9/21/2021

俳句手帖 2020-07

俳句手帖 2020-07



朱夏(しゅか)    
    おむつ替え持ち上げる初めての朱夏
晩夏(ばんか)    
    持ち替えるバットから鉛筆へ晩夏
水無月(みなづき)  
    堰越えて水無月流る水の音
梅雨明け(つゆあけ) 
    梅雨明けと遠く雷届きけり
冷夏(れいか) 
    冷夏でも手拭絞る機仕事
炎昼(えんちゅう) 
    炎昼や撒けども消えるバケツ水
夏の夕(なつのゆう)
    アスファルト尻の暑さが夏の夕
夏の夜(なつのよる) 
    夏の夜兄はお化けを知りもせず
土用(どよう) 
    毒針で土用の鰻いかばかり
盛夏(せいか)  
    工場の窓全開に盛夏かな
三伏(さんぷく)  
    三伏の朝礼の列眩し顔
極暑(ごくしょ)  
    優勝旗今年は出ない極暑の日
夏深し(なつふかし)
    夏深し盥に沿いて丸くなり
夏の果(なつのはて) 
    玄関へ虚無僧の立つ夏の果
秋近し(あきちかし)
    秋近し山の風車の早きなり
夜の秋(よるのあき)
    描き終えし絵手紙を出す夜の秋
雲の峰(くものみね)
    高圧線安全ベルト雲の峰
入道雲(にゅうどうぐも)
    北の窓ひねもす見たり入道雲
白南風(しらはえ)  
    白南風や上へ上へと牛を追ひ
朝凪(あさなぎ) 
    朝凪のわずかな時間逆さ富士
夕凪(ゆうなぎ) 
    夕凪に浮き輪浮かべて待つ夕餉
戻り梅雨(もどりつゆ)
    窓向こう傘も乾かぬ戻り梅雨
夕立(ゆうだち) 
    夕立や傘持ち妹が靴置き場
喜雨(きう)  
    さつまいも一気に太る喜雨迎ふ
雲海(うんかい) 
    雲海を従え城の太鼓鳴り
御来迎(ごらいごう)
    霧出でし拝めし今朝の御来迎
朝曇(あさぐもり)
    朝曇折り畳み傘持つ持たぬ
夕焼(ゆうやけ)
    夕焼や股を開いて吾子が影
日盛(ひざかり)
    日盛や木陰人ゐぬ過疎の村
西日(にしび) 
    四畳半日除けも抜きて西日さす
炎天(えんてん)
    炎天や掛け声もなく井戸掘りぬ
油照(あぶらでり)
    油照画用紙濡れて肘の跡
片陰(かたかげ)
    片陰や円板頼りバスを待つ
旱(ひでり) 
    旱天に芋の葉小さくなりて待つ
赤富士(あかふじ) 
    赤富士やラヂオ体操一列に
雪渓(せっけい) 
    雪渓の照り返し強き黒い靴
お花畠(おはなばたけ)
    雲上のお花畠を掛け下り
土用波(どようなみ)
    土用波先行くボート見え隠れ
夏の潮(なつのしお)
    運び込む海月姫も蟹も夏の潮
赤潮(あかしお) 
    一条に沖に伸びゆき赤い潮
青田(あおた) 
    一望の棚田青田にじわじわと
田水沸く(たみずわく)
    田水沸く背茣蓙は覆ふ蒸すゾーン
泉(いずみ)  
    こわごわと泉を掬ふ小さき手
清水(しみず)
    鉄管や噴き出る清水歯にしみて
滴り(したたり) 
    手拭を絞るしたたり足の元
滝(たき)  
    マイナスイオン時間忘るる滝の前
羅(うすもの) 
    羅や粋に着こなし短冊に
>甚平(じんべい) 
    甚平や夜道ふらつく家遠し
浴衣(ゆかた) 
    夕涼みチョンチョン絣浴衣着て
白服(しろふく) 
    白服の眩しききみが二の腕よ
白絣(しろがすり) 
    白絣兵児帯〆て下駄の音
アロハシャツ 
    蛍光色アロハシャツが似合うひと
海水着(かいすいぎ)
    庭で焼く海で泳がぬ海水着
サングラス 
    サングラスとればおじさん恵比須顔
日傘(ひがさ) 
    田んぼ道日傘の美人遠きかな
瓜もみ(うりもみ)
    瓜もみや母の気分が酢の具合
