9/21/2021

俳句手帖 2020-06

俳句手帖 2020-06




6/1
夏の日(なつのひ)
    歌謡曲空と海ある夏の日よ
六月(ろくがつ)
    我誕生六月の雨降る日
皐月(さつき)
    校舎よりブラス揃いし皐月かな
芒種(ぼうしゅ)
    水盤へ芋を浸らす芒種かな
田植時(たうえどき)
    田植時自慢話の植える技
入梅(にゅうばい)
    入梅を知らせる如しどつと降り
梅雨寒(つゆさむ)
    梅雨寒や箪笥の中を入れ替えて
夏至(げし)
    着る着ない寒暖を知る夏至の朝
6/2
白夜(はくや)
    築山へてふの舞来る白夜かな
半夏生(はんげしょう)
    一枚だけ植え残りたり半夏生
短夜(みじかよ)
    短夜や雨戸を閉める暇もなく
明易し(あけやすし)
    太極拳声音は出さず明易し
暑し(あつし)
    暑し朝隣りも雨戸開け広げ
涼し(すずし)
    涼し朝歯磨きが音忙しけり
梅雨(つゆ)
    梅雨迎ゆコウモリ傘が修理屋
梅雨晴間(つゆはれま)
    水溜り挑む大きさ梅雨晴間
6/3
五月雨(さみだれ)
    スクランブル五月雨もなくまばらなり
五月闇(さつきやみ)
    ウォーキングリセットスタート五月闇
夏の雲(なつのくも)
    連なりてスカイツリーを夏の雲
夏の月(なつのつき)
    日は暮れど涼しさ呼ばぬ夏の月
南風(はえ・みなみ)
    過ぎたるや茣蓙巻き上げて入る南風
黒南風(くろはえ)
    黒南風や流れし雲へ隠れ鳥
嵐(あおあらし)
    自転車は野原を抜けり青嵐
やませ
    風知れどやませの寒き知らぬとは
6/4
五月晴(さつきばれ)
    深呼吸甍が上に五月晴
空梅雨(からつゆ)
    空梅雨やかうもり傘が忘れ棚
海霧(じり)
    海霧襖音が聞こえど見えぬ色
夏霧(なつぎり)
    夏霧や峠を越して落ちる滝
虹(にじ)
    虹に向き足は東に我が庵
雷(かみなり)
    雷や生まれたばかり湯気上り
五月富士(さつきふじ)
    次郎長もここから眺む五月富士
雪解富士(ゆきげふじ)
    雲もなく水吹上し雪解富士
6/5
夏野(なつの)
    丈高く行く道覆ふ夏野原
夏の水(なつのみず)
    崖っぷち道路突っ切る夏の水
出水(でみず)
    濁り水昨夜が出水苗が浮き
植田(うえだ)
    水鏡植田が模様富士写し
早苗田(さなえだ)
    静けさや早苗田に聞く水琴窟
五月田(さつきだ)
    五月の田水を磨きて逆さ富士
噴井(ふけい)
    故郷や噴井音なくこんこんと
井水増す(いむずます)
    手に届く井戸輪一枚井水増す
6/6
夏の川(なつのかわ)
    腰までの底が揺らめく夏の川
夏の海(なつのうみ)
    夏の海揺らめきながら運搬船
夏の浜(なつのはま)
    熱き水足首流る夏の浜
夏服(なつふく)
    夏服や団子並べし釦かな
単衣(ひとえ)
    庭の花眺めて母の縫ふ単衣
初浴衣(はつゆかた)
    てふ結びきりりと締めて初浴衣
夏シャツ(なつしゃつ)
    誂えし夏シャツ入れる窓の風
夏帯(なつおび)
    夏帯や金魚が泳ぐ水模様
6/7
白靴(しろぐつ)
    雨止めど白靴三足ショーウィンドウ
ハンカチ(はんかち)
    門先へハンカチ落とす男行く
梅干す(うめほす)
    漬け具合梅干すことも主婦初め
網戸(あみど)
    小き声網戸の目より小虫来て
青簾(あおすだれ)
    青簾まだ帰らぬか貸しボート
古簾(ふるすだれ)
    納屋の前しまい忘れた古簾
日除(ひよけ)
    風強しまくれる日除色抜けて
夏暖簾(なつのれん)
    夏暖簾はらいて息子いつ戻り
6/8
籐椅子(とういす)
    籐椅子や座り心地が今一つ
葦簀(よしず)
    夕暮れや残る温みの葦簀巻き
ハンモック
    ハンモックかわりばんこの横揺らし
蚊遣火(かやりび)
    蚊遣火やむせる主も蚊と出でり
風炉茶(ふろちゃ)
    若き日の脚のしびれが風炉茶かな
風炉手前(ふろてまえ)
    風炉手前若き主がしびれ脚
初風炉(はつふろ)
    初風炉や古き水指友気付き
夏茶碗(なつぢゃわん)
    夏茶碗広く浅きや点てやすし
6/9
苗取(なえとり)
    ぺちゃくちゃと苗取の声響き来て
田植(たうえ)
    晴れた日の田植がリズム邪魔もなき
早乙女(さおとめ)
    早乙女へ昼のサイレン届けたり
竹植う(たけうう)
    竹植うる鉢の重きにままならず
豆植う(まめうう)
    豆植うる畦の穴跡波打たず
粟蒔き(あわまき)
    雨は来ぬ畑ふわりに粟蒔きぬ
水中花(すいちゅうか)
    誰も見ぬ夜中満開水中花
蛍狩(ほたるがり)
    かごを持ち門を出ずれば蛍狩
6/10
草笛(くさぶえ)
    草笛や単音のみのつまらなさ
麦笛(むぎぶえ)
    茎抜きて麦笛作る帰り道
夜釣(よづり)
    忙し気に晩飯くらひ夜釣りかな
時の記念日(ときのきねんび)
    気忙しく時の記念日花時計
父の日(ちちのひ)
