俳句手帖 2020-09
秋(あき)
秋なのにこの花に来ぬおひの風
仲秋(ちゅうしゅう)
仲秋やテレビが洩れる夜の街
二百十日(にひゃくとおか)
災なきと二百十日の祈る朝
九月(くがつ)
コロナ漬け早く抜けたし九月かな
葉月(はづき)
我が庵廊下も乾く葉月かな
八朔(はっさく)
八朔や殿の城入り真似て入り
白露(はくろ)
手拭の居場所変わらず白露かな
秋分(しゅうぶん)
秋分の行事控えめ雨もなく
秋彼岸(あきひがん)
遺影二枚夜爪を切る秋彼岸
秋の朝(あきのあさ)
ガチャガチャと牛乳屋くる秋の朝
夜長(よなが)
真空管灯してジャズと夜長かな
秋麗ら(あきうらら)
秋麗ら道中合羽ちんどん屋
秋澄む(あきすむ)
秋澄むや槌音遠く届けたり
秋気(しゅうき)
百羅漢坂道のぼり秋気かな
爽やか(さわやか)
くねくねと句碑の調べ秋爽やか
冷やか(ひややか)
目覚めれば冷ややかふとん手探りぬ
九月尽(くがつじん)
九月尽天竜川の向こう岸
葉月尽(はづきじん)
傘雲を被りて富士の葉月尽
秋色(しゅうしょく)
街道は秋の色濃くなりにけり
菊日和(きくびより)
菊日和大会に出す母が鉢
月(つき)
月の出を右に眺めて家に着く
月代(つきしろ)
月代や見晴のよき場所に待ち
初月(はつづき)
初月や散歩を誘ふしのぎよさ
二日月(ふつかづき)
東空眉より細き二日月
三日月(みかづき)
三日月や夕刻の空控えめに
待宵(まつよい)
待宵や勝手の格子少し開け
名月(めいげつ)
名月や尻尾の丸み照らし出し
無月(むげつ)
足音も無月が夜の遅くなり
雨月(うげつ)
九回のドーム球場雨月なり
十六夜(いざよい)
十六夜が月の照らして棚田かな
立待月(たちまちづき)
三脚や立待月を撮り始め
居待月(いまちづき)
横笛の調子が揃ひ居待月
臥待月(ふしまちづき)
臥待月待ちくたびれて枕寄せ
宵闇(よいやみ)
宵闇や漁火ここに届きけり
秋の星(あきのほし)
山小屋の天を占めたる秋の星
秋の嵐(あきのあらし)
また一人秋の嵐に紛れ消ゆ
野分(のわき)
かきわけて野分の原野何処行く
颱風(たいふう)
颱風に傘を取られて帰り道
雁渡(かりわたし)
セーラー服煤けて白さ雁渡
秋雨(あきさめ)
秋雨を切り裂き走る傘がない
秋の虹(あきのにじ)
屋上の人の集まり秋の虹
霧(きり)
霧の中手探りせんと離れ部屋
露(つゆ)
葉の上を煌めき踊り芋の露
秋の夕焼(あきのゆうやけ)
吾子の手や秋の夕焼柔らかき
花野(はなの)
古戦場昔も今も花野かな
秋の田(あきのた)
秋の田や夕暮れ道の一人旅
秋の水(あきのみず)
秋の水底の魚の陣地取り
水澄む(みずすむ)
天竜川流れ治まり水澄めり
秋出水(あきでみず)
長靴を探し出したる秋出水
初潮(はつしお)
初潮や舟の向き変え遡り
高潮(たかしお)
高潮や養鰻池を後にして
不知火(しらぬい)
不知火の出現怖く友も待ち
休暇明(きゅうかあけ)
人事異動座る席無い休暇明
秋の袷(あきのあわせ)
ファミレスや秋の袷が群れなして
とろろ汁(とろろじる)
とろろ汁看板大き丸子宿
秋の灯(あきのひ)
借りた本秋の灯の元読み返す
灯火親しむ(とうかしたしむ)
灯火親しコーヒー片手デイスプレイ
秋の蚊帳(あきのかや)
昼なのに二階に見えて秋の蚊帳
秋扇(あきおうぎ)
隣婿白さも褪せた秋扇
秋簾(あきすだれ)
名残なく指に冷たき秋簾
