9/21/2021

俳句手帖 2019-12




12/1
冬ざれ(ふゆざれ)
   冬ざれや欅箒が屋根の上
冬帝(とうてい)
   冬帝の威厳に隠す陽の温み
厳冬(げんとう)
   厳冬の朝スチームバルブ鳴りて来る
冬将軍(ふゆしょうぐん)
   冬将軍今年も雪を引き連れし
玄冬(げんとう)
   玄冬や一巡りくる木に花芽
暖冬(だんとう)
   暖冬と云えども水は突き刺さり
仲冬(ちゅうとう)
   仲冬の本屋の古きグルメ地図
十二月(じゅうにがつ)
   白髪染め床屋忙し十二月
12/2
霜月(しもつき)
   霜月の色の褪せたる紅葉道
大雪(たいせつ)
   大雪やカレンダー来る忙し朝
冬至(とうじ)
   小屋の篭冬至の南瓜緋色なり
冬の日(ふゆのひ)
   縁側へ冬の日ほしく猫あくび
極月(ごきげつ)
   極月の闇の通りで買うは蟹
年の暮(としのくれ)
   年の暮柱時計を値引くかな
師走(しわす)
   乳飲み子を追いかけていく師走かな
年末(ねんまつ)
   年末はすること少し青き年
12/3
年果つる(としはつる)
   血糖値エラー表示年果つる
年の内(としのうち)
   急がない豊富な在庫年の内
数へ日(かぞえび)
   数へ日の岸辺に映る鵜の影よ
行く年(ゆくとし)
   行く年の水道水の洗車かな
年歩む(としあゆむ)
   年歩む手術の跡が一つ増え
小晦日(こつごもり)
   小晦日常識知らず訪ね来る
大晦日(おおみそか)
   大晦日けふばかりはと早くも寝
大年(おおどし)
   大年や宮の仕度がおいかけて
12/4
年惜しむ(としおしむ)
   年惜しむまた一つ増え手術跡
年越(としこし) 
   年越へ氏子総代集まりぬ
年の夜(としのよる)
   年の夜や寝た子の頬を撫でにけり
除夜(じょや)
   時計買う除夜の時刻に帰り着く
凍つ(いつ)
   歯磨けど力まかせが凍つ釣瓶
冬空(ふゆぞら)
   冬空へ願い託すは今は無し
寒空(さむぞら)
   寒空に煌めく星もなかりけり
冬の雲(ふゆのくも)
   南方の西から流る冬の雲
12/5
寒雲(かんうん)
   寒雲や明日も寒かろ下着入れ
月冴ゆる(つきさゆる)
   月冴ゆる心も冴ゆる田舎道
星冴ゆる(ほしさゆる)
   きれいねと顎の先には星冴ゆる
荒星(あらぼし)
   荒星や最終列車家揺する
凍星(いてぼし)
   凍星や指差すように一本杉
冬北斗(ふゆほくと)
   さよならを言いたくなくて冬北斗
寒昴(かんすばる)
   三方原我行く先寒昴
寒波(かんぱ)
   我一人潜む家にも寒波来る
12/6
北風(きたかぜ)
   北風やスカートまるめゴム跳びて
空っ風(からっかぜ)
   空っ風書初めが舞う北廊下
北颪(きたおろし)
   北颪スパッと鋏髪短か
ならひ(ならい)
   ならひ吹く十年祭の墓場かな
虎落笛(もがりぶえ)
   空の稲架虎落笛聞く朝の道
鎌鼬(かまいたち)
   鎌鼬技伝えしや鈴之助
冬の雨(ふゆのあめ)
   似た人が窓の向こうに冬の雨
霰(あられ)
   霰降る合格息子はしゃぎけり
12/7
霙(みぞれ)
   ハンドルの手を隠したし霙かな
霜(しも)
   白い息霜降る朝の光かな
強霜(つよしも)
   強霜やワイパー固定冷える鍵
雪催(ゆきもよい)
   夕暮れに風の来る先雪催
初雪(はつゆき)
   初雪や新聞配達タイヤあと
雪(ゆき)
   雪降れば喜ぶ息子雪国へ
雪の声(ゆきのこえ)
   誰もゐぬ棚田の朝に雪の声
冬の雷(ふゆのらい)
   暗闇の光とどかぬ冬の雷
12/8
鰤起し(ぶりおこし) 
   漁に出る合図一斉鰤起し
