俳句手帖 2020-03
3/1
春(はる)
朝日受け春のスカート回り見せ
陽春(ようしゅん)
陽春や肥え桶担ぐ夫婦棒
春(はる)
朝日受け春のスカート回り見せ
陽春(ようしゅん)
陽春や肥桶担ぐ夫婦棒
仲春(ちゅうしゅん)
仲春やスマホにはひる吾子の頬
春なかば(はるなかば)
啼く鳥やはぐれ雲行く春なかば
三月(さんがつ)
三月や机を整理新ノート
如月(きさらぎ)旧暦二月
如月の笠追ひ越して雪は舞ふ
3/2
啓蟄(けいちつ)
啓蟄は既に過ぎしか木々目覚め
春分(しゅんぶん)
春分を迎ふ観音テント建つ
彼岸(ひがん)
お彼岸の水掛不動あたる杓
春の日(はるのひ)
春の日や落慶まぢか新瓦
朧月夜(おぼろづきよ)
想い出す朧月夜の別れ道
暖か(あたたか)
懐も暖かけふだけ散財
木の芽時(このめどき)
すさむ顔やはりあの人木の芽時
芽立時(めだちどき)
天仰ぐ雲の形も芽立時
3/3
木の芽風(このめかぜ)
山の音谷の向こうの木の芽風
木の芽晴(このめばれ)
機織りのリズム途絶えぬ木の芽晴
三月尽(さんがつじん)
旅鞄コロナが制す三月尽
春日和(はるびより)
道行けば同級生が春日和
春光(しゅんこう)
春光や背広新し迎え門
春の色(はるのいろ)
磨崖仏頬を染めたる春の色
春三月(はるさんがつ)
春三月忠霊塔に光さす
朧月(おぼろづき)
一ツ家へ目指す五叉路朧月
3/4
東風(こち)
飛びたくも都は無理だ東風の風
貝寄風(かいよせ)
一円が貝寄風に舞う浜の店
涅槃西風(ねはんにし)
涅槃西風吹けばそのまま足袋の孔
彼岸西風(ひがんにし)
揺るお面テントおさえる彼岸西風
比良八荒(ひらはっこう)
比良八荒小舟は騒ぐ巻き結び
春一番(はるいちばん)
春一番おでこ雨粒彼女来て
春疾風(はるはやて)
春疾風ネクタイ肩へペダル踏む
春北風(はるきた)
春北風や札はばたばた準備中
3/5
春雨(はるさめ)
番傘や春雨が粋開く音
雪の果(ゆきのはて)
雪の果括られし山羊の一啼き
斑雪(はだれゆき)
斑雪水琴窟の音となり
春の雹(はるのひょう)
打つ音の硬いリズムや春の雹
春の霜(はるのしも)
春の霜振り上げる鍬濡れるかな
春の雷(はるのらい)
囲炉裏火の消えゆく時の春の雷(
虫出しの雷(むしだしのらい)
なまけ癖虫出しの雷押し出さぬ
3/6
佐保姫(さおひめ)
佐保姫や扉開けば唐突に
霞の空(かすみのそら)
飛行機雲霞の空へ入り込み
霞の海(かすみのうみ)
水平線霞の海へ置き忘れ
昼霞(ひるがすみ)
道消える荒野横切る昼霞
遠霞(とおがすみ)
アルプスの雪が溶けあう遠霞
陽炎(かげろう)
遥か行く陽炎揺れる人も揺れ
糸遊(いとゆう)
糸遊や句碑たち並ぶ源長院
鳥曇(とりぐもり)
温き風羽ばたき試す鳥曇
3/7
鳥風(とりかぜ)
曇り空鳥風にのり一気消ゆ
春夕焼(はるゆうやけ)
孫とたつ春夕焼の遊園地
春の山(はるのやま)
訪ぬれば枯れ枝積り春の山
春嶺(しゅんれい)
春嶺の麓に一筋炭焼きて
山笑ふ(やまわらう)
山笑ふ人の笑ふも見るばかり
春の野(はるのの)
春の野のちさき花にも恵み来て
春郊(しゅんこう)
春郊の煙一筋三方原
春の水(はるのみず)
春の水流るる見れば音聞こゆ
3/8
水温む(みずぬるむ)
水温む絞る溜りがはねる音
春の川(はるのかわ)
陸揚げしボート一艇春の川
春江(しゅんこう)
春江や見あぐるビルの反射光
春の瀬(はるのせ)