障子洗ふ(しょうじあらう)
障子洗ふ紙が流るる小川かな
障子貼る(しょうじはる)
佇まい変え百姓の妻障子貼る
秋耕(しゅうこう)
秋耕や父振り上げる鍬光る
添水(そうず)
詩仙堂人に紛れて添水鳴り
豊年(ほうねん)
豊年を祝えぬ今年災禍あり
竹伐る(たけきる)
竹伐るや震える竹が作る空
綿摘(わたつみ)
雨降りて綿摘けふは一休み
芥菜蒔く(からしなまく)
芥菜蒔く柔らかき土に吾子手形
罌粟蒔く(けしまく)
畝の上来年思い罌粟を蒔く
牡丹の根分(ぼたんのねわけ)
留守番や牡丹の根分始めけり
胡麻刈る(ごまかる)
薄曇り溢さぬように胡麻を刈る
粟刈る(あわかる)
風もなく大水もなく粟を刈る
下り簗(くだりやな)
下り簗魚は躍る人踊る
鯊釣(はぜつり)
浮きもなく手持無沙汰が鯊釣りぬ
鯊舟(はぜぶね)
鯊舟やぺちゃくちゃ会話通り過ぐ
烏賊干す(いかほす)
北朝の船はいずれも烏賊を干す
相撲(すもう)
雨降れば体育館は相撲場
九月場所(くがつばしょ)
観客の拍手だけでの九月場所
月見(つきみ)
狭き庭月見の芒伸び始め
月の客(つきのきゃく)
天竜川堤に立てり月の客
月見酒(つきみざけ)
月見酒一杯だけは風流に
月の座(つきのざ)
月の座や短冊に込むけふ愉し
虫売り(むしうり)
虫売りを始めた友に追ふ季節
虫籠(むしかご)
机の上虫籠の中いつもゐぬ
秋意(しゅうい)
珈琲豆変えてみるのも秋意かな
秋思(しゅうし)
文庫本今宵読み終え秋思かな
秋渇(あきかわき)
ジーパンのポケット破れ秋渇
運動会(うんどうかい)
色褪せた運動会の万国旗
震災記念日(しんさいきねんび)
震災記念日防災ポンプつくる虹
風の盆(かぜのぼん)
更ける夜風の冷たき風の盆
敬老の日(けいろうのひ)
敬老の日どぜうすくいは覚えたて
秋分の日(しゅうぶんのひ)
秋分の日紅い唐傘祢宜来たり
美術の秋(びじゅつのあき)
美術の秋写生大会参加賞
二科展(にかてん)
二科展や大きな画面美女の顔
院展(いんてん)
院展や甍大きく寺の町
馬市(うまいち)
育て上げ永遠の別れが馬の市
高きに上る(たかきにのぼる)
ラーメンの味求め高きに上る
十日の菊(とおかのきく)
母の活く十日の菊が色強し
秋祭(あきまつり)
秋祭練り旗当り大鳥居
秋遍路(あきへんろ)
雨あがる見晴も良き秋遍路
世阿弥忌(ぜあみき)
世阿弥忌や松の緑の戻りけり
太祇忌(たいぎき)
太祇忌や換気扇から焼き肉屋
西鶴忌(さいかくき)
二万迄まだまだ遠し西鶴忌
素堂忌(そどうき)
素堂忌や三段切れに挑みけり
遊行忌(ゆぎょうき)
遊行忌や滑らず登り石畳
道元忌(どうげんき)
道遠き己知りたし道元忌
子規忌(しきき)
挽き初めし珈琲かをる子規忌かな
鹿(しか)
鹿さまよう大和路が客少な日々
牡鹿(おじか)
恋しいと闇の大和路牡鹿鳴く
牝鹿(めじか)
闇の声光る牝鹿が立てし耳
蛇穴に入る(へびあなにいる)
蛇穴に入る怖さ忘れて野原かな
秋の蛙(あきのかわず)
掘り起こす秋の蛙が跳びもせず
色鳥(いろどり)
色鳥や写るガラスへ激突し
小鳥(ことり)
散る花や小鳥も通う垣根道
燕帰る(つばめかえる)
玄関灯燕帰りて巣は二つ
秋燕(あきつばめ)
秋燕並ぶ電線しなりけり
鵙(もず)
風抜ける鵙の声する幟旗
鵙の贄(もずのにえ)
玄関の隣に置きて鵙の贄
懸巣(かけす)
日がのぞく万葉の里懸巣飛ぶ