    父の日にけふ帰るぞと留守電話
薬狩(くすりがり)
    効能も草の名も失し薬狩
名越の祓(なごしのはらえ)
    汗たらし名越の祓去年のこと
夏祓(なつはらえ)
    若き祢宜アメリカ帰り夏祓
6/11
形代(かたしろ)
    形代や目肩胸とさする音
茅の輪(ちのわ)
    砂利乾くくぐる長靴茅の輪かな
さくらんぼ祭(さくらんぼまつり)
    さくらんぼ祭種を飛ばせば1パック
貴船祭(きぶねまつり)
    水占ひ紙の透け流る貴船祭
百万石祭(ひゃくまんごくまつり)
    百万石祭役になりきり門抜けて
御田植祭(おたうえまつり)
    御田植祭うつむく顔へ照り返し
ちゃぐちゃぐ馬こ(ちゃぐちゃぐうまこ)
    飾りつけちゃぐちゃぐ馬こうひうひし
6/12
安居(あんご)
    墨含み深く一息安居かな
夏行(げぎょう)
    人もゐぬ夏行始まり静まりぬ
夏籠(げごもり)
    読誦や夜の夏籠漏れてくる
夏断(げだち)
    硯石吾子も真似する夏断かな
夏書(げがき)
    開け放し夏書読誦合掌す
聖体祭(せいたいさい)
    敬虔な思い覚ますや聖体祭
鑑真忌(がんじんき)
    薄日さす唐招提寺鑑真忌
独歩忌(どっぽき)
    武蔵野はあまりに遠き独歩の忌
6/13
芙美子忌(ふみこき)
    連絡船島に隠れし芙美子の忌
鹿の子(しかのこ)
    鹿の子の足の長さやか細さや
親鹿(おやじか)
    親鹿や後ろ確かめ信号を
亀の子(かめのこ)
    亀の子やすることもなく甲羅干し
海亀(うみがめ)
    砂浜に海亀が跡長々と
蟇(ひきがえる)
    蟇濡れてゐるかの四つん這い
河鹿(かじか)
    夕暮れに水辺の散歩河鹿聞く
夕河鹿(ゆうかじか)
    夕河鹿暑さが残る川辺道
6/14
河鹿笛(かじかぶえ)
    せせらぎにリズムが狂う河鹿笛
山椒魚(さんしょううお)
    清流を山椒魚ぞ石に沿い
蚯蚓(みみず)
    一匹の蚯蚓何匹鮒を釣る
翡翠(かわせみ)
    翡翠やけふも川面に触れもせず
閑古鳥(かんこどり)
    草原に一人だけ聞く閑古鳥
筒鳥(つつどり)
    筒鳥や弾む声聞く谷向こう
仏法僧(ぶっぽうそう)
    仏法僧雨降る夜のラジオかな
燕の子(つばめのこ)
    燕の子所狭しと五羽育ち
6/15
鴉の子(からすのこ)
    羽ばたきて屋根まで飛べた鴉の子
鶉の子(うずらのこ)
    繕い物母の手止める鶉の子
水鳥の巣(みずとりのす)
    枯蘆や水鳥の巣へ編みこまれ
鳰の浮巣(におのうきす)
    潜り込み鳰の浮巣へ泡三つ
鷭の浮巣(ばんのうきす)
    飛び込めば鷭の浮巣も揺れ動く
夏の鴨(なつのかも)
    棲む場所に列なし帰る夏の鴨
通し鴨(とおしがも)
   人みてもおどおどしない通し鴨
子鴨(こがも)
    子鴨たち川の流れに乗り下り
6/16
軽鳧の子(かるのこ)
    急流に軽鳧の子揺れて列進み
濁り鮒(にごりぶな)
    釣り人を欺き遡上濁り鮒
源五郎鮒(げんごろうぶな)
    釣り人へ源五郎鮒浮勝負
鮎(あゆ)
    鮎解禁夜明けの岸辺騒がしき
鮎の宿(あゆのやど)
    連泊も海のものでぬ鮎の宿
囮鮎(おとりあゆ)
    トンネルを出れば大きく囮鮎
岩魚(いわな)
    梁煤け岩魚が囲む囲炉裏かな
目高(めだか)
    最後には目高三匹だけとなり
6/17
緋目高(ひめだか)
    上からも見えぬ緋目高苔の中
鰻(うなぎ)
    どくばりを仕掛けて鰻とれぬ朝
鯵(あじ)
    三枚におろして鯵は網の上
手長蝦(てながえび)
    水澄めど網に入らぬ手長蝦
蛍(ほたる)
    田に映る二匹の蛍我にのみ
平家蛍(へいけぼたる)
    放しても平家蛍は蚊帳の中
源氏蛍(げんじぼたる)
    葉の影の源氏蛍が明るさよ
夏蚕(なつご)
    忙し気に夏蚕が食みし桑の音
6/18
蚕蛾(さんが)
    飛べなくも羽化の証が蚕蛾かな
山繭(やままゆ)
    照らし出すゆるり山繭羽ばたきぬ
落し文(おとしぶみ)
    青年や門先にあり落し文
初蜩(はつひぐらし)
    初蜩ランプ灯れし控えめに
蜻蛉生まる(とんぼうまる)
    陽射し受け蜻蛉も生まる川面より
川蜻蛉(かわとんぼ)
    川蜻蛉岸辺の草に立ち寄りて
蟷螂生まる(とうろううまる)
    おびただし蟷螂生まる細き枝
孑孑(ぼうふら)
    孑孑や誰かが動く誰の番
6/19
蠛蠓(まくなぎ)
    門先へ蠛蠓の群れ待ち伏せし
蚊(か)
    暗闇の蚊が飛行先は我の耳
蛾(が)
    大きな蛾羽根ゆったりと灯る先
桜の実(さくらのみ)
    食べ頃と一羽啄ばむ桜の実
桜の実となる(さくらのみとなる)
    桜の実となれども捥ぐ人もなき
紫陽花(あじさい)
    紫陽花寺大きな房が覆ふ道
額の花(がくのはな)
    額の花一雨ごとの重さかな
花橘(はなたちばな)
    足音や花橘のかをる夜
6/20
百日紅(さるすべり)
    僧自慢名園に咲く百日紅