春の瀬や根元現わる江戸の杭
春の海(はるのうみ)
峠道霞も消えて春の海
春の湖(はるのうみ)
春の湖波だけたてて浅利舟
春の磯(はるのいそ)
春の磯人の活気が鯛が舞う
春の波(はるのなみ)
砂に立つ新しボード春の波
3/9
春の潮()はるのしお)
春潮の伸び来る長さ中田島
彼岸潮(ひがんじお)
朝夕の砂浜の長き彼岸潮
春田(はるた)
陽を浴びて春田の畦を直したり
春の園(はるのその)
春の園モデルの指やてふ誘ふ
春の土(はるのつち)
振り上げる鍬入れ易き春の土
土匂ふ(つちにおう)
土匂ふ砂利道を行く新聞屋
春泥(しゅんでい)
春泥に記念が栞舞ひ落ちて
残雪(ざんせつ)
北の山残雪に似て去りし人
3/10
雪間(ゆきま)
うさぎ跳び足跡残す雪間かな
雪崩(なだれ)
返事待つ雪崩の音が響く胸
雪解(ゆきげ)
雪解して樹の情熱や描く円
雪解水(ゆきげみず)
砂利道やあくまで清し雪解水
雪解川(ゆきげがわ)
大雪を溶かして早し雪解川
雪しろ(ゆきしろ)
雪しろや湯気立ち昇る牛が尿
雪濁り(ゆきにごり)
雪濁り渡し場が跡杭の首
春出水(はるでみず)
春出水葦の葉先が消えゆかん
3/11
凍解(いてどけ)
凍解や強きスコップ掘り進み
氷解く(こおりとく)
氷解くまわりまわって友の家
氷消ゆ(こおりきゆ)
氷消ゆ水車まわるじわじわと
流氷(りゅうひょう)
消える流氷帰る父田が動く
春衣(はるごろも)
春衣合わせて靴も花の色
春コート(はるこーと)
春コート裏地花よと翻す
春ショール(はるしょーる)
春ショール風も吹かぬが抑える手
春セーター(はるせーたー)
春セーター胸の膨らみ眩しくて
3/12
春手袋(はるてぶくろ)
春手袋色鮮やかに取っ手かな
山葵漬(わさびづけ)
粕の香に隠れし辛さ山葵漬
木の芽漬(きのめづけ)
汲み交わす肴ふるさと木の芽漬
田楽(でんがく)
串に刺す厚き田楽香る味噌
木の芽田楽(きのめでんがく)
嫌だった木の芽田楽この香よき
子持膾(こもちなます)
土皿盛る子持膾が山の宿
蒸鰈(むしがれい)
蒸鰈ともに運ばん風の色
干鰈(ほしがれい)
罪も無き逆さ吊りなり干鰈 3/13
壺焼(つぼやき)
壺焼や煙にむせび炭を足す
焼栄螺(やきさざえ)
焼栄螺楊枝刺し出す味は肝
蕨餅(わらびもち)
蕨餅プルプル揺れる白磁皿
草餅(くさもち)
裏山や草餅搗けと伸び始む
菱餅(ひしもち)
ビニールで包まれ食えぬ菱餅よ
雛あられ(ひなあられ)
雛あられ豆撒き如く溢したり
白酒(しろざけ)
白酒を親父うまそう口寄せる
五加飯(うこぎめし)
炊き立ての釜に混ぜ込み五加飯
3/14
嫁菜飯(よめなめし)
ブザーなる鮮やかなあお嫁菜飯
枸杞飯(くこめし)
孫子守枸杞飯を炊く夕餉迄
春障子(はるしょうじ)
客みえるらんごくないと春障子
春の炉(はるのろ)
春の炉や影絵を揺らす小火かな
春炬燵(はるごたつ)
誰もゐぬ座敷占めたる春の炉
春暖炉(はるだんろ)
埃つく物置と化す春暖炉
北窓開く(きたまどひらく)
コロナには北窓開く換気かな
雪囲とる(ゆきがこいとる)
物音や雪囲とる眩し朝
3/15
雪吊解く(ゆきつりとく)
ニュースなく雪吊を解く時期知らず
農具市(のうぐいち)
人いきれ外はあれてる農具市
種売(たねうり)
種売場壁一面に花模様
物種蒔く(ものだねまく)
花種蒔く一歩進みて小さき穴
苗床(なえどこ)
苗床や触れれば崩れ振るいかけ