茄子漬(なすづけ)
    茄子漬や鋳物の形も茄子如し
鱧の皮(はものかわ)
    酒飲みたし好物買ひに鱧の皮
水貝(みずがい)
    コリコリと水貝を噛む吾子の頬
船料理(ふなりょうり)
    波音とネオンの揺れや船料理
沖膾(おきなます)
    錆包丁手さばき早し沖膾
土用鰻(どよううなぎ)
    滋養へと土用鰻を釣りに行き
土用蜆(どようしじみ)
    水は澄み土用蜆の川の洲へ
泥鰌鍋(どじょうなべ)
    蓋踊る酒に酔わせて泥鰌鍋
夏料理(なつりょうり)
    山椒を添えてぴりりと夏料理
冷奴(ひややっこ)
    冷奴鍋を抱えて豆腐屋へ
鮓(すし)  
    鮓桶で初めて作りちらし鮓
水飯(すいはん) 
    水飯やまつわり奥歯攻めにけり
冷索麵(ひやそうめん)
    冷索麵茹でる加減はアルデンテ
冷麦(ひやむぎ) 
    冷麦やこれは何処だとざるの底
葛切(くずきり)
    葛切やするりと逃げり漆箸
白玉(しらたま)
    白玉や昔のことを思い出し
ゼリー   
    買物籠ゼリーを入れて妻の顔
蜜豆(みつまめ)
    蜜豆を突っつき談す甘太郎
水羊羹(みずようかん)
    水羊羹急ぎ吸い込む皿の縁
心太(ところてん)
    心太おばさんどっと突き出して
サイダー 
    サイダーや泡の消えるを待つは吾子
氷水(こおりみず)
    ハーフタイム一気飲みする氷水
アイスクリーム
    アイスクリーム指は舐めなくしたり顔
ビール 
    水を断ち夕餉の滲みる生ビール
梅干し(うめぼし) 
    雨あがり梅干しを干す縁台に
梅酒(うめしゅ)
    梅酒漬ぐ飲み頃記してボケ防止
冷酒(れいしゅ)
    喉に染む今夜一口冷酒かな
夏館(なつやかた)
    丸窓を開けて満月夏館
夏灯し(なつともし)
    古書店主俳歴語り夏灯し
夏座敷(なつざしき)
    滝の音障子外して夏座敷
噴水(ふんすい) 
    噴水を日長眺めて若き頃
夏座布団(なつざぶとん)
    夏座布団手漕ぎて滑り大目玉
香水(こうすい)
    この句よりただよふ香水ゐるが如
寝茣蓙(ねござ) 
    藺のかをりすつと昼寝に寝茣蓙かな
花茣蓙(はなござ)
    花茣蓙を廊下の隅へ熱き風
暑気払(しょきばらい)
    暑気払十軒はしご酒の味
冷房(れいぼう) 
    古は「冷房あり」で飛び込みぬ
花氷(はなごおり) 
    角堅したてたばかりの花氷
冷蔵庫(れいぞうこ)
    夜の人見事平らげ冷蔵庫
扇(おうぎ)
    せわしげな扇のリズム終ひけり
団扇(うちわ) 
    青竹に切り込みいれて団扇かな
扇風機(せんぷうき)
    扇風機畳の埃客にやり
風鈴(ふうりん)
    風鈴や今年はいつまで鳴らすやら
釣忍(つりしのぶ) 
    釣忍廊下も庇も無い館
走馬灯(そうまとう)
    走馬灯忙し回れど偲ぶ夜
虫干(むしぼし) 
    虫干や絹が黄色がいや増して
曝書(ばくしょ) 
    字くずし辞典父の一冊曝書かな
打水(うちみず) 
    街道へ打水をする人のいて
シャワー 
    プールよりシャワーが嫌い走る如
早苗饗(さなぶり)
    早苗饗や今宵を思ひ足の泥
草刈(くさかり)
    いやいやでたった一人の草刈す
干草(ほしくさ) 
    干草やかをりを包むふかふかと
芝刈(しばかり) 
    空たかし畦の芝刈田にひとり
藍刈る(あいかる)
    汗まみれ手甲も絞り藍を刈る
干瓢剥く(かんぴょうむく)
    くるくると干瓢を切らず剥くかな
虫送り(むしおくり)
    声合わせ童の列の虫送り
鵜飼(うかい)
    括られて自由望めぬ鵜飼かな
水中眼鏡(すいちゅうめがね)
    念願の水中眼鏡潜り込み