梔子の花(くちなしのはな)
    枝太く梔子の花咲き誇り
杜鵑花(さつき)
    盆栽の枝に針金杜鵑花から
繍線花(しもつけ)
    繍線花が一輪挿しへ文机
未央柳(びょうやなぎ)
    雄蕊雌蕊すべて黄色い未央柳
夾竹桃(きょうちくとう)
    排煙に負けて真っ黒夾竹桃
南天の花(なんてんのはな)
    背の高き南天の花切り揃へ
朱欒の花(ザボンのはな)
    秋の実より朱欒の花を愛しみ
6/21
橙の花(だいだいのはな)
    残り果や橙の花囲み咲き
柚子の花(ゆずのはな)
    柚子の花手伸ばせば棘が邪魔する柚子の花
オリーブの花
    オリーブの花院長植えし西の庭
柿の花(かきのはな)
    柿の花繁る葉の影雨宿り
石榴の花(ざくろのはな)
    石榴の花姉の友達長話
青梅(あおうめ)
    喰いたくも母が戒め青い梅
実梅(みうめ)
    木をたたき実梅ぼたぼた一筵
小梅(こうめ)
    ゴリゴリと好きになれない小梅かな
6/22
楊梅(やまもも)
    楊梅をぐるりと赤く染めにけり
さくらんぼ
    さくらんぼ花眺めども味知らず
山桜梅(ゆずらうめ)
    蝶誘ふ白き花弁山桜梅
李(すもも)
    風の先李あつまり香を放ち
巴旦杏(はたんきょう)
    遮断する山の村にも巴旦杏
杏子・杏()あんず
    新築を祝ふがごとし杏子咲く
枇杷(びわ)
    太き枇杷めがけて登り年一度
夏蜜柑(なつみかん)
    登り着く花と実も混じる夏蜜柑
6/23
青葉(あおば)
    トンネルぬけ輝く青葉月に着く
茂る(しげる)
    草茂る手入れ始めぬ我が庵
万緑(ばんりょく)
    万緑の野原突き抜け愛し人
椎の花(しいのはな)
    椎の花雨が絨毯汚しけり
木斛の花(もっこくのはな)
     雨上がりかをりに仰ぎ木斛の花
えごの花
    えごの花もみもみされてシャボン玉
桑の実(くわのみ)
    桑の実や洗えど消えぬ染まる色
夏桑(なつぐわ)
    夏桑や籠一杯の軽きこと
6/24
青桐(あおぎり)
    天仰ぐ青桐高し廃れ寺
竹の皮脱ぐ(たけのかわぬぐ)
    かぐや姫竹の皮脱ぐ朝仕事
竹の花(たけのはな)
    竹の花ただならぬ色胸騒ぎ
篠の子(すずのこ)
    篠の子や声かけありて山の裾
笹の子(ささのこ)
    笹の子や不味きも知らぬ採りもせず
杜若(かきつばた)
    杜若見分けがつかぬ学のなさ
渓蓀(あやめ)
    山頂の渓蓀畑に靴の跡
花菖蒲(はなしょうぶ)
    花菖蒲長じてどれも同じ色
6/25
菖蒲(しょうぶ)
    高々と一株菖蒲庭を見る
鳶尾草(いちはつ)
    茅葺屋根鳶尾草育つ棟高し
芍薬(しゃくやく)
    暗闇に芍薬ほのか咲くかいど
グラジオラス
    母が庭グラジオラスばかりなり
葵(あおい)
    陽を浴びて葵大きく庭で待つ
ガーベラ
    ガーベラや買ってやれない育て方
金魚草(きんぎょそう)
    金魚草花瓶満杯色いっぱい
アマリリス
    アマリリス縦笛上手く吹けなくて
6/26
鬼灯の花(ほおずきのはな)
    今朝知りて鬼灯の花白きこと
紅の花(べにのはな)
    紅の花揉む手も染めて戯れし
青芭蕉(あおばしょう)
    月明り大きく招く青芭蕉
芭蕉若葉(ばしょうわかば)
    雨間近芭蕉若葉が巻きを解き
馬鈴薯の花(ばれいしょのはな)
    濃紫馬鈴薯の花雨の下
茄子の花(なすのはな)
    茄子の花家庭菜園初物に
人参の花(にんじんのはな)
    泥のつく人参の花雨上がり
南瓜の花(かぼちゃのはな)
    交配す無駄に大きな南瓜花
6/27
早苗(さなえ)
    ぺちゃくちゃと女三人早苗取り
捨苗(すてなえ)
    水取り口役に立たせる捨苗も
余苗(あまりなえ)
    田の隅にいつしか消えて余苗
昼顔(ひるがお)
    中田島昼顔も咲く砂の道
水芭蕉(みずばしょう)
    植物園山の片隅水芭蕉
沢瀉(おもだか)
    沢瀉や矢じりの先の花白き
河骨(こうほね)
    河骨や硬き花弁鯉も来ぬ
萍(うきくさ)
    水よどみ占めし萍掻き分けて
6/28
菱の花(ひしのはな)
    名を聞かば飛ばしてみたし菱の花
十薬(じゅうやく)
    十薬や雑草抑え庭を占む
虎尾草(とらのお)
    虎尾草や風にならひて右左
敦盛草(あつもりそう)
    敦盛草音が出るはず唇を
烏柄杓(からすびしゃく)
    一輪挿し烏柄杓を投げ入れぬ
破れ傘(やぶれがさ)
    戯れど日除けになれぬ破れ傘
鴇草(ときそう)
    皆に見せたく鉢の鴇草けふは門
蛍袋(ほたるぶくろ)
    虫いぬか蛍袋を覗き見て
6/29
麒麟草(きりんそう)
    黄昏時故郷恋し麒麟草
鴨足草(ゆきのした)
    井戸端の管まく話鴨足草
黴(かび)
    道端に柔らかき飴黴覆ふ
6/30
梅雨茸(つゆだけ)
    梅雨茸や立ち止まらずに頂へ
木耳(きくらげ)
    しこしこと生木耳の生きの良さ
天草(てんぐさ)
    玉砂利に天草拡げ陽にまかせ

