9/21/2021

俳句手帖 2019-11


11/1
冬(ふゆ)
    火鉢には冬と言うのに五徳だけ
立冬(りっとう)
    立冬や影長並ぶ朝の道
冬に入る(ふゆにいる)
    冬に入るポケットが好き僕の手ぞ
冬来る(ふゆきたる)
    新品の手袋出番冬来る
今朝の冬(けさのふゆ)
    息白し影に映るや今朝の冬
初冬(はつふゆ)
    初冬やボイラーバルブ鳴りて来る
十一月(じゅういちがつ)
    布団からあまりの寒さ十一月
神無月(かんなづき)
    神無月裏の神様ひっそりと
神去り月(かみさりづき)
    宝くじ誰を頼るか神去り月
神有月(かみありづき)
    神有月西風と来し寒さかな
11/2
初霜月(はつしもづき)
    手もみして便りを待や初霜月
水始めて氷る(みずはじめてこおる)
    水始めて氷る右から左吾子握る
小雪(しょうせつ)
    小雪や浴衣を払い露天風呂
小春(こはる)
    通らない静けさだけの小春かな
小六月(ころくがつ)
    縁側に眠るじいじが小六月
小春空(こはるぞら)
    小春空鍬を漉き込む芋があと
小春凪(こはるなぎ)
    吾子の凧走れど落ちる小春凪
冬浅し(ふゆあさし)
    冬浅し隣りの家は湯めぐりへ
冬めく(ふゆめく)
    信楽焼冬めく朝も火鉢干す
冬日(ふゆび)
    枯れ花や煙が昇る冬日かな
11/3
冬の朝(ふゆのあさ)
    遅刻する母に怒鳴られ冬の朝
冬曙(ふゆあけぼの)
    冬曙三度目覚める暗き部屋
日短(ひみじか)
    テラス席日短な午後持つ仕草
暮早し(くれはやし)
    売り出しやテレビが煽る暮早し
夜半の月(よわのつき)
    夜半の月鋲が打てりアスファルト
霜夜(しもよ)
    一ツ家へ霜夜が原に灯り見ゆ 
冷し(つめたし)
    冷し手リコーダーテスト五時間目
寒し(さむし)
    朝寒し母の力が蒲団剥ぐ
冬暖か(ふゆあたたか)
    醤油絞り冬暖かし雫の音
冬晴(ふゆばれ)
    冬晴の人影見えぬ棚田道
11/4
冬日和(ふゆびより)
    冬日和右から左おうど掃く
冬青空(ふゆあおぞら)
    冬青空葺き替え屋根草を剥ぎ
冬銀河(ふゆぎんが)
    冬銀河靴音高く田舎道
冬の星(ふゆのほし)
    名を知らぬここの場所から冬の星
御講凪(おこうなぎ)
    提灯が街並みへ子ら御講凪
凩(こがらし)
    凩や軽き体ぞ流されし
朔風(さくふう)
    朔風や早くあたりたく竈の火
神渡し(かみわたし)
    陽がかげる藪が騒ぐや神渡し
初時雨(はつしぐれ)
    ぽつぽつと多くなる点初時雨
時雨(しぐれ)
    楠木の葉より静かに時雨かな
11/5
朝時雨(あさしぐれ)
    傘ささず走りいけるか朝時雨
北時雨(きたしぐれ)
    暖簾揺れあてない客に北時雨
小夜時雨(さよしぐれ)
    小夜時雨父は何時に帰るかと
片時雨(かたしぐれ)
    虹かかる傘は開かず片時雨
初霰(はつあられ)
    初霰音に誘われ窓辺より
初霜(はつしも)
    初霜やおりた朝が寒さなり
露凝る(つゆこる)
    透き通る露凝る朝の井戸の水
冬霞(ふゆがすみ)
    我が町も隅々見せぬ冬霞
冬の霧(ふゆのきり)
    冬の霧静かに街へ流れなり
冬の靄(ふゆのもや)
    冬の靄突然現る帆掛け船
11/6
寒靄(かんあい)
    寒の靄田んぼアートが株の址
冬の虹(ふゆのにじ)
    青空の棚田を包む冬の虹
冬夕焼(ふゆゆうやけ)
    障子が色冬夕焼が染にけり
冬茜(ふゆあかね)
    辞表出すここの席にも冬茜
枯野(かれの)
    サナトリューム目指して一人枯野ゆく
冬田(ふゆた)
    にぎやかに穭も靡く冬田かな
冬田道(ふゆたみち)
    風が押すマフラーとける冬田道
冬の庭(ふゆのにわ)