魚簗(やな)
    水泡と銀輪跳ねて魚簗の上
烏賊釣(いかつり)
    水平線烏賊釣船が灯す昼
避暑(ひしょ) 
    避暑の先最高気温更新す
夕涼み(ゆうすずみ)
    新しき縁台の上夕涼み
船遊(ふなあそび)
    船遊岸辺の二人肴かな
ボート 
    掛け声を響かせ二人ボート漕ぎ
ヨット 
    上げる帆や錨も引いて進みだし
サーフィン
    サーフィンや丘で眺める日焼け顔
登山(とざん) 
    夏休み今年は登山剥ける顔
ケルン 
    我が影を霧に映してケルン立て
キャンプ 
     にわか雨キャンプの夜の忙しさよ
バンガロー
    バンガロー去年の匂ひがまだ消えず
泳ぎ(およぎ)
    立泳ぎ一字も書けぬ扇かな
プール 
    プールある景色を眺むドローンよ
海水浴(かいすいよく)
    松の下海水浴を眺めおり
砂日傘(すなひがさ)
    遠目より脚だけ見せて砂日傘
夜店(よみせ) 
    カーバイトお面いきいき夜店かな
西瓜割(すいかわり)
    楽しさは振りかぶる迄西瓜割
野外演奏(やがいえんそう)
    夜空まで野外演奏人を呼び
夏枯(なつがれ)
    夏枯や大通りにも人一人
ナイター 
    ナイターや芝生の緑ストレッチ
裸(はだか) 
    他の草を裸の男痒くなし
素足(すあし)
    ぺたぺたと廊下を鳴らし素足かな
端居(はしい)
    ドラフト音けふは聞こえし端居かな
髪洗ふ(かみあらう)
    病む妻へ揉み柔らかく髪洗ふ
汗(あせ)
    工場は遥かに遠き伝ふ汗
日焼(ひやけ) 
    水練を休む友あり日焼けして
昼寝(ひるね)
    昼寝する親父の腹の高低差
暑気中り(しょきあたり)
    完熟を暑気中り避け母出さず
夏痩(なつやせ)
    夏痩やベルトが丸く胴を巻き
日射病(にっしゃびょう)
    悪ガキは帽子もかぶらず日射病
暑中見舞(しょちゅうみまい)
    たえこより暑中見舞を友が知り
夏休(なつやすみ)
    宿題を終えて迎える夏休み
帰省(きせい)
    帰省する友リクエストホルモン屋
林間学校(りんかんがっこう)
    雉が飛ぶ林間学校始まり
海の日(うみのひ)
    海の日や白い帽子が一列に
川開き(かわびらき)
    日が暮れて届く花火や川開き
山開き(やまびらき)
    山開き司会の声も吸い取られ
巴里祭(ぱりさい)
    巴里祭や手を拡げ練るパリの街
夏芝居(なつしばい)
    夏芝居手拭を巻く裏方
七月場所(しちがつばしょ)
    七月場所テレビ画面の団扇揺る
朝顔市(あさがおしち)
    朝顔市粋に一鉢下げ帰り
鬼灯市(ほおずきいち)
    鬼灯市売れ残りなしコロナ除け
四万六千日(しまんろくせんにち)
    四万六千日善根を積み得る功徳
野馬追(のまおい)
    野馬追や花火一発馬を繰り
那智火祭(なちひまつり)
    那智火祭色あかあかと白き滝
河童忌(かっぱき)
    河童忌や全集遺し戦地へと
露伴忌(ろはんき)
    露伴忌や雨雲の上塔の先
蝙蝠(こうもり)
    蝙蝠やコロナの元はきみ運び
守宮(やもり)
    祢宜の声守宮現り夏祓
蜥蜴(とかげ)
    木の洞や二つの光蜥蜴の目
羽抜鳥(はぬけどり)
    間に合わぬ飛ぶに飛べない羽抜鳥
青葉木菟(あおばずく)
    鎮守の森動く夕闇青葉木菟
老鶯(ろうおう)
    静けさや老鶯の鳴きみかん山
翡翠(かわせみ)
    翡翠や光の粒の沈む淵
鵜(う)
    想定外鵜飼舟から流れ逝く
岩鷚(いわひばり)
    頂や隠す巨岩が岩鷚
金魚(きんぎょ) 
    金魚釣り今朝は何匹魚籠の中
熱帯魚(ねったいぎょ)
    熱帯魚ポンプ回れど寝る夜中