猿子鳥(ましこ)
夕暮れやかをる草の葉猿子鳥来る
交喙鳥(いすか)
教会の十字架避けて交喙鳥飛び
入内雀(にゅうないすずめ)
囀りて入内雀起こしけり
鶺鴒(せきれい)
鶺鴒や距離を保ちて飛び逃げて
椋鳥(むくどり)
順繰りに椋鳥の飛ぶ野原かな
鶉(うずら)
卵美味鶉が姿未だ見ず
鴫(しぎ)
耕運機鴫は後ろに啄ばみて
海猫帰る(うみねこかえる)
海猫帰る静かな浜の波の音
落鮎(おちあゆ)
落鮎も天竜川も向かふ海
錆鮎(さびあゆ)
錆鮎や色が惑わす焼き加減
鰍(かじか)
引き上げど竿に響かぬ鰍釣り
黄顙魚(ぎぎ)
黄顙魚知らず句にもならずもぎぎと鳴く
鯔(ぼら)
唯一の口にせぬもの臭き鯔
鱸(すずき)
鱸釣る自慢話で昼休み
鯊(はぜ)
釣り上げる藻よりも軽き鯊のひき
太刀魚(たちうお)
太刀魚や自動グリルの焼き上がり
秋の蚊(あきのか)
秋の蚊や羽音静かに二の腕に
秋の蠅(あきのはえ)
秋の蠅壁の傷ごと夜おほき
秋の蝶(あきのちょう)
連れがいて淋しさ忘する秋の蝶
蜻蛉(とんぼ)
水求め交尾のままで飛ぶ蜻蛉
赤蜻蛉(あかとんぼ)
赤蜻蛉少しさがりてまた戻り
虫(むし)
月命日墓を守りて虫しぐれ
竈馬(かまどうま)
祢宜開く待ちし如くに竈馬
蟋蟀(こおろぎ)
躍り出る蟋蟀休む藁の蔭
蜉蝣(かげろう)
我先と蜉蝣群舞水面かな
鈴虫(すずむし)
鈴虫の呼ぶ静けさへ耳すまし
松虫(まつむし)
松虫や風吹く後にチンチロリン
邯鄲(かんたん)
夕日草邯鄲の声聴き入りて
草雲雀(くさひばり)
庄屋跡古きより鳴き草雲雀
鉦叩(かねたたき)
灯籠や暗き場所取り鉦叩
螽斯(きりぎりす)
草むらに豊に鳴けり螽斯
馬追(うまおい)
夕餉時梁に現るすいっちょん
轡虫(くつわむし)
がしゃがしゃと風情壊すや轡虫
飛蝗(ばった)
田んぼ道翅音忙し飛蝗飛び
蟷螂(とうろう)
鎌すぼめ蟷螂の飛ぶ昼下り
われから
われからや嗅覚強し尺如し
螻蛄鳴く(けらなく)
螻蛄鳴く夜大きさ示す手は何処
蚯蚓鳴く(みみずなく)
帰り道居場所示して蚯蚓鳴く
地虫鳴く(じむしなく)
宵闇に庭の石陰地虫鳴く
茶立て虫(ちゃたてむし)
何時忍障子はりつく茶立て虫
秋蚕(あきご)
秋蚕待つ籠溢れんと葉を摘みぬ
夜学(やがく)
ナイターの光の中へ夜学生
放屁虫(へひりむし)
放屁虫そつと箒で払い出し
秋の薔薇(あきのばら)
私の名あるかと探し秋の薔薇
山茱萸の実(さんしゅのみ)
山茱萸の実イアリングてふ風に揺れ
梨(なし)
ゆがむ形わけあり梨の甘さかな
長十郎(ちょうじゅうろう)
歯ごたえ良き長十郎の味の良さ
二十世紀(にじっせいき)
鳥取県みずみずし育ち二十世紀
青蜜柑(あおみかん)
皮剥けば光り飛沫の青蜜柑
葡萄(ぶどう)
しんかんせん葡萄一房待つ母へ
マスカット
マスカット手にとり女品定め
栗(くり)
栗畑を越して喧し集荷場
ゆで栗(ゆでぐり)
ゆで栗や白き指染む熱さかな
焼き栗(やきぐり)
囲炉裏端焼き栗爆ぜて灰の舞う
石榴(ざくろ)
美味しそう云えども食わぬ石榴かな
棗の実(なつめのみ)
棗の実甘い酸っぱい美肌かな
桐の実(きりのみ)
日を受けて桐の実の飛ぶ庭の西
初紅葉(はつもみじ)
栗鼠のぼる庄屋の森に初紅葉
薄紅葉(うすもみじ)
舟下る迫る岩陰薄紅葉
桜紅葉(さくらもみじ)
姫はゐぬ桜紅葉が散る通り
柳散る(やなぎちる)
