊枕(きくまくら)
   野に摘みぬ母にもおくる菊枕
火恋し(ひこいし)
   火恋しや鞄持つ手の冷たさよ
10/15
秋の炉(あきのろ)
   きみしじま秋の炉囲む茶の香り
風炉名残(ふろなごり)
   短冊の軸に替えたる風炉名残
冬支度(ふゆじたく)
   父建てることり垣根や冬支度
松手入(まつていれ)
   五之三と枝を払えと松手入
案山子(かかし)
   稲のない田んぼに残る案山子かな
10/16
鳴子(なるこ)
   鳴子鳴ろ俺が頭と紐引く童
鳥威(とりおどし)
   作れども雀遊ぶや鳥威
脅し銃(おどしづつ)
   目覚ましやけふは不要と威し銃
鹿火屋(かびや)
   鹿火屋にて便りを書かぬ江戸の友
鹿垣(ししがき)
   山の枝鹿垣作り刈り集め
10/17
稲刈り(いねかり)
   稲刈りの三時に口へパンの味
稲架(はざ)
   稲架作り藁より重き丸太かな
新藁(しんわら)
   新藁に残れるぬくみ山と積む
藁塚(わらづか)
   藁塚をラガー配置に積み上げて
夜なべ(よなべ)
   オールナイト落すボリユーム夜なべかな
10/18
砧(きぬた)
   力なく姉は振り上げ砧打つ
新煙草(しんたばこ)
   棚の束光遮り新煙草
新綿(しんわた)
   種ぽろり新綿ふわり母が繰る
新絹(しんきぬ)
   あつあつと新絹の糸繰り出して
種採(たねとり)
   種採りぬ根元に残り次の春
菜種蒔(なたねまく)
   柔肌の如き畑地へ菜種蒔く
萩刈る(はぎかる)
   萩刈りて見上げる山に雲もなく
菱取る(ひしとる)
   波静か菱取り舟が跡伸びる
蘆刈(あしかり)
   蘆刈を追いかけ鳥のせわしこと
葦火(あしび)
   むこうにも葦火の煙立ち昇り
10/19
桑括る(くわくくる)
   皮採りと桑括る束軽きかな
秋繭(あきまゆ)
   農業祭秋繭を選り並ぶ卓
初猟(はつりょう)
   初猟や散弾銃屋根を打つ
崩れ簗(くずれやな)
   台風や時期を早めて崩れ簗
鮭打(さけうち)
   鮭打の極意極めていくら食う
鮭番屋(さけばんや)
   温し石あと少しなり鮭番屋
菊花展(きくかてん)
   菊花展すぐに見つかる母の作
菊人形(きくにんぎょう)
   菊人形顔に似合わぬ色使い
茸狩(きのこがり)
   去年採りし根元荒らされ茸狩
紅葉狩(もみじがり)
   紅葉狩せわしく歩き上を見ず
10/20
芋煮会(いもにかい)
   庄内へ匂いかぎたし芋煮会
重陽(ちょうよう)
   重陽の風母の自慢を倒しけり
登高(とうこう)
   登高す汗の元なる水ぐびり
赤い羽根(あかいはね)
   赤い羽根季節替わりを胸につけ
体育の日(たいいくのひ)
   特異日を体育の日と決め五輪
鹿の角切(しかのつのきり)
   麻酔銃鹿の角切静かなり
べったら市(べったらいち)
   麹の香べったら市の帰りかな
鞍馬の火祭(くらまのひまつり)
   火祭や汗照らしだす松明よ
時代祭(じだいまつり)
   時代祭侍烏帽子傾きて
菊供養(きくくよう) 
   くらがりに紛れゆきたく菊供養
10/21
去来忌(きょらいき)
   去来忌や未だ渋柿ぞ混じりたり
ハロウィン 
   ハローウィン昼の仮装や厚化粧
猪(いのしし)
   軽トラックのびた猪触りたし
馬肥ゆる(うまこゆる)
   馬肥ゆる流鏑馬神事かりだされ
渡り鳥(わたりどり)
   屋根覆ふ今年も来たか渡り鳥
鷹渡る(たかわたる)
   鷹渡る門の木とまる鋭き目