苗札(なえふだ)
達筆の花の苗札艶やかか
苗木市(なえきいち)
誘われて何も買わない苗木市
南瓜蒔く(かぼちゃまく)
ふわふわの床にあなあけ南瓜蒔く
3/16
桑植う(くわうう)
日曜の人手も多く桑植うる
剪定(せんてい)
闇雲な剪定技術なれのはて
接木(つぎき)
戯れに柿の木に桃を接木して
挿木(さしき)
多彩色増やす挿木やひとつ色
根分(ねわけ)
根分けせず庵の萩や自生なり
菊根分(きくねわけ)
咲きし日を思い描きて菊根分
萩根分(はぎねわけ)
萩根分筋肉痛が文机
牧開(まきびらき)
牧開一斉牛や駆けだして
3/17
桑解く(くわとく)
主ゐぬここはいつの日桑解くか
磯開(いそびらき)
あやし雲祝詞短く磯開
磯菜摘(いそなつみ)
灯台を見上げて続く磯菜摘
磯遊(いそあそび)
干潮と道具も持たず磯遊
木流し(きながし)
木流しの堰に響くや杣の声
初筏(はついかだ)
初筏巨岩の上も満開に
摘草(つみくさ)
泡白き摘草の手を染めにけり
蕨狩(わらびがり)
切通し捩り昇りて蕨狩
3/18
春の風邪(はるのかぜ)
濃厚接触避けねばならぬ春の風邪
落第(らくだい)
昔はいた落第生は今はゐぬ
卒業(そつぎょう)
いまはもう卒業をするものがない
春休(はるやすみ)
待ち望む吟行にゆく春休
進級(しんきゅう)
スタンプ押す祝進級と通信簿
春分の日(しゅんぶんのひ)
坊主行く春分の日はけさのまま
雛市(ひないち)
雛市や妻は全品立ち止まり
桃の節句(もものせっく)
桃の節句菱餅の味青い黴
3/19
雛祭(ひなまつり)
男だから庭から覘く雛祭
雛納め(ひなおさめ)
窓を開け午前にひとり雛納め
雛流し(ひなながし)
冷たいと水押しやりて雛流し
雁風呂(がんぶろ)
雁風呂や五右衛門を焚く星降る夜
春場所(はるばしょ)
マスクして春場所迎う桟敷席
三月場所(さんがつばしょ)
三月場所大取り組に客はゐず
若狭のお水送(わかさのおみずおくり)
若狭のお水送火の粉が映る鵜の瀬から
修二会(しゅにえ)
商談すむ修二会の火の粉影の上
3/20
お水取(おみずとり)
大きな影廊下を走るお水取
彼岸会(ひがんえ)
富士山を彼岸会おえて僧眺む
遍路(へんろ)
受ける波ごろ石続く遍路道
西行忌(さいぎょうき)
温暖化花咲乱る西行忌
利休忌(りきゅうき)
花一輪壺にさしたる利休の忌
大石忌(おおいしき)
山科に花は咲いたか大石忌
犀星忌(さいせいき)
ぬくとさに蕾剥きだす犀星忌
春の鹿(はるのしか)
若草山草喰い尽くす春の鹿
3/21
蟇穴を出づ(ひきあなをいず)
蟇穴を出づ去年と世間は変わりなく
蛇穴を出づ(へびあなをいず)
蛇穴を出づ待つ子らおおき石を持つ
春の鳥(はるのとり)
谷を越え響く鳴き声春の鳥
雉(きじ)
飛び逃げる大きく広げ雉の羽根
雲雀(ひばり)
羽音立て雲雀上より威嚇かな
燕(つばめ)
短くも燕も浴びる水溜り
引鶴(ひずる)
山の上引鶴が群れ徐々に消え
白鳥帰る(はくちょうかえる)
白鳥帰る湖畔に残す羽根ひとつ
3/22
帰雁(きがん)
上過ぎる帰雁の足や後ろ指す
引鴨(ひきがも)
引鴨や子らの初旅風にのり
鳥雲に入る(とりくもにいる)
昼の鐘鳥雲に入る一羽ずつ
囀(さえずり)
草原の囀を上背が寒し
鳥の巣(とりのす)
鳥の巣を掛ける木々にも子らの名が
諸子(もろこ)
鮒よりも諸子を待ちて網の竿
桜貝(さくらがい)