川涸る(かわかる)
   川涸れて素足の鷺が探すとこ
沼涸る(ぬまかる)
   沼涸れて去年の倒木列をなし
涸滝(かれたき)
   涸滝や果たせぬ夢や白い滝
冬景色(ふゆげしき)
   荒るる風川面削るも冬景色
冬の泉(ふゆのいずみ)
   陽を受けど冬の泉が粒尖る
冬の川(ふゆのかわ)
   服のまま渡れそうなり冬の川
冬の海(ふゆのうみ)
   荒風や眺め居られぬ冬の海
12/9
寒潮(かんちょう)
   寒潮へ連絡船は今朝も出で
初氷(はつごおり)
   妹はしゃぐ初氷すべる丸い石
冬シャツ(ふゆしゃつ)
   一枚の冬シャツだけの床磨き
外套(がいとう)
   河原にてうすい外套風が押す
オーバーコート
   電柱横オーバーコートが襟を立て
綿入れ(わたいれ)
   綿入れを着込んで風邪をやり過ごし
蒲団(ふとん)
   打ち直し蒲団の海へ沈み込み
蒲団干す(ふとんほす)
   パンパンと蒲団干す音絶えてなく
12/10
毛布(もうふ)
   温度より蒲団に毛布さかしまに
角巻(かくまき)
   角巻で払うポストに内地行
膝掛(ひざがけ)
   膝掛けを抑える左廻す右
ちゃんちゃんこ
   お座りと躾の菓子はちゃんちゃんこ
ねんねこ
   保育園へねんねこがない背が寒き
重ね着(かさねぎ)
   風通すセーターばかり重ね着て
着ぶくれ(きぶくれ)
   肥えてきた着ぶくれて見えこの鏡
毛皮(けがわ)
   毛皮ある成人式の銀きつね
アノラック
   アルバイト最初に買うはアノラック
冬帽子(ふゆぼうし)
   つけ始め取るに取れない冬帽子
12/11
マスク
   見とれてるマスク美人の睫毛かな
襟巻(えりまき)
   風を背に襟巻拡げ帆駆け足
ショール
   ショール巻く婦人の裾も翻り
手袋(てぶくろ)
   手袋をしたままポケット探りけり
足袋(たび)
   洗いたて足袋のこはぜが爪を割る
樏(かんじき)
   樏を欲しいほど積もる棚田
毛糸編む(けいとあむ) 
   胎動がリズム合わせし毛糸編む
春着縫う(はるぎぬう)
   春着縫う着丈あわせに背伸びして
乾鮭(からざけ)
   海風とあわす乾鮭鳴るリズム
塩鮭(しおざけ)
   塩鮭を担ぎ大叔父売り歩く
12/12
雑炊(ぞうすい)
   貧乏飯脱出変わる名雑炊へ
焼芋(やきいも)
   座敷に一つ焼芋中に籾火鉢
餅搗(もちつき)
   餅搗や重い石臼一仕事
霰餅(あられもち)
   霰餅乾ききれぬを盗み食い
蕪蒸(かぶらむし)
   蕪する何と蒸そうか蕪蒸
風呂吹(ふろたき)
   風呂焚きへ我先座る寒き夕
煮凝(にこごり)
   煮魚や煮凝りおもふ朝の鍋
冬籠(ふゆごもり)
   襖にも壁に絵もなく冬籠
冬館(ふゆやかた)
   塀越しに甍冷たき冬館
隙間風(すきまかぜ)
   傾きて防ぎきれない隙間風
12/13
雪囲(ゆきがこい)
   念入りにあつらえて待つ雪囲
雁木(がんぎ)
   喫茶店雁木が柱匂いつく
雪掻(ゆきかき)
   貼り紙や雪掻仕事ありますと
雪下し(ゆきおろし)
   厚着脱ぎ汗かきするや雪下し
冬灯(ゆきともし)
   LED電球色が雪灯
冬座敷(ふゆざしき)
   我が庵火鉢ひとつの冬座敷
畳替(たたみがえ)
   庭に出る肘で糸引く畳替え
障子(しょうじ)
   霧吹けば突っ張る障子音もよし
襖(ふすま)
   地震あと襖にできる隙間かな
屏風(びょうぶ)
   あがりはな屏風がむこう気配あり
12/14
絨毯(じゅうたん)
   まるめれど絨毯長し収まらず
暖房(だんぼう)
   顔溶ける暖房の部屋次は手を
ストーブ(すとーぶ)