俳句手帖 2020-05

俳句手帖 2020-05




5/1
初夏(しょか)
    中田島波とたわむる初夏の我
夏はじめ(なつはじめ)
    夏はじめ大きく開く窓で唄
夏(なつ)
    句投稿靴下はかぬ夏が来た
五月(ごがつ)
    葦が伸ぶ五月の光つぶつぶと
聖五月(せいごがつ)
    聖五月婚衣の二人足揃え
卯月(うづき)
    卯月なりかをりに満ちる煎餅屋
立夏(りっか)
    立夏の港豪華客船接岸す
今朝の夏(けさのなつ)
    着替えどもいやに汗ばむ今朝の夏
5/2
夏に入る(なつにいる)
    白頭も狭くなり富士夏に入る
夏来る(なつきたる)
    夏来る波打ち際をかける子ら
清和(せいわ)
    トンネルから見える青さも清和かな
夏浅し(なつあさし)
    夏浅し呼べども緋鯉向こう岸
夏めく(なつめく)
    大冒険夏めく築山昔ごと
夏きざす(なつきざす)
    夏きざす雨だれ如しペンキかな
薄暑(はくしょ)
    殿散歩木陰の欲しい薄暑かな
麦の秋(むぎのあき)
    空高し釜先光る麦の秋
5/3
小満(しょうまん)
    小満や小川も多く草流る
五月尽(ごがつじん)
    高し空あくまで高し五月尽
夏霞(なつがすみ)
    佐鳴湖に岸を隠すや夏霞
夏の空(なつのそら)
    バイク行くカーブの向こう夏の空
夏の星(なつのほし)
    名も知らぬ夜中にのぞむ夏の星
夏の風(なつのかぜ)
    洗濯や一纏めなり夏の風
木の芽流し(このめながし)
    木の芽流し気合を込めてカッパ着る
茅花流し(つばなながし)
    迎え行く茅花流しの傘を持ち
5/4
筍流し(たけのこながし)
    竹撓る筍流し急ぐ足
青嵐(あおあらし)
    葉擦れ音障子震わす青嵐
麦嵐(むぎあらし)
    空は澄み鳥押し戻す麦嵐
あいの風(あいのかぜ)
    航跡伸ぶ能登路を一人あいの風
だし
    だし強し足ごと滑り帆掛け舟
黄雀風(こうじゃくふう)
    まくりあがる黄雀風の吹く浜辺
卯の花腐し(うのはなくだし)
    小さき庭卯の花腐し敷き詰めて
走り梅雨(はしりづゆ)
    こうもりやこだわり込めて走り梅雨
5/5
前梅雨(まえづゆ)
    前梅雨や傘も新しけふも降る
卯月曇(うづきぐもり)
    練習日卯月曇が球白し
夏富士(なつふじ)
    白帽子脱いで夏富士赤くなり
夏山(なつやま)
    夏山の匂い新し草の息
青嶺(あおね)
    牛は啼く柵新しき遠青嶺
夏山路(なつやまじ)
    じりじりと背中の暑さ夏山路
卯月野(うづきの)
    卯月野や草を分け入り花を描き
夏の園(なつのその)
    心地よき朝の草触る夏の園
5/6
夏の庭(なつのにわ)
    主植ふ葉は憶えて夏の庭
夏の湖(なつのみずうみ)
    藻が増える夏の湖貸しボート
青岬(あおみさき)
    青岬ウィンドサーフィン帆先消ゆ
卯浪(うなみ)
    卯浪立つ運搬船は東へと
青葉潮(あおばじお)
    去年のごみ舳先に多し青葉潮
代田(しろた)
    明日を待つ代田に映る星の数
更衣(ころもがえ)
    電車内まばゆい白さ更衣
夏物(なつもの)
    夏物のポケット足りぬ停留所
5/7
袷(あわせ)
    箪笥の底去年にしまひし袷かな
セル
    日傘さすセルの袖抜く羽風かな
レース編む(れーすあむ)
    テーブルの上がさみしやレース編む
夏帽子(なつぼうし)
    陽が強しけふはお古の夏帽子
身欠鰊(みがきにしん)
    箱売りの身欠鰊に重なる手
豆飯(まめめし)
    豆飯の泡が噴き出る陶器釜
筍飯(たけのこめし)
    筍飯山盛りよそふ夕餉かな
粽(ちまき)
    河原の笹大きさ選び粽まく
5/8
柏餅(かしわもち)
    内祝大柏餅どんと来る
菖蒲酒(しょうぶざけ)
    風呂上りかをり嗜む菖蒲酒
新節(しんぶし)
    新節や未だ柔らかき削り初め
生節(なまぶし)
    頂き物生節握る思案顔
干河豚(ほしふぐ)
    干河豚や土産に配る味の良さ
伽羅蕗(きゃらぶき)
    伽羅蕗や我好まざる第一位
新茶(しんちゃ)
    新茶出来工場からのメールあり
古茶(こちゃ)
    畑の差かをり薄れし古茶の味
5/9
夏炉(なつろ)
    つぎ足さぬ夏炉の炭が点き具合
苗売(なえうり)
    苗売り屋今年もまよい辿り着く
麦刈(むぎかり)
    麦刈や一束かろし並ぶ畝
麦扱(むぎこき)
    麦扱や足踏む音が届く空
新麦(しんむぎ)
    新麦やなかは冷たき一斗升
麦藁(むぎわら)
    麦藁を今年もあまへ納めたり
麦藁籠(むぎわらかご)
    麦藁籠ねじれて上る虫もゐて
麦飯(むぎめし)
    麦飯に慣れた口には粘る米
5/10
袋掛(ふくろかけ)
    日に焼ける我もかけたし袋掛
溝浚(みぞさらえ)
    溝浚確かめ終わる流れかな
代掻(しろかき)
    代掻やもーと一声田に入りぬ
茄子植う(なすうう)
    汗ばみて行燈囲み茄子を植う
菜種刈(なたねがり)
    実がいりてそつと束ねる菜種刈
天草取(あまくさとり)
    盛り上がる天草取の海女が泡
上蔟(じょうぞく)
    桑刈も上蔟始めk
繭(まゆ)
    品評会遜色もなき繭の玉
5/11
糸取り(いととり)
    子をおぶい糸取り続け子らを待つ
夏スキー(なつすきー)
    日焼け止めまばらになりて夏スキー
憲法記念日(けんぽうきねんび)
    憲法記念日なかったことに捻じ曲げる
ゴールデンウィーク
    ゴールデンウィークコロナ色にと変わりけり
メーデー
    美しきまやかし言葉メーデーも
こどもの日(こどのひ)
    連休のしんがりに在りこどもの日
母の日(ははのひ)
    母の日も朝昼晩と飯を炊く
バードウィーク
    バードウィーク被害甚大無対策
5/12
端午(たんご)
    柱にも記念刻みし端午かな
鯉幟(こいのぼり)
    絡み合いポールを倒す鯉幟
矢車(やぐるま)
    矢車やゆつくりまわる闇の中
吹流し(ふきながし)
    吹き流し伸ばして測る吾子の丈
幟(のぼり)
    跡継ぎ喜びしらす幟たて
武者人形(むしゃにんぎょう)
    髭もじゃの武者人形は向こう向き
菖蒲湯(しょうぶゆ)
    菖蒲湯や肌にゆらりと柔らかき
夏場所(なつばしょ)
    夏場所や櫓の上のふれ太鼓
5/13
ダービー
    ダービーや拳に力賭けなくも
くらやみ祭(くらやみまつり)
    くらやみ祭山車が巡行吾子もひく
諏訪の御柱祭(すわのおんばしらまつり)
    諏訪の御柱祭囃子響くや崖の上
葵祭(あおいまつり)
    空は澄葵祭が陽射しかな
神田祭(かんだまつり)
    神田祭夜は静かに能舞台
三社祭(さんじゃまつり)
    三社祭大群衆に神輿渡御
練供養(ねりくよう)
    詠歌が列祖母もその中練供養
聖母月(せいぼづき)
    聖母月庭埋め尽くす白い薔薇
5/14
昇天祭(しょうてんさい)
    昇天祭森の男ら酒を浴び
義経忌(よしつねき)
    反対しますツイート多し義経忌
万太郎忌(まんたろうき)
    万太郎忌横に並びて蕎麦啜る
朔太郎忌(さくたろうき)
    ブラジルの友朔太郎忌にコーヒーを
多佳子忌(たかこき)
    多佳子忌や白いドレスが道の果て
袋角(ふくろづの)
    突き返す温き脈打つ袋角
蛇衣を脱ぐ(へびきぬをぬぐ)
    風に舞う街路樹の上蛇衣
雨蛙(あまがえる)
    玄関のサッシにピタリ雨蛙
5/15
青蛙(あおがえる)
    登り着く吸いて葉の色青蛙
枝蛙(えだかわず)