海岸を捜し歩いて桜貝
地虫穴を出づ(じむしあなをいず)
地虫穴を出づ待ち構えしやコロナなり
3/23
初蝶(はつちょう)
初蝶や何処に仲間探し舞ふ
蝶生る(ちょううまる)
まだ寒き緑が野原蝶生る
紋白蝶(もんしろちょう)
手を出せば紋白蝶が舞ひおりて
蜂(はち)
花畑恐れを知らす鉢もゐて
蜂の巣(はちのす)
蜂の巣や枝を切り詰め場所もなく
椿(つばき)
椿咲くフォークダンスが廻る昼
彼岸桜(ひがんざくら)
まず先に彼岸桜や我ありと
辛夷(こぶし)
辛夷咲く隣りの庭も賑やかに
3/24
三椏の花(みつまたのはな)
美しき香三椏の花包む紙
沈丁花(じんちょうげ)
沈丁花屋敷抜け出しかをるかな
連翹(れんぎょう)
連翹や胸抱く希望門に咲き
土佐水木(とさみずき)
吊連ね黄鮮やかなり土佐水木
木蓮(もくれん)
木蓮や白く膨らみ子らを見て
アザレア(あざれあ)
アザレアや根元ふくらみ植木鉢
芽吹く(めぶく)
洗面器垣根が芽吹く日が眩し
木の芽(このめ)
気配れどやはりあの娘は木の芽時
3/25
春林(しゅんりん)
春林や去年の葉が舞ふきらきらと
柳の芽(やなぎのめ)
柳の芽剥きだしたくて背伸びして
楤の芽(たらのめ)
崖つぷち楤の芽をもぐ帰り道
五加木(うこぎ)
昼飯に頂き物の五加木味噌
枸杞(くこ)
枸杞飯や湯治の帰り摘みしとは
赤楊の花(はんのきのはな)
窓向こう赤楊の花満開に
木五倍子の花(きぶしのはな)
にわか雨木五倍子の花も輝けり
柳絮(りゅうじゅ)
山並みや棚田に光る柳絮舞ふ
3/26
柳の花(やなぎのはな)
柳の花濃紫色慎ましく
柏落葉(かしわおちば)
柏落葉一歩進みて一休み
黄水仙(きずいせん)
斜面覆う風にも強し黄水仙
喇叭水仙(らっぱすいせん)
お辞儀する喇叭水仙首重し
花簪(はなかんざし)
吾子の髪花簪を編み飾り
諸喝菜(しょかっさい)
道なりへ間隔揃え諸喝菜
君子蘭(くんしらん)
我が家にも大きな葉振り君子蘭
菊の苗(きくのなえ)
母の手が浅く挿し植え菊の苗
3/27
茎立(くくたち)
茎立のキャベツが花は伸ぶ黄色
春菜(はるな)
金魚ごと子ら引き連れて春菜摘む
春大根(はるだいこん)
薹が立つ畑一角春大根
韮(にら)
レバ韮が今夜のメニュー湯気の中
浅葱(あさつき)
楽天に浅葱のあり新しか
分葱(わけぎ)
うどんより青くて長い分葱あり
雪間草(ゆきまぐさ)
尾瀬ヶ原先争いて雪間草
3/28
双葉(ふたば)
風一陣双葉なめらか撫で過ぎぬ
菫(すみれ)
側溝とわずかな土に菫咲く
薺の花(なずなのはな)
薺の花終りを待ちてぺんぺんと
蒲公英(たんぽぽ)
草の影隠れていても蒲公英よ
3/29
土筆(つくし)
待ち人へ荒れ地に群れし土筆撮り
蕨(わらび)
誘われど蕨狩ほどつまらなさ
薇(ぜんまい)
薇やほどいてくれと首ひとつ
春蘭(しゅんらん)
春蘭やひび走らせて破壊力
3/30
一人静(ひとりしずか)
一人静咲く峠越し恋したし
二人静(ふたりしずか)
吾子は逝く二人静な一年忌
嫁菜(よめな)
包丁の切り刻む音嫁菜飯
茅花(つばな)
耐え忍ぶ銀色茅花分離帯
3/31
水草生ふ(みずくさおう
舟ゆらり波紋ひろがる水草生ふ
蘆の角(あしのつめ)
波しぶき鯉はかきわけ蘆の角
紫雲英(げんげ)
紫雲英原蜜吸いたしと白き紙
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