    つむじ風枯葉舞い上げ冬の庭
庭枯る(にわかる)
    静かなる庭枯る夜の葉の騒ぎ
枯園(かれその)
    枯園やビニール袋迷い込み
11/7
冬の園(ふゆのその)
    松の下大き岩石冬の園
渇水期(かっすいき)
    蓮田にも渇水期一本立ち守る
水涸る(みずかる)
    雲低し藁舞い上がる水涸る田
冬の色(ふゆのいろ)
    鳥も居ぬ誰も居ぬ先冬の色
冬の水(ふゆのみず)
    動かない底まで見える冬の水
冬渚(ふゆなぎさ)
    濡れまいと波を右目に冬渚
冬の浜(ふゆのはま)
    風紋を崩さず流す冬の浜
霜柱(しもばしら)
    霜柱踏み砕く音寒くとも
狐火(きつねび)
    狐火や出ぬこと願ひ祠横
冬服(ふゆふく)
    鼻水や冬服の袖かあばりて
11/8
冬着(ふゆぎ)
    風吹けば寒がり坊ちゃん冬着着る
セーター
    誕生祝セーター編めと毛糸かな
毛糸(けいと)
    腕出せば腕はおろすな毛糸巻く
酢茎(すぐき)
    年を経て味わうこと知る酢茎かな
千枚漬(せんまいづけ)
    出張中千枚漬に寄り道を
沢庵漬(たくわんづけ)
    空のはず沢庵漬へ風さらす
納豆(なっとう)
    納豆に混ぜ訝しがられヨーグルト
味噌作る(みそつくる)
    味噌作る道具は一つスマッシャー
生姜味噌(しょうがみそ)
    豊作とぱくぱく食えぬ生姜味噌
雲腸(くもわた)
    大海から我が胃へたどる雲腸
11/9
海鼠腸(このわた)
    窘める海鼠腸が皿なめる癖
酢海鼠(すなまこ)
    酢海鼠を隣りへ渡すさり気なく
甲羅煮(こうらに)
    甲羅煮や椀からはみ出夕餉かな
蒸鮓(むしずし)
    御馳走と蒸鮓仕度祭の夜
蕪鮓(かぶらずし)
    作れない母が手際の蕪鮓
蕪汁(かぶらじる)
    皮厚くへたそに見えし蕪汁
蒸饅頭(むしまんじゅう)
    湯気話す蒸饅頭が旨いぞと
今川焼(いまがわやき)
    行列が今川焼も今はなし
鯛焼(たいやき)
    鯛焼や餡子かころも味左右
熱燗(あつかん)
    熱燗を母へ教えし父の年
11/10
鰭酒(ひれざけ)
    鰭酒や暖簾が香る宵の口
玉子酒(たまござけ)
    玉子酒熱燗の汗冷める熱
生姜酒(しょうがざけ)
    生姜酒喉に染み入る枕元
寝酒(ねざけ)
    煙草もて寝酒ももてと酔うた父
葛湯(くずゆ)
    口すぼめ母が差し出す葛湯かな
生姜湯(しょうがゆ)
    生姜湯や喉元過ぎて香るかな
蕎麦湯(そばゆ)
    判り出す蕎麦湯が味この店で
蕎麦掻(そばがき)
    よく練れば蕎麦掻香る椀持つ手
夜鷹蕎麦(よたかそば)
    発車ベル敢て立ち寄る夜鷹蕎麦
鍋焼(なべやき)
    鍋焼うどん艶やかな色鍋つかみ
11/11
釜揚饂飩(かまあげうどん)
    テーブルへ載らぬ大きく釜揚饂飩
河豚汁(ふぐじる)
    河豚汁は妻持つ疑問しびれない
葱鮪(ねぎま)
    けふ知りて葱鮪の肉は鮪とは
三平汁(さんぺいじる)
    いれればいい三平汁を得意とす
薩摩汁(さつまじる)
    湯気立つ鍋負けられぬ鶏薩摩汁
粕汁(かすじる) 
    純米吟醸旨味とコクが粕汁ぞ
けんちん汁(けんちんじる)
    蒟蒻や細かく刻みけんちん汁
闇汁(やみじる)
    若き日や白ネギだけが闇汁ぞ
鋤焼(すきやき)
    鋤焼や牛肉を出す父の顔
桜鍋(さくらなべ)
    妻ねだる手に入らぬが桜鍋
11/12
牡丹鍋(ぼたんなべ)
    豚肉や猪より旨い牡丹鍋
成吉思汗鍋(じんぎすかんなべ)
    成吉思汗鍋士幌の町の旨さかな
寄鍋(よせなべ)
    寄せ鍋と具味変わらず水炊きと
ちり鍋(ちりなべ)
    ちり鍋や長ネギたっぷり鱈の味
鮟鱇鍋(あんこうなべ)
    鮟鱇鍋つるりと少し腹八分
石狩鍋(いしかりなべ)