    枝蛙けふはガラスへ腹の柄
水鶏(みずとり)
    水鶏や茂る笹の間駆け抜けり
青鷺(あおさぎ)
    青鷺や頭上滑空風をきり
白鷺(しろさぎ)
    白鷺や田んぼの中でここにあり
葭五位(よしごい)
    過ぎ去りぬ葭五位のさき竿入れる
笹五位(ささごい)
    笹五位や終日立ちて木の如し
鯵刺(あじさし)
    鯵刺や飛び込む海の青さかな
5/16
夏燕(なつつばめ)
    群れ外れ宙返り見せ夏燕
大瑠璃(おおるり)
    大瑠璃や森に響くや庄屋跡
小瑠璃(こるり)
    口笛に梢の小瑠璃答え啼く
黄鶲(きびたき)
    せせらぎに黄鶲唄ふ山の家
野鶲(のびたき)
    揺れる枝野鶲が啼く野原ゆく
海酸漿(うみほうずき)
    海酸漿鳴らし唇閉じにけり
蝦蛄(しゃこ)
    すし飯や大ぶりの蝦蛄味の良さ
穴子(あなご)
    明石駅途中下車して穴子買ふ
5/17
鱚(きす)
    揚げたて天つゆ浴びる鱚の味
鯖(さば)
    幼き日近所の祝いしめた鯖
飛魚(とびうお)
    飛魚と聞いてとびつく夕ご飯
烏賊(いか)
    魚屋のおすすめレシピ烏賊を焼く
山女(やまめ)
    囲炉裏端山女を焼いてコップ酒
穀象(こくぞう)
    穀象を入れてはならぬ精米所
斑猫(はんみょう)
    斑猫にペース合わせて帰り道
蝉生る(せみうまる)
    蝉生る朝の釣瓶が重きかな
5/18
白蟻(しろあり)
    表面中はすかすか白蟻よ
羽蟻(はあり)
    羽蟻脱出証拠遺すや窓の下
蠅(はえ)
    打たないで蠅の訴え手をこする
家蠅(いえばえ)
    家蠅や動き素早く主に似
金蠅(きんばえ)
    金蠅の輝く羽色見とれけり
余花(よか)
    山頂が見える横にも余花があり
若葉の花(わかばのはな)
    目に優し若葉の花が庄屋跡
葉桜(はざくら)
    落ちてこぬ葉桜の下風抜けて
5/19
薔薇(ばら)
    ドイツから女主が自慢薔薇
牡丹(ぼたん)
    一ツ家や何もない庭牡丹咲く
白牡丹(しろぼたん)
    暗闇に咲く白牡丹我此処と
石南花(しゃくなげ)
    天城路や石南花と会ふ汗まみれ
繍毬花(てまりばな)
    手毬花手のひらに散る車椅子
金雀枝(えにしだ)
    金雀枝の彩りのぞく塀の上
泰山木の花(たいざんぼくのはな)
    高々と泰山木の花遠くあり
蜜柑の花(みかんのはな)
    実が残る早く食べろと蜜柑花
5/20
栗の花(くりのはな)
    雨降れどにほひ舞ひくる栗の花
新緑(しんりょく)
    新緑に囲まれ下る最上川
新樹(しんじゅ)
     車椅子新樹の森へ立入りて
夏木立(なつこだち)
    夏木立ドンの音なき古やしろ
若葉(わかば)
    赤レンガ若葉眩しく覆いけり
谷若葉(たにわかば)
    朝の鐘遙かに深き谷若葉
柿若葉(かきわかば)
    青い空一気に萌ゆる柿若葉
椎若葉(しいわかば)
    爽やかに風を返すや椎若葉
5/21
樫若葉(かしわかば)
    防犯灯塀の向こうの樫若葉
樟若葉(くすわかば)
    天空へ沸き上がりたり樟若葉
若楓(わかかえで)
    吾子に手や若楓より一回り
夏柳(なつやなぎ)
    夏柳弱き風吹く闇の中
常盤落葉(ときわおちば)
    雨降れば常盤落葉や地にぺたり
椎落葉(しいおちば)
    目覚めたるせわし降る音椎落葉
樫落葉(かしおちば)
    若者に押し落とされし樫落葉
檜落葉(ひのきおちば)
    檜落葉たなびく煙裏の山
5/22
樟落葉(くすおちば)
    古刹ぬけ掃いても積もる樟落葉
松落葉(まつおちば)
    搔き集め煙のぼるや松落葉
杉落葉(すぎおちば)
    風呂焚きや燃え立つかをり杉落葉
卯の花(うのはな)
    卯の花のにをふ垣根の闇夜かな
茨の花(いばらのはな)
    茨の花かをれど寄せぬ青い棘
桐の花(きりのはな)
    渓を行く車一台桐の花
朴の花(ほおのはな)
    ビルの窓眼下大きな朴の花
槐の花(えんじゅのはな)
    ランチタイム槐の花の並木道
5/23
栃の花(とちのはな)
    栃の花なお穂の高き巨木哉
マロニエの花(まろにえのはな)
    マロニエの花仰ぎて通りあの人も
アカシアの花(あかしあのはな)
    アカシアの花雨が似合うと古き盤
棕櫚の花(しゅろのはな)
    棕櫚の花遙か高くに招く如
水木の花(みずきのはな)
    水木の花誰ぞ名づけぬ悲しとは
山毛欅の花(ぶなのはな)
    山毛欅の花雄花雌花と葉を挟み
大山蓮華(おおやまれんげ)
    俯きて大山蓮華包む如
庭石菖(にわぜきしょう)
    庭石菖空き地あちこち咲き始む
5/24
著莪の花(しゃがのはな)
    築山を全山白し著莪の花
アイリス
    アイリスや肥料少なく花サイズ
ゼラニウム
    手を入れず絶える事無きアイリスよ
罌粟の花(けしのはな)
    罌粟の花これからですとお辞儀かな
雛罌粟(けしぐり)
    雛罌粟や終いのふりして咲き始め
カーネーション
    カーネーション咲き始まるか母の日に
マーガレット
    マーガレット遠き島より我が庵
カラー
    庭の隅カラーを染める日暮れ色 
5/25
擬宝珠の花(ぎぼしのはな)
    擬宝珠の花控えめに頭下ろしけり
げんのしょうこ
    戦場やげんのしょうこを干残し
都草(みやこぐさ)
    去年の庭妻と眺めし都草
朝顔の苗(あさがおのなえ)
    赤い鉢朝顔の苗吾子運ぶ
萱草(かんぞう)
    萱草や日暮れ間近と逢瀬かな
鉄線花(てっせんか)
    花壇奧塀に絡ます鉄線花
玉巻く芭蕉(たままくばしょう)
    築山や玉巻く芭蕉伸びる先
苺(いちご)
    二粒目酸っぱい苺歯は嫌ふ
5/26
苺畑(いちごばたけ)
    わくわくと苺畑が染める色
糸瓜苗(へちまなえ)
    ひょろ長い選べばそれは糸瓜苗
瓢苗(ひさごなえ)
    間引きして四枚葉へと瓢苗
茄子苗(なすなえ)
    灯さない茄子苗囲みしあんどん
瓜苗(うりなえ)
    朝露や伸びる瓜苗向き変えて
胡瓜苗(きゅうりなえ)
    花ひとつ曲がるな直に胡瓜苗
山椒の花(さんしょうのはな)
    母の名を思い出したる花山椒
山葵の花(わさびのはな)
    奥伊豆や山葵の花も咲き頃で
5/27
野蒜の花(のびるのはな)
    湾曲に野蒜の花占める畦
牛蒡の花(ごぼうのはな)
    ちりぢりに牛蒡の花を引き抜きぬ
藜(あかざ)
    杖示す草むらに立つ藜かな
豌豆(えんどう)
    豌豆や烏がジャンプ食べ頃を
莢豌豆(さやえんどう)
    実がぽろり莢豌豆や莢を割る
蚕豆(そらまめ)
    甲冑の如蚕豆纏う熱き莢
筍(たけのこ)
    筍や枯葉掻き分け空を見て
蕗(ふき)
    雨しのぐ下駄も濡れなく蕗の下
5/28
キャベツ
    キャベツ割黄色き花ぞ伸びにけり
夏大根(なつだいこん)
    夏大根中まで硬しおろし金
麦(むぎ)
    麦扱きやうをんうをんと空響く
5/29
麦の穂(むぎのほ)
    一本だけ黒い麦の穂指ではね
麦畑(むぎばたけ)
    刈り込めど未だ先見えぬ麦畑
烏麦(からすむぎ)
    丈高く雀ら呼ぶや烏麦
5/29
大麦(おおむぎ)
    柔らかき大麦畑穂のなびき
小麦(こむぎ)
    小麦刈る母のスピード追い越して
踊子草(おどりこそう)
    はにかみて踊子草は君の手に
5/30
捩花(ねじばな)
    捩花や問われ明かさず幾人ぞ
蛇苺(へびいちご)
    旨くとも名前で寄せぬ蛇苺
浦島草(うらしまそう)
    浦島草どこまで伸ばす崖の下