   母いぬ子ストーブの横授業中
炭(すみ)
   炭を立て火を強くして部屋温し
埋火(うずみび)
   埋火を掻き出し追加菊花炭
懐炉(かいろ)
   ベンジンが香る懐炉を納む腰
榾(ほた)
   榾たして釜戸が煙あまり出る
湯気立つる(ゆげたつる)
   湯気立つる牛のしょんべん越す朝日
蒟蒻掘る(こんにゃくほる)
   細葉陰蒟蒻を掘る母の鍬
牡蠣剥く(かきむく)
   牡蠣剥くや殻の内側美しき
12/15
牡蠣船(かきぶね)
   牡蠣船や山盛りに積む青い線
炭焼(すみやき)
   炭焼が煙が昇る山の午後
年木樵(としきこり)
   年木樵谷の向こうに人らしき 
寒柝(かんたく)
   たわむれに寒柝鳴らす玄関
火事(かじ)
   火事の声先ず走り探すや炎
消防車(しょうぼうしゃ)
   サイレンと鐘を鳴らして消防車
夜咄(よばなし)
   夜咄や息深くもつ手燭かな
縄飛(なわとび)
   埃たて縄飛続くぴゅんぴゅんと
竹馬(たけうま)
   まず十センチ竹馬高く父縛る
押しくら饅頭(おしくらまんじゅう)
   押しくら饅頭遅れ来る子を待つ間
12/16
ラグビー
   新興宗教ラグビーの彼のめり込み
湯ざめ(ゆざめ)
   早く寝なゆざめきにして母急かす
風邪(かぜ)
   風邪ひけば枕元には欲しきもの
咳(せき)
   咳出れば肺から痰が治りかけ
水洟(みずばな)
   キーボード水洟一滴落にけり
くさめ
   畑鋤くくさめ一発響きけり
息白し(いきしろし)
   通学路朝日を受ける息白し
懐手(ふところで)
   井戸端やくだまく叔母ら懐手
12/17
日向ぼこ(ひなたぼこ)
   部屋よりも足袋も脱ぎたし日向ぼこ
年末賞与(ねんまつしょうよ)
   年末賞与それより多き買う予定
年用意(としようい) 
   今年こそ思えど減らぬ年用意
煤払い(すすはらい)
   天気よい手拭巻いて煤払い
社会鍋(しゃかいなべ)
   風強し少なし揺れる社会鍋
歳暮(せいぼ)
   石鹸とあかずと答ふ歳暮かな
賀状書く(がじょうかく)
   除夜の鐘墨をすりつつ賀状書く
日記買ふ(にっきかう)
   今年こそ日記買ふおもひ三日まで
古日記(ふるにっき)
   ベストセラー越す物語古日記 
12/18
暦売(こよみうり)
   ベストセラー暦売場が広くなり
古暦(ふるごよみ)
   子年くる亥は駆け抜ける古暦
門松立つ(かどまつたつ)
   慌ただし門松立つとなお忙し
注連飾る(しめかざる)
   注連飾るあとはせぬまい思えども
御用納(ごようおさめ)
   見切りつけ御用納の午前中
年忘(としわすれ)
   クリスマスせぬ父やれと年忘
冬休(ふゆやすみ)
   宿題を忘れそうなる冬休
顔見世(かおみせ)
   はやきもの顔見世幟あがるかな
12/19
ぼろ市(ぼろいち)
   ぼろ市や人の頭を品比べ
年の市(としのいち)
   整えど心せき立つ年の市
羽子板市(はごいたいち)
   羽子板市我が家には無し飾る場所
飾売(かざりうり)
   リヤカーへ仕立て運ぶや飾売
柚子湯(ゆずゆ)
   豊作と底の見えない柚子湯かな
晦日蕎麦(みそかそば)
   どんなものうちはうどんや晦日蕎麦
秩父夜祭(ちちぶよまつり)
   秩父夜祭冷えた夜空へ花火咲く
大根焚(だいこんたき)
   大根焚寺それぞれの汁の味
12/20
義士会(ぎしかい)
   義士会や提灯掲げ雪を踏み
神楽(かぐら)
   つき歩く面白くない神楽かな
里神楽(さとかぐら)
   獅子頭なかに顔あり里神楽
除夜詣(じょやもうで)
   越えかける甘酒いかが除夜詣
除夜の鐘(じょやのかね)