日を受けて走るランナー柳散る
通草(あけび)
蔓の先手繰れど寄らぬ通草かな
蔦(つた)
人もゐぬレンガ屋敷に蔦のはふ
竹の春(たけのはる)
瑞々し緑濃くなり竹の春
竹の実(たけのみ)
竹の実や一山譲り終り告ぐ
芭蕉(ばしょう)
どの寺も風に破かれ芭蕉あり
蘭(らん)
水やりを忘れた蘭の花の数
鶏頭(けいとう)
鶏頭や日照り続きの色の良さ
葉鶏頭(はげいとう)
禿げと出る検索のミス葉鶏頭
コスモス
コロナ禍やコスモスも蒔く気力失せ
秋桜(あきざくら)
青い空田圃の端まで秋桜
菊(きく)
菊九本買わず今年は絶不調
糸瓜(へちま)
流水に白い糸瓜が洗われて
秋茄子(あきなす)
南国の届き秋茄子無き変化
甘藷(さつまいも)
雨上がり大きくなりて甘藷
芋(いも)
葉も太し子芋ゴロゴロ畑の午後
布被(きぬかづき)
団子横山と積み上げ布被
自然薯(じねんじょ)
折らぬよう自然薯堀の仕上げかな
零余子(むかご)
葉をたどり零余子探して夕日かな
貝割菜(かいわりな)
白味噌に色鮮やかに貝割菜
紫蘇の実(しそのみ)
梅以来紫蘇の実零る畑に入り
唐辛子(とうがらし)
唐辛子海に広がるかけうどん
生姜(しょうが)
色変わり青白赤と生姜かな
早稲(わせ)
緑の中汗をふきふき早稲を刈り
稲(いね)
故郷や棚田の稲がかをる道
玉蜀黍(とうもろこし)
玉蜀黍アジアの人剥く赤い髭
黍(きび)
秋雨に穂をしたらせて稔る黍
甘蔗(かんしょ)
甘蔗刈る鎌の刃濡らす甘き色
胡麻(ごま)
実がいりて胡麻の音聞きつ刈りいれぬ
藍の花(あいのはな)
なまこ壁土蔵映して藍の花
綿(わた)
綿繰り機綿の実ポンと落としけり
蓮の実(はすのみ)
蓮の実や光の粒舞ふ水面かな
草の花(くさのはな)
ひっそりと陰に隠れて草の花
草の実(くさのみ)
草の実やズボンの裾の住み心地
秋の七草(あきのななくさ)
遠き日に秋の七草摘みにけり
萩(はぎ)
潜り抜け萩のトンネル見返りて
芒(すすき)
秋葉山芒払いて下りけり
尾花(おばな)
戯れに竿を払いて尾花舞ふ
刈萱(かるかや)
刈萱や特急列車走りゆき
白茅(ちがや)
肘あげて腰で掻き分け白茅抜き
蘆の花(あしのはな)
河原道覆ひ隠すや蘆の花
荻の風(おぎのかぜ)
天竜川堤を渡り荻の風
真菰の花(まこものはな)
水際へ真菰の花が咲き揃ひ
野菊(のぎく)
日を背に吾子はとびとび野菊摘む
狗尾草(えのころぐさ)
硯箱かたかた鳴らし狗尾草
曼殊沙華(まんじゅしゃげ)
なにげなく目を逸らしたり曼殊沙華
藤袴(ふじばかま)
長屋門潜り抜ければ藤袴
紫苑(しおん)
花結び紫苑トンネル吾子の道
桔梗(ききょう)
母が挿す桔梗一輪文机
女郎花(おみなえし)
女郎花根元ひっそり道祖伸
竜胆(りんどう)
草原の風に竜胆揺れにけり
杜鵑草(ほととぎす)
廃屋の庭の真ん中杜鵑草
菱の実(ひしのみ)
小舟繰り菱の実寄せる水の音 俳句手帖二千四百句九月尽 NHK附録の俳句手帖の季語でそれぞれ一句詠んでみた。 一年続けてよかった点は知らない季語に挑戦できたこと、これから使うことがない季語に触れることが出来たことなどかな? 季語の花も三百六十六句続けた。 これで一区切りこれからは一句一句じっくり推敲して発表していくつもりでいる。
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