    腕自慢鮭が入れば石狩鍋
薬喰(くすりぐい)
    薬喰言わず食べたし肉の味
おでん
    大根や見ればメニューぞおでんなり
湯豆腐(ゆどうふ)
    湯豆腐や年取り判る苦汁加減
冬構(ふゆがまえ)
    風が吹く急かされ縛る冬構
11/13
北窓塞ぐ(きたまどふさぐ)
    この景色北窓塞ぐ味気なき
目貼(めばり)
    目貼せど隙間ぞ多き我が庵
霜除(しもよけ)
    このあたり霜除はがし芋を掘り
風除(かぜよけ)
    風除や新聞押さえ昼下がり
藪巻(やぶまき)
    藪巻や未だ新しき縄の色
雪吊(ゆきつり)
    雪吊や広がり渡る縄投げる
炬燵(こたつ)
    炬燵より出る気が湧かぬテレビかな
火鉢(ひばち)
    股火鉢信楽焼が鼻を曲げ
湯湯婆(ゆたんぽ)
    湯湯婆湯や母は温もりそっと入れ
炉開(ろびらき)
    炉開や去年が匂いにはやる気よ
11/14
囲炉裏開く(いろりひらく)
    囲炉裏開くお昼が前に一仕事
敷松葉(しきまつば)
    石灯籠強き葉香り敷松葉
口切(くちきり)
    お茶壷道中口切役へ渡し終え
口切茶事(くちきりちゃじ)
     口切茶事先ずは拝見床の壺
橇(そり)
    暦より遅れてけふは橇おろす
冬耕(とうこう)
    冬耕や父振り上げる四本鍬
蕎麦刈(そばかり)
    静けさや蕎麦刈る音が切れ切れに
大根引(だいこんひき)
    北風に追われる如く大根引
大根干す(だいこんほす)
    大根干す笛を鳴らすや稲架の竹
切干(きりぼし)
    切干や母が味する銀杏切り
11/15
蕪引(かぶひき)
    長靴や孫の手伝い蕪引き
干菜(ほしな)
    漬け終りほどかず吊るす干菜かな
蓮根掘る(はすねほる)
    蓮根掘る水の冷たきポンプかな
麦蒔(むぎまき)
    ふわふわの畝に麦蒔き暮れゆけり
フレーム
    胡蝶蘭フレーム占めて連なりぬ
狩(かり)
    猪狩や草に纏われ声も出ず
猟期(りょうき)
    鉄砲と派手なベストが猟期なり
猟夫(さつお)
    夕暮れや鋭眼もどす猟夫かな
猟犬(りょうけん)
    猟犬をほーいとほーい木霊呼ぶ
網代(あじろ)
    さざ波とながれ任せる網代かな
11/16
竹瓮(たっぺ)
    竹瓮浮く大石探す砂利が底
泥鰌掘る(どじょうほる)
    逃さぬと羊羹の如泥鰌掘る
棕櫚剥ぐ(しゅろはぐ)
    背が伸びた棕櫚剥ぐ力生かしけり
馬下げる(うまさげる)
    馬下げる厩が温度馬の息
紙漉き(かみすき)
    ちゃぷちゃぷとけふの音聴き紙漉きぬ
紙干場(かみほしば)
    陽に当たる白さ冴えたり紙干場
紙漉女(かみすきめ)
    華奢な腕リズム崩さず紙漉女
楮晒す(こうぞさらす)
    楮晒す冷たき風の棘の如
焚火(たきび)
    温もりは手のひらよりと焚火かな
落葉焚(おちばたき)
    白い煙だんだん黄なる落葉焚
11/17
木の葉髪(このはがみ)
    仕事より恋を邪魔せし木の葉髪
文化の日(ぶんかのひ)
    憲法より勲章が記事文化の日
勤労感謝の日(きんろうかんしゃのひ)
    勤労感謝の日我働きて誰の日ぞ
十日夜(おおかんや)
    十日夜我が家の神は酔いつぶれ
七五三(しちごさん)
    子の丈や糸をほじきて七五三
千歳飴(ちとせあめ)
    ぶら下げる膝の高さに千歳飴
牡丹焚火(ぼたんたきび)
    炭の山牡丹焚火が香る宵
神の旅(かみのたび)
    寒そうとフリース詰めて神の旅
神迎へ(かみむかえ)
    鴨居の上供え甲斐あり神迎へ
恵比須講(えびすこう)
    絹網ですくいし鮒や恵比須講
11/18
酉の市(とりのいち)
    縁のない遠くの神社酉の市
一の酉(いちのとり)
    熊手持ち通り賑やか一の酉
二の酉(にのとり)
    二の酉や熊手にビニール夜の雨