目次へ戻る



俳句手帖 2020-04

 俳句手帖 2020-04



晩春(ばんしゅん)
      晩春の水平線を右左
四月(しがつ)
     二階よりレコード流る四月尽
弥生(やよい)
     弥生の夜バカ殿様の白化粧
清明(せいめい)
     清明の日風呂焚くたきぎ背において
春暁(しゅんぎょう)
     春暁や通り急ぎし下駄の音
春昼(しゅんちゅう)
     春昼や一瞬寝落ち巻き戻し
春の夕(はるのゆう)
     五右衛門の炎見つめて春の夕
春の暮(はるのくれ)
     春の暮おやじは何をお土産か
春の夜(はるのよ)
     滲むインク温し春の夜寝落ちあと
麗か(うららか)
     麗かな縁側に祖母ゆらゆらと
長閑(のどか)
     犬は引く長閑な道の昼下り
日永(ひなが)
     さざ波を数えて過ごす日永哉
遅日(ちじつ)
     いつまでも遊び過ごすや遅日かな
花冷(はなびえ)
     花冷や綴りたしこと多きペン
花時(はなどき)
     花時や今宵の花が咲き具合
蛙の目借時(かえるのめかりどき)
     向こうの娘バスやり過ごす目借時
穀雨(こくう)
     詠み始む最終章は穀雨かな 
春深し(はるふかし)
      春深し蜜の香りや虫が舞ふ
八十八夜(はちじゅうはちや)
     この匂い八十八夜排気筒
行く春(ゆくはる)
     行く春や相輪が上雲もなく
春惜しむ(はるおしむ)
     春惜しむみたらし団子列をなし
夏近し(なつちかし)
     夏近しガラス触れあう音が来て
弥生尽(やよいじん)
    弥生尽船ゆっくりと北へ向く
四月尽(しがつじん)
    四月尽海に足入れ磨く舟
春の空(はるのそら)
    柱背にひねもす眺む春の空
春の雲(はるのくも)
    髪流る誰かに似てる春の雲
春の月(はるのつき)
    草原をくまなく照らす春の月
朧(おぼろ)
    朧夜や故郷かをる街の灯よ
春の闇(はるのやみ)
    春の闇木の花かをる散歩道
春風(はるかぜ)
    マフラーや暑く締めたる春の風 
春嵐(はるあらし)
    場所取りのシート巻き上げ春嵐
風光る(かぜひかる)
    サーファーの後ろの波も風光る
黄砂(こうさ)
    ぼんやりと山は霞か黄砂かな
春塵(しゅんじん)
    運動場鼻を塞ぎて春埃
菜種梅雨(なたねづゆ)
    菜種梅雨一雨ごとの温さかな
春の雨(はるのあめ)
    春の雨濡れたくもなき一人旅
別れ霜(わかれじも)
    別れ霜茶畑に建つ扇風機
春の虹(はるのにじ)
    春の虹東の空にいつもでて
春陰(しゅんいん)
    春陰や煙出したる窯の跡
花曇(はなぐもり)
    川静かごろごろ石が花曇
春の夕焼(はるのゆうやけ)
    叶わぬゆめ春の夕焼浴び歩く
蜃気楼(しんきろう)
    海の向こうコロナに惑う蜃気楼
フェーン
     日本一風炎が郷佐久間なり
春の海(はるのうみ)
    下り坂曲がれば臨む春の海
春潮(しゅんちょう)
    春潮の浜をひたひた父のあと
春田(はるた)
    手慣れてぬ叔父の鞭する春田かな
苗代(なえしろ)
    ふわふわのカステラ如き苗代田
春の園(はるのその)
    手のばして転がりの跡春の園
春の土(はるのつち)
    ふわふわと今にも舞ひそ春の土
逃水(にげみず)
    逃げ水に追ひつけないかこの新車
花衣(はなごろも)
    花衣吾子の棺にそつと掛け
春服(しゅんぷく)
    春服を纏ひて年をかくしたし
春帽子(はるぼうし)
    艶やかな花弁多し春帽子
春日傘(はるひがさ)
    ささまいか曇り空観る春日傘
花菜漬(はななづけ)
    食べ頃と夕餉一皿花菜漬
桜漬(さくらづけ)
    桜湯を口にし初めし姉の宴
桜餅(さくらもち)
    枝手折りかをる葉っぱが桜餅
春灯(しゅんとう)
     浮き心今宵は春灯並べたく
春ともし(はるともし)
    心込め鞄の手紙春ともし
羊の毛剪る(ひつじのけきる)
    疾走す羊の毛剪る荒い息
霜除けとる(しもよけとる)
    差し込む陽霜除けをとる跳ねる色
草餅(くさもち)
    道の駅草餅試食それなりで
鶯餅(うぐいすもち)
    季節もの料理教室鶯餅
種浸し(たねひたし)
    種浸ししいなが浮かぶ塩加減
種俵(たねだわら)
    少しでも南京袋種俵
種案山子(たねかがし)
    白糸や縦横斜め種案山子
田打(たうち)
    日曜日親父の田打秘密基地 
朝顔蒔く(あさがおまく)
    朝顔蒔く鉢は大きく数足りぬ
霜くすべ(しもくすべ)
    スーパームーン煙で隠す霜くすべ
茶摘(ちゃつみ)
    遠くからリズムちゃきちゃき茶摘かな
桑摘(くわつみ)
    想い出は桑摘の日雨に会い
畦塗(あぜぬり)
    鏡富士またいで父ぞ畦を塗り
鮎汲(あゆくみ)
    石のけて流れも澄みて鮎を汲み
上り簗(のぼりやな)
    時機到来行きつく先や上り簗
鯛網(たいあみ)
    跳ねる鯛網に捕らわれ客のもと
海女(あま)
    海女衣飛び込む開く海の中
汐干狩(しおひがり)
    汐干狩けふは何時と問いかけり
観潮(かんちょう)
    観潮や船尾の泡は慌ただし
壺焼(つぼやき)
    壺焼の極意忘れて肝逃がす
遠足(えんそく)
    遠足や卵の黄身は鯉にやり
花見(はなみ)
    行きたくて花見が名所話す君
花疲(はなづかれ)
    庭の隅掃いても積もる花疲
ボートレース(ぼーとれーす)
    ボートレース横の車が遅きなり
猟期終る(りょうきおわる)
    小心は猟期終われど鍵を掛け
風船(ふうせん)
    武生より赤い風船風に載り
風車(かざぐるま)
    乳母車静かに眠る風車
石鹸玉(しゃぼんだま)
    虹色がくるくる廻る石鹸玉
ぶらんこ
     ぶらんこや手招きしたし歩きたし
朝寝(あさね)
    節穴の光線示す朝寝かな
春眠(しゅんみん)
      春眠を新聞配りかき破り
春愁(しゅんしゅう)
       春愁や遠きにありて近き人
春の夢(はるのゆめ)
    あの笑顔ふつと現る春の夢
入学(にゅうがく)
    入学にとコードバンは雨に濡れ
新社員(しんにゅうしゃいん)
    門前の新社員白カード
四月馬鹿(しがつばか)
    朝寒し何を企て四月馬鹿
義士祭(ぎしさい)
    大石と出会う義士祭出す色紙
十三詣(じゅうさんまいり)
    大人よと十三詣裾の丈
嵯峨念仏(さがねんぶつ)
    二十番嵯峨念仏ひとり観て
春祭(はるまつり)
    笙聞こゆ歩き早まる春祭
開帳(かいちょう)
    手を合わす青空のもと御開帳
遍路(へんろ)
    菜の花や行く先示す遍路道
仏生会(ぶっしょうえ)
    幼子や杓子届かぬ仏生会
花祭(はままつり)
    指を指し吾子真似をする花祭
甘茶(あまちゃ)
    我先と甘茶を注ぐ稚児の列
花御堂(はなみどう)
    空晴れる持つ手渡す手花御堂
虚子忌(きょしき)
    談笑や人憚らず虚子忌かな
復活祭(ふっかつさい)
    金色で卵を包む復活祭
仔馬(こうま)
    立ち上がり乳房求めし仔馬かな
孕み鹿(はらみじか)
    赤信号最後尾にて孕み鹿
落し角(おとしづの)
    若草山二つ揃えて落し角
仔猫(こねこ)
    真白き汚れも知らぬ仔猫かな