坂鳥(さかどり)
   坂鳥が来たと騙され朝仕度
稲雀(いなすずめ)
   稲雀飛竜がごとし飛びまわり
鵯(ひよどり) 
   鵯や窓辺が枝へけふは来ず
鶫(つぐみ)
   鶫鳴く霞網を張る林なり
10/22
連雀(れんじゃく)
   冠毛やせわしく揺らし連雀よ
獦子鳥(あとり)
   風揺らす獦子鳥さえずり葦の中 
頭高(かしらだか)
   武蔵野へ林を越して頭高
鴿(しめ) 
   鴿狙う空気銃は空を打つ
鶲(ひたき) 
   かちかちと鴿は何処屋敷跡
田雲雀(たひばり)
   田雲雀や葦の河原も風強し
鵲(かささぎ) 
   鵲橋横風に耐え渡り切り
鴇(とき) 
   昼下り刈田に鴇ぞ舞降りぬ
雁(かり) 
   雨あいの月に入る雁一羽づつ
雁行(がんこう)
   ドローン撮る雁行型にある我が家
10/23
初鴨(はつがも)
   初鴨や湖の波たゆく眼を閉じぬ
鴨来る(かもきたる)
   鴨来る水上に立ち羽ばたきぬ
鶴来る(つるきたる)
   双眼鏡山のは彼方鶴来る
落鮒(おちぶな)
   笹舟や落鮒すくう川下る
紅葉鮒(もみじぶな)
   味噌にあうことこと煮込む紅葉鮒
木の葉山女(このはやめ)
   浮かぶ葉をかき分け背鰭木の葉山女
落鰻(おちうなぎ)
   すだれ屋根ベンチに埃落鰻
江鮭(あめのうお)
   瀬田の堰満水染めし江鮭
江鮭(あきがつお)
   江鮭夕日と染める浮御堂
秋鯖(あきさば)
   酢にしめて秋鯖食わす里帰り
10/24
鰯(いわし)
   料理下手鰯が刺身捌けなく
秋刀魚(さんま)
   秋刀魚焼く味が左右塩加減
花咲蟹(はなさきがに)
   閉じられぬ花咲蟹が子持ち腹
残る虫(のこるむし)
   皆去れど余韻に浸る残る虫
蝗(いなご)
   蝗捕るげてもの喰えず塵場行
浮塵子(うんか)
   浮塵子よぶ灯りも絶えて田も暗く
蓑虫(みのむし)
   絶命危惧種すでに蓑虫仲間入り
栗虫(くりむし)
   栗の虫毬鬼渋に守られし
秋の蜂(あきのはち)
   巣近し羽音さびしく秋の蜂
木犀(もくせい)
   木犀の香障子むこう控え待ち
10/25
金木犀(きんもくせい)
   金木犀の林七十七里むせかえる
銀木犀(ぎんもくせい)
   銀木犀財布にしたし犀の肌
洎夫藍(サフラン)
   洎夫藍や瓶に栓して売られおり
芙蓉の実(ふようのみ)
   芙蓉の実咲し謳歌の面影よ
木瓜の実(ほけのみ)
   木瓜の実や転がる先の坂きびし
水木の実(みずきのみ)
   水木の実熟女が襟ほくろあり
椿の実(つばきのみ)
   熟せどもけして落ちまい椿の実
枳橘の実(からたちのみ)
   枳橘の実目立たぬように匂いけし
梔子の実(くちなしのみ)
   梔子の実やまい癒して黄膨れて
藤の実(ふじのみ)
   藤の実や棚から上が透かし彫り
10/26
秋果(しゅうか) 
   ただいまに留守番電話秋果あり
柿(かき)
   柿食えど鐘は聞こえぬパチンコ屋
渋柿(しぶがき)
   渋柿や季節が終り目出番なり
熟柿(じゅくし)
   指先や熟女食らう熟柿かな
林檎(りんご)
   籾探る林檎の色を指でみる
紅玉(こうぎょく)
   紅玉や味の歴史に燦然と
無花果(いちじく)
   フォーク染む無花果ケーキ喉をこし
胡桃(くるみ)
   胡桃パン試食の残りバイト先
鬼胡桃(おにぐるみ)
   細動に耐え握りしめ鬼胡桃
沢胡桃(さわぐるみ)
   登り着く食べられぬとは沢胡桃
10/27
酢橘(すだち)