三の酉(さんのとり)
    餃子屋が二階に集う三の酉
熊手(くまで)
    枯葉舞う熊手担いで婿が庭
十夜(じゅうや)
    僧の嫁幾度も運ぶ十夜粥
芭蕉忌(ばしょうき)
    桜庭や紅く染まりて蛤塚忌
白秋忌(はくしゅうき)
    あの歌を口ずさみたき白秋忌
波郷忌(はきょうき)
    波郷忌や悩み持つ友訪ね来る
一葉忌(いちようき)
    詠み終えて焼くやステーキ一葉忌
11/19
冬眠(とうみん)
    冬眠の熊がゐるぞと山にいる
熊穴に入る(くまあなにいる)
    熊打ちや熊穴に入る山に入る
隼(はやぶさ)
    隼や影と競ひて江戸に着く
鷲(わし)
    音もなく鷲が羽搏き飛びたてり
木菟(みみずく)
    木菟や今宵の茶の間に入り込み
柳葉魚(ししゃも)
    炭弱火あれこれ云ひて柳葉魚焼
蟷螂枯る(とうろうかる)
    蟷螂枯る景色になじむ色になり
冬の虫(ふゆのむし)
    冬の虫何処に潜む鳴きてみよ
帰り花(かえりばな)
    帰り花おぼしき花が多き森
11/20
侘助(わびすけ)
    妻の母床壺に活く侘助ぞ
山茶花(さざんか)
    刈り込まれ山茶花縮み咲く垣根
八手の花(やつでのはな)
    天狗持つ八手の花が白きなり
柊の花(ひいらぎのはな)
    刺々し柊の花寄せつけぬ
茶の花(ちゃのはな)
    見つけるは寒き夕方お茶の花
枯芙蓉(かれふよう)
    枯芙蓉風のリズムがからからと
青木の実(あおきのみ)
    青木の実紅がほんのり夕間暮れ
蜜柑(みかん)
    寒さ増し蜜柑の甘さ増しにけり
仏手柑(ぶしゅかん)
    仏手柑や幸運招く黄色かな
橙(だいだい)
    橙や新旧まぜて生りにけり
11/21
朱欒(ザボン) 
    厚い皮いと剥き易き朱欒かな
冬紅葉(ふゆもみじ)
    息切らす階段半ば冬紅葉
紅葉散る(もみじちる)
    紅葉散る瞬間狙い待つ時間
落葉松散る(からまつちる)
    落葉松散る下駄で階段下る朝
木の葉(このは)
    木の葉舞う風の下より掃けぬ暮
落葉(おちば)
    落葉より木の実を探す子供栗鼠
朴落葉(ほおおちば)
    朴落葉筆をしたため切手貼る
銀杏落葉(いちょうおちば)
    フィナーレと銀杏落葉舞い散りて
冬枯(ふゆがれ)
    冬枯れやサナトリウムへ道一人
冬苺(ふゆいちご)
    冬苺供えさびしや吾子の墓
11/22
冬葵(ふゆあおい)
    冬葵母が躾の糸を切り
カトレア
    カトレアと撮りて鏡を磨きけり
11/23
枯菊(かれぎく)
     枯菊や匂ひ放ちて焚き終えぬ
枯蓮(かれはす)
     枯蓮や茎の鋭き水に伏す
11/24
枯芭蕉(かればしょう)
     草を食む首を垂らして枯芭蕉
白菜(はくさい)
     白菜が上赤鮮やかな鳳来肉
11/25 
芽キャベツ(めきゃべつ)
     店頭へ芽キャベツ見つけ苗を買え
葱(ねぎ)
     葱ぱらり彩大事みそ汁へ
11/26
大根(だいこん)
     大根や夜の寒さに白々と
蕪(かぶ)
     味噌汁へ煮たてずさつと香る蕪
11/27
セロリ
     年ととも慣れか失せたかセロリの香
カリフラワー
     カリフラワーブロッコリーとは異なるぞ
11/28
ブロッコリー
     ブロッコリーあれにはなれぬ色失せど
寒竹の子(かんちくのこ)
     寒竹の子末は釣り竿傘の柄か
11/29
麦の芽(むぎのめ)
     谷挟み丘へと続く麦の芽よ
石蕗の花(つわのはな)
     荒れ草や主なき屋敷石蕗の花
11/30
新海苔(しんのり)
     新海苔や舟に一杯飛沫あぶ
榎茸(えのきだけ)
     繊維質今朝の味噌汁榎茸




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