亀鳴く(かめなく)
    亀鳴くや向こうの岸に夢御堂
蝌蚪(かと)
    温き水花火の如し蝌蚪開く
お玉杓子(おたまじゃくし)
    頭振りお玉杓子は数センチ
蛙(かわず)
    足音や蛙人蹴り向こう岸
囀(さえずり)
    庄屋跡囀一羽森深し
鳥交る(とりさかる)
    歓喜の舞前に後ろに鳥の恋
百千鳥(ももちどり)
    若返る鎮守の森へ百千鳥
鶯(うぐいす)
    障子越し鶯啼きてランドセル
春の雁(はるのかり)
    シルエット仲間見送る春の雁
残る鴨(のこるかも)
    ゆつたりと湖面を滑る残る鴨
古巣(ふるす)
    今年も来た古巣繕ふ嬉々如し
燕の巣(つばめのす)
    二階から眠気眼に燕の巣
桜鯛(さくらだい)
    桜鯛大きいからか釣り落とし
魚島(うおじま)
    魚島に挑む指先流る潮
鰊(にしん)
    グーグルに跡形もなく鰊小屋
鰆(さわら)
    白波を蹴立てて競う鰆船
鯥五郎(むつごろう)
    引き潮やダンスを披露鯥五郎
鮊子(いかなご)
    鮊子に混じり一本五寸釘
乗込鮒(のっこみぶな)
    大将や乗込鮒の先陣を
蛍烏賊(ほたるいか)
    網の目のありかを示す蛍烏賊
蛤(はまぐり)
    お吸い物蛤開く葱入れり
桜貝(さくらがい)
    大波の一片あとに桜貝
栄螺(さざえ)
    素潜り手袋一杯栄螺かな
浅蜊(あさり)
    砂の中浅蜊が住処当てる指
桜蝦(さくらえび)
    定刻に桜蝦舟白波を
汐招き(しおまねき)
    誘われて時間忘れて汐招き
寄居虫(やどかり)
    寄居虫や元に戻れぬ去年の家
磯巾着(いそぎんちゃく)
    潮は引く磯巾着も一休み
海胆・雲丹(うに)
    売り切れし雲丹のふりかけアマゾンも
蝶(ちょう)
    伸びきりしかんらんの花舞ふは蝶
春の蚊(はるのか)
    温暖化春の蚊刺すややわき肌 
虻(あぶ)
    虻群れる湯気立ち昇る牛の尿(しと)
春の蠅(はるのはえ)
    とぐろまく友の野糞や春の蠅
蠅生る(はえうまる)
    金色が羽根何処で蠅生る
蚕(かいこ)
    無双窓こぼれる光蚕かな
春蝉(はるせみ)
    春蝉や坂の途中に蜆塚
松毟鳥(まつむしり)
    松毟鳥いたよ来たよと妻が声
初桜(はつさくら)
    校庭を一巡りせど初桜
桜(さくら)
    曲がらない終り見えない桜坂
花盛り(はなさかり)
    花盛り過ぎて衣装ぞ狂い咲き
山桜(やまざくら)
    咲き誇る葉っぱ追い越す山桜
八重桜(やえざくら)
    ぼったりと枝は折れぬか八重桜
遅桜(おそざくら)
    そろそろと退院を待つ遅桜
落花(らっか)
    掃く女落花楽しむ粋もなし
残花(ざんか)
    残花散る緑一色戻る山
桜蕊降る(さくらしべふる)
    色変わり桜蕊降る朝の庭
沈丁花(じんちょうげ)
    風にのりにほひ届し沈丁花
辛夷(こぶし)
    帰れない郷は今頃辛夷咲く
紫荊(はなずおう)
    玄関へ大きな花瓶紫荊
海棠(かいどう)
    海棠を抜いて抜け道裏の畑
ライラック
     ライラック花覆われて時計台
山桜桃の花(ゆずらのはな)
    列造り園児が頬へ山桜桃かな
青木の花(あおきのはな)
    久々の夫婦で愛でる花青木
満点星の花(どうだんのはな)
    満点星の花くぐり花嫁振り返り
馬酔木の花(あせびのはな)
    ぼんやりと馬酔木の花が夕まぐれ
躑躅(つつじ)
    来年もと鋏を入れし躑躅かな
小紛団の花(こでまりのはな)
    小紛団の吹雪を浴びて車椅子
雪柳(ゆきやなぎ)
    雪柳一陣の風一纏め
藤(ふじ)
    藤棚や朝一番に絨毯
山吹(やまぶき)
    山吹や何処に咲くや武蔵野か
桃の花(もものはな)
    八重しだれ重い花弁桃の花
李の花(すもものはな)
    李の花白き小さき寄りあいて
梨の花(なしのはな)
    陽を受けて受粉作業や梨の花
杏の花(あんずのはな)
    杏の花グランドゴルフボールかな
林檎の花(りんごのはな)
    何処までも林檎の花の続く窓
榠樝の花(かりんのはな)
    我ありと榠樝の花も咲きにけり
ネーブル
      ネーブルをどさり一杯朝届き
伊予柑(いよかん)
    伊予柑や旨さ育てし伊予の海
八朔柑(はっさくかん)
    八朔柑にやり豊作父採りぬ
三宝柑(さんぽうかん)
    三宝柑へそが邪魔する選別機
糵(ひこばえ)
    山道を招くがごとく糵ゆる
若緑(わかみどり)
    なまけ癖庭手入れせく若緑
桑(くわ)
    山盛りの桑籠背負う軽さかな
柳(やなぎ)
    あの笑顔柳の揺れに見え隠れ
木瓜の花(ぼけのはな)
    門先へ父植え遺す緋木瓜かな
松の花(まつのはな)
    築山を黄色く染める松の花
杉の花(すぎのはな)
    この世では嫌われ物と杉の花
楓の花(かえでのはな)
    楓の花葉の色に勝て紅の色
白樺の花(しらかばのはな)
    白樺の花黄色く穂垂る靄の朝
枸橘の花(くちなしのはな)
    枸橘の花指輪も抜けぬ太い幹
樒の花(しきみのはな)
    樒の花見られぬ笑顔偲ばせり
鈴懸の花(すずかけのはな)
    鈴懸の花庭の真ん中たちにけり
通草の花(あけびのはな)
    通草の花覆う花弁停留所
郁子の花(むべのはな)
    絡み付き主を覆う郁子の花
竹の秋(たけのあき)
    髪をすく襟足払ふ竹の秋
春落葉(はるおちば)
    鮮やかな色を残して春落葉
三色菫(さんしきすみれ)
    校庭の三色菫待つ生徒
金盞花(きんせんか)
    花終えて暑さを知るや金盞花
アネモネ
      アネモネや我植え初めし花となり
シネラリア 
     眼帯解く鮮やかな色シネラリア
フリージア 
     風にのり届くかをりやフリージア
チューリップ
     花鉢へ三本揃ふチューリップ
エリカ
     呼んでみるエリカが咲きし花園で
霞草(かすみそう)
    通り雨傘に入れたい霞草
都忘れ(みやこわすれ)
    一本道都忘れが我が家へ
菜の花(なのはな)
    菜の花や月を背にして西の空
大根の花(だいこんのはな)
    大根の花来年こそはあなたの胃
豆の花(まめのはな)
    愛でせども摘みたし摘めぬ豆の花
葱坊主(ねぎぼうず)
    陽は高し今にはじけん葱坊主
独活(うど)
    独活育つ室の灯や真っ直ぐに
茗荷竹(みょうがだけ)
    茗荷竹父の教えが邪魔をして
山葵(わさび)
    生産地山葵のつうは鼻がきく
芥菜(からしな)
    もう一品芥菜のサラダ素早さよ
若草(わかくさ)
    柵の中若草を食む若き牛
柳絮(りゅうじょ)
    傾斜地の角度をつけて柳絮かな
杉菜(すぎな)
    柔らかく築山覆うふ杉菜かな
一輪草(いちりんそう)
    一輪草一茎一花凛として
苧環(おだまき)
    苧環や人目を避けど人目引き
二輪草(にりんそう)
    山の端にペアーが群れる二輪草
熊谷草(くまがいそう)
    人目避け咲く深き谷熊谷草
若布(わかめ)
    産地偽装若布辿れど海の中
鹿尾菜(ひじき)
    もう一品鹿尾菜白和え夕餉かな
角叉(つのまた)
    角叉干す島の女が籠背負う
海雲(もずく)
    3パック迷わず籠へ海雲かな
雨髪(うご)
    透きとほる潮の揺れるや雨髪の揺れ