蟹(かに)
    滿汐や蟹も流れに乗りにけり
船虫(ふなむし) 
    四散して七対の足船虫よ
海月(くらげ)
    掌で漂える海月ぴたぴたと
毛虫(けむし)
    落とせども毛虫が昇る速さかな
兜虫(かぶとむし)
    音立てて灯り求めて兜虫
玉虫(たまむし)
    玉虫の失せぬ彩り屍も
金亀虫(こがねむし)
    誘蛾灯じじと墜落金亀虫
蝉(せみ)
    喧しきけふの温度や今朝の蝉
空蝉(うつせみ)
    空蝉や風と共去り文机
油虫(あぶらむし)
    艶やかに磨き上げたる油虫
蝸牛(かたつむり) 
    蝸牛らちが明かない競わせど
蟻地獄(ありじごく)
    ヒロインのもがき消えゆく蟻地獄
紙魚(しみ)
    全集が本棚の隅紙魚のいて
蟻(あり) 
    木陰呼ぶ日長一日蟻見つめ
凌霄花(のうぜんか)
    礼拝や凌霄花の咲く幼稚園
海紅豆(かいこうず)
    焔敷く歩道一面海紅豆
仏桑花(ぶっそうげ)
    街灯に夜も真っ赤な仏桑花
野牡丹(のぼたん)
    時季忘る野牡丹の咲く通学路
茉莉花(まつりか) 
    鎖引き茉莉花通り犬走り
青柿(あおがき) 
    青柿を下から眺む友の家
青胡桃(あおくるみ)
    フラッシュ焚くモニタに映り青胡桃
青葡萄(あおぶどう)
    雫落つ雨音の後青葡萄
青林檎(あおりんご)
    早すぎし芯まで噛めぬ青林檎
木下闇(こしたやみ) 
    木下闇樹木医首に聴診器
緑陰(りょくいん)
    緑陰やさわやかならず画面ほど
土用芽(どようめ) 
    育て上げ土用芽鉢
病葉(わくらば)
    病葉や移してならじ目立ち色
合歓の花(ねむのはな)
    まり子さんへ咲いた報告合歓の花
沙羅の花(しゃらのはな)
    一日の短き命沙羅の花
玫瑰(はまなす)
    玫瑰の浜より泳ぎオホーツク
若竹(わかたけ)
    皮を脱ぎ若竹ぐんと伸びにけり
ダリア 
    咲くダリア庭の真ん中抽んでる
向日葵(ひまわり)
    陰も無き向日葵迷路埃舞ひ
紅蜀葵(こうしょき)
    紅蜀葵二階の主覗く今朝
月下美人(げっかびじん)
    じっと待つ月下美人は今夜咲き
睡蓮(すいれん) 
    睡蓮や水辺の暑さ陽の強さ
サルビア 
    サルビアや次々紅くミニ花壇
日日草(にちにちそう)
    日日草クリニックの庭咲き占めて
青鬼灯(あおほおずき)
    土掴む広く根を張り青鬼灯
夕顔(ゆうがお) 
    夕顔に君が眼をおもひ寄せ
韮の花(にらのはな)
    韮の花手入れもせずに増える株
胡瓜(きゅうり)
    初挑戦胡瓜スライス瓜もみに
茄子(なす)
    茄子をチン一本どんとバター添え
トマト 
    完熟と腐るの境トマト味
新藷(しんいも)
    待ちかねて新藷を掘る雨の後
紫蘇(しそ)
    梅漬けぬどやどや紫蘇が増えにけり
新生姜(しんしょうが)
    新生姜新味噌添えて白き皿
蓮(はす) 
    寝坊助に姿見せなく閉じる蓮
帚木(ははきぎ)
    みんみんの殻を集めて帚木草
夏草(なつくさ)
    夏草を倒して座る一人釣
草いきれ(くさいきれ)
    背の高い鼻を閉じたし草いきれ
竹煮草(たけにぐさ)
    家康と馬泊めしあと竹煮草
ガマの穂(がまのほ)
    調整池黒きガマの穂誰ぞ刈り
浜木綿の花(はまゆうのはな)
    防波堤浜木綿の花踏み被せ
鷺草(さぎそう) 
    鷺草やわずかに揺れる夕まぐれ
烏瓜の花(からすうりのはな)
    烏瓜の花覆ひ枯らすや生垣を
百合(ゆり) 
    グレーチング抜き出て咲くや百合白し
昆布(こんぶ) 
    石灼ける昆布の広がり北の浜

 




0 件のコメント:

コメントを投稿