   寺男碁石を並べ除夜の鐘
クリスマス
   魅せられしカードの色がクリスマス
一茶忌(いっさき)
   句をはじめ一茶忌初めて迎えたり
近松忌(ちかまつき)
   心中を推して量らん近松忌
12/21
漱石忌(そうせきき)
   草枕するには寒し漱石忌
石鼎忌(せきていき)
   葉脈紅し窓に貼りつく石鼎忌
熊(くま)
   谷越えて雪の木のぼる熊を見ゆ
冬の鹿(ふゆのしか)
   ジャンプして雪駆け抜けり冬の鹿
狸(たぬき)
   ヘッドライトは毛をふわふわ狸かな
兎(うさぎ)
   川わたる風を背にして兎の餌
鷹(たか)
   鷹が追う鴉再び戻り来て
冬の鷺(ふゆのさぎ)
   動かない餌も動かぬ冬の鷺
12/22
冬の鵙(ふゆのもず)
   誰もゐぬ公園にこゑ冬の鵙
冬雲雀(ふゆひばり)
   雲低く野原を低く冬雲雀
水鳥(みずとり)
   水鳥の足元泳ぐ土鯉かな
鴨(かも)
   鴨来れば鷺は一羽で離れたり
千鳥(ちどり) 
   堤道先ゆく千鳥追い描けて
田鳧(たげり)
   風避けて冠羽繕う田鳧かな
都鳥(みやこどり)
   舞いおりて水面白くす都鳥
冬鷗(ふゆかもめ)
   冬鷗足を短く縮めたり
12/23
鶴(つる)
   餌あれど越されぬ山が鶴は来ぬ
白鳥(はくちょう)
   白鳥や奪われし餌鴨の中
鯨(くじら)
   水平線潮吹く鯨けふも見ず
鱈(たら)
   鱈ちりと母が重たき土鍋かな
鰤(ぶり)
   鰤大根養殖よりも氷見の味
鮟鱇(あんこう)
   どこにある鮟鱇鍋は汁のみぞ
河豚(ふぐ)
   忘年会幹事頑張り河豚づくし
牡蠣(かき)
   波打てど音だけ残す牡蠣の殻
12/24
冬の蝶(ふゆのちょう)
   隠れたし繁る葉捜す冬の蝶
冬の蠅(ふゆのはえ)
   じつと待つ主いる部屋冬の蠅
室咲(むろざき)
   テレビの上室咲の花温めし
冬薔薇(ふゆばら)
   咲き出せば短き命冬の薔薇
ポインセチア
   ラップの色ポインセチアは透ける紙
千両(せんりょう)
   花生ける赤き千両裏も占め
万両(まんりょう)
   覚えなき万両増えし庭掃除
南天の実(なんてんのみ)
   南天の実真っ赤な色は色褪せず
12/25
冬林檎(ふゆりんご)
   ナイフ入れ蜜の多くに冬林檎
枇杷の花(びわのはな)
   陽を受けて蜜の香流る枇杷の花
枯葉(かれは)
   枯葉舞う田舎の道もパリ気分
冬木立(ふゆこだち)
   句が詠めぬ本を抱えて冬木立
12/26
寒林(かんりん)
   日をとおす寒林が上すべて空
枯木(かれき)
   流されし河原の枯木いずくんか
枯柳(かれやなぎ)
   揺すぶれど波長合わせぬ枯柳
枯桑(かれくわ)
   リヤカーや枯桑くくる老夫婦
12/27
冬枯(ふゆがれ)
   冬枯れて野原やひとつ低くなり
冬芽(ふゆめ)
   温暖化冬芽も早き太さなり
12/28
寒菊(かんぎく)
   寒菊を無粋な男切り刻む
冬菊(ふゆぎく)
   冬菊を鉢一杯に写真前
人参(にんじん)
   人参を炒めて甘しカレーかな
12/29
冬草(ふゆくさ)
   冬草や日毎の丈が導なり
枯葦(かれあし)
   枯葦が向こうに響く水車小屋
枯尾花(かれおばな)
   風に耐え岸辺に残り枯尾花
12/30
枯芝(かれしば)
   枯芝に寝転ぶ誘う陽の温さ
枯葎(かれむぐら)
   枯葎躊躇させるやかくれんぼ
12/31
藪柑子(やぶこうじ)
   積もる古葉そこだけみどり藪柑子
竜の玉(りゅうのたま)
   細葉下青く光るや竜の玉

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