   薬指昨日刺されし酢橘棘
柚子(ゆず) 
   豊作と柚子の隙間にはいる風呂
柑子蜜柑(こうじみかん)
   久々の照日一杯柑子摘む
金柑(きんかん)
   金柑の皮の旨さが年ごとに
オリーブの実(オリーブのみ)
   オリーブの実あれどこの木は何の木か
檸檬(レモン)
   みかん畑片隅一本檸檬かな
榲桲(マルメロ)
   葉が落ちて榲桲並木丸い影
榠樝の実(かりんのみ)
   流行の風邪を止めるか榠樝の実
茘枝(れいし)
   中華料理冷凍茘枝がじゃりじゃりと
冬瓜(とうがん)
   種まかぬうちの冬瓜木を登り
10/28
紅葉(もみじ)
   ひとはみな紅葉背にしてはいポーズ
照葉(てりは)
   照葉染め紅いセーター色増して
照紅葉(てりもみじ)
   築山と石橋染める照紅葉
紅葉かつ散る(もみじかつちる)
   夕並木紅葉かつ散るボンネット
黄落(こうらく)
   黄落や五十路迎えた友が逝く
雑木紅葉(ぞうきもみじ)
   森林公園雑木紅葉を踏み散歩
楓紅葉(かえでもみじ)
   古寺まもる楓紅葉が鐘の脇
漆紅葉(うるしもみじ)
   かぶれると漆紅葉が毒々し
櫨紅葉(はぜもみじ)
   櫨紅葉疲れ目休め轆轤繰る
10/29
銀杏黄葉(いちょうもみじ)
   銀杏黄葉麓いきたし窓をこし
柞紅葉(ははそもみじ)
   柞紅葉ハンドルは向く仕事すて
柿紅葉(かきもみじ)
   柿紅葉永久の別れあから顔
七竈(ななかまど)
   七竈葉を脱ぎ全て赤を見せ
銀杏散る(いちょうちる)
   銀杏散る車も速度上げ抜けぬ
名の木散る(なのきちる)
   抗へど押し寄せる年名の木散る
色変えぬまつ(いろかえぬまつ)
   色変えぬまつ私も変えず来るをまつ
新松子(しんちぢり)
   主なき庭にも青く新松子
五倍子(ふし)
   大雨と崖崩れあと木五倍子咲く
木の実(このみ)
   真夜中や寝間の庇に木の実落つ
10/30
団栗(どんぐり)
   団栗や袴をやにわ外す昼
椎の実(しいのみ)
   誰見せる缶の椎の実一人っ子
菩提子(ぼだいし)
   菩提子の実翼に載りて遠き地へ
榧の実(かやのみ)
   榧の実や将棋勝負駒の音
無患子(むくろじ)
   声かける無患子が音羽根と飛び
銀杏(ぎんなん) 
   境内の自販機の下銀杏あり
紫式部(むらさきしきぶ)
   上品に紫式部実を熟し
破芭蕉(やればしょう)
   廃寺へ誰ぞ植えしか破芭蕉
残菊(ざんぎく)
   皆枯れど色度いよいよ残菊
落穂(おちぼ)
   誰も居ぬ落穂拾いが風に負け
10/31
落花生(らっかせい)
   振り落とす土に混じらぬ落花生
敗荷(やれはす)
   敗荷や曲がり葉先は地につかず
末枯(うらがれ)
   末枯の野一つ家があり歩く先
萱(かや) 
   萱をさす趣きも無き我が庵
郁子(むべ) 
   郁子みつけ身をほぐしつつ登る山
美男葛(びなんかずら)
   美男葛雌花雄花が出合い待つ
牛膝(いのこずち)
   野原ゆく足を離さじ牛膝
草虱(くさじらみ)
   草虱赤い手甲にハート型
吾亦紅(われもこう)
   想い出す顔も忘れし吾亦紅
烏瓜(からすうり)
   照らし出す夕日が紅く烏瓜
茸(きのこ)
   五種まぜてけふは特別茸飯
松茸(まつたけ )
   松茸や杉の葉の上寝そべりし
湿地(しめじ)
   ばらばらと湿地ほぐして鍋の湯気
椎茸(しいたけ)
   こんこんと椎茸菌が打ち込まれ




0 件のコメント:

コメントを投稿