目次へ戻る


    

俳句手帖 2020-03

 俳句手帖 2020-03



3/1 
春(はる)
   朝日受け春のスカート回り見せ
陽春(ようしゅん)
   陽春や肥え桶担ぐ夫婦棒
春(はる)
   朝日受け春のスカート回り見せ
陽春(ようしゅん)
   陽春や肥桶担ぐ夫婦棒
仲春(ちゅうしゅん) 
   仲春やスマホにはひる吾子の頬
春なかば(はるなかば)
   啼く鳥やはぐれ雲行く春なかば
三月(さんがつ)
   三月や机を整理新ノート
如月(きさらぎ)旧暦二月
   如月の笠追ひ越して雪は舞ふ
3/2
啓蟄(けいちつ)
   啓蟄は既に過ぎしか木々目覚め
春分(しゅんぶん)
   春分を迎ふ観音テント建つ
彼岸(ひがん)
   お彼岸の水掛不動あたる杓
春の日(はるのひ)
   春の日や落慶まぢか新瓦
朧月夜(おぼろづきよ)
   想い出す朧月夜の別れ道
暖か(あたたか)
   懐も暖かけふだけ散財
木の芽時(このめどき)
   すさむ顔やはりあの人木の芽時
芽立時(めだちどき)
   天仰ぐ雲の形も芽立時
3/3
木の芽風(このめかぜ)
   山の音谷の向こうの木の芽風
木の芽晴(このめばれ)
   機織りのリズム途絶えぬ木の芽晴
三月尽(さんがつじん)
   旅鞄コロナが制す三月尽
春日和(はるびより)
   道行けば同級生が春日和
春光(しゅんこう)
   春光や背広新し迎え門
春の色(はるのいろ)
   磨崖仏頬を染めたる春の色
春三月(はるさんがつ)
   春三月忠霊塔に光さす
朧月(おぼろづき)
   一ツ家へ目指す五叉路朧月
3/4
東風(こち)
   飛びたくも都は無理だ東風の風
貝寄風(かいよせ)
   一円が貝寄風に舞う浜の店
涅槃西風(ねはんにし)
   涅槃西風吹けばそのまま足袋の孔
彼岸西風(ひがんにし)
   揺るお面テントおさえる彼岸西風
比良八荒(ひらはっこう)
   比良八荒小舟は騒ぐ巻き結び
春一番(はるいちばん)
   春一番おでこ雨粒彼女来て
春疾風(はるはやて)
   春疾風ネクタイ肩へペダル踏む
春北風(はるきた)
   春北風や札はばたばた準備中
3/5
春雨(はるさめ)
   番傘や春雨が粋開く音
雪の果(ゆきのはて)
   雪の果括られし山羊の一啼き
斑雪(はだれゆき)
   斑雪水琴窟の音となり
春の雹(はるのひょう)
   打つ音の硬いリズムや春の雹
春の霜(はるのしも)
   春の霜振り上げる鍬濡れるかな
春の雷(はるのらい)
   囲炉裏火の消えゆく時の春の雷(
虫出しの雷(むしだしのらい)
   なまけ癖虫出しの雷押し出さぬ
3/6
佐保姫(さおひめ)
   佐保姫や扉開けば唐突に
霞の空(かすみのそら)
   飛行機雲霞の空へ入り込み
霞の海(かすみのうみ)
   水平線霞の海へ置き忘れ
昼霞(ひるがすみ)
   道消える荒野横切る昼霞
遠霞(とおがすみ)
   アルプスの雪が溶けあう遠霞
陽炎(かげろう)
   遥か行く陽炎揺れる人も揺れ
糸遊(いとゆう)
   糸遊や句碑たち並ぶ源長院
鳥曇(とりぐもり)
   温き風羽ばたき試す鳥曇
3/7
鳥風(とりかぜ)
   曇り空鳥風にのり一気消ゆ
春夕焼(はるゆうやけ)
   孫とたつ春夕焼の遊園地
春の山(はるのやま)
   訪ぬれば枯れ枝積り春の山
春嶺(しゅんれい)
   春嶺の麓に一筋炭焼きて
山笑ふ(やまわらう)
   山笑ふ人の笑ふも見るばかり
春の野(はるのの)
   春の野のちさき花にも恵み来て
春郊(しゅんこう)
   春郊の煙一筋三方原
春の水(はるのみず)
   春の水流るる見れば音聞こゆ
3/8
水温む(みずぬるむ)
   水温む絞る溜りがはねる音
春の川(はるのかわ)
   陸揚げしボート一艇春の川
春江(しゅんこう)
   春江や見あぐるビルの反射光
春の瀬(はるのせ)
   春の瀬や根元現わる江戸の杭
春の海(はるのうみ)
   峠道霞も消えて春の海
春の湖(はるのうみ)
   春の湖波だけたてて浅利舟
春の磯(はるのいそ)
   春の磯人の活気が鯛が舞う
春の波(はるのなみ)
   砂に立つ新しボード春の波
3/9
春の潮()はるのしお)
   春潮の伸び来る長さ中田島
彼岸潮(ひがんじお)
   朝夕の砂浜の長き彼岸潮
春田(はるた)
   陽を浴びて春田の畦を直したり
春の園(はるのその)
   春の園モデルの指やてふ誘ふ
春の土(はるのつち)
   振り上げる鍬入れ易き春の土
土匂ふ(つちにおう)
   土匂ふ砂利道を行く新聞屋
春泥(しゅんでい)
   春泥に記念が栞舞ひ落ちて
残雪(ざんせつ)
   北の山残雪に似て去りし人
3/10
雪間(ゆきま)
   うさぎ跳び足跡残す雪間かな
雪崩(なだれ)
   返事待つ雪崩の音が響く胸
雪解(ゆきげ)
   雪解して樹の情熱や描く円
雪解水(ゆきげみず)
   砂利道やあくまで清し雪解水
雪解川(ゆきげがわ)
   大雪を溶かして早し雪解川
雪しろ(ゆきしろ)
   雪しろや湯気立ち昇る牛が尿
雪濁り(ゆきにごり)
   雪濁り渡し場が跡杭の首
春出水(はるでみず)
   春出水葦の葉先が消えゆかん
3/11
凍解(いてどけ)
   凍解や強きスコップ掘り進み
氷解く(こおりとく)
   氷解くまわりまわって友の家
氷消ゆ(こおりきゆ)
   氷消ゆ水車まわるじわじわと
流氷(りゅうひょう)
   消える流氷帰る父田が動く
春衣(はるごろも)
   春衣合わせて靴も花の色
春コート(はるこーと)
   春コート裏地花よと翻す
春ショール(はるしょーる)
   春ショール風も吹かぬが抑える手
春セーター(はるせーたー)
   春セーター胸の膨らみ眩しくて
3/12
春手袋(はるてぶくろ)
   春手袋色鮮やかに取っ手かな
山葵漬(わさびづけ)
   粕の香に隠れし辛さ山葵漬
木の芽漬(きのめづけ)
   汲み交わす肴ふるさと木の芽漬
田楽(でんがく)
   串に刺す厚き田楽香る味噌
木の芽田楽(きのめでんがく)
   嫌だった木の芽田楽この香よき
子持膾(こもちなます)
   土皿盛る子持膾が山の宿
蒸鰈(むしがれい)
   蒸鰈ともに運ばん風の色
干鰈(ほしがれい)
   罪も無き逆さ吊りなり干鰈 3/13
壺焼(つぼやき) 
   壺焼や煙にむせび炭を足す
焼栄螺(やきさざえ)
   焼栄螺楊枝刺し出す味は肝
蕨餅(わらびもち)
   蕨餅プルプル揺れる白磁皿
草餅(くさもち)
   裏山や草餅搗けと伸び始む
菱餅(ひしもち)
   ビニールで包まれ食えぬ菱餅よ
雛あられ(ひなあられ)
   雛あられ豆撒き如く溢したり
白酒(しろざけ)
   白酒を親父うまそう口寄せる
五加飯(うこぎめし)
   炊き立ての釜に混ぜ込み五加飯
3/14

嫁菜飯(よめなめし)
   ブザーなる鮮やかなあお嫁菜飯
枸杞飯(くこめし)
   孫子守枸杞飯を炊く夕餉迄
春障子(はるしょうじ)
   客みえるらんごくないと春障子
春の炉(はるのろ)
   春の炉や影絵を揺らす小火かな
春炬燵(はるごたつ)
   誰もゐぬ座敷占めたる春の炉
春暖炉(はるだんろ)
   埃つく物置と化す春暖炉
北窓開く(きたまどひらく)
   コロナには北窓開く換気かな
雪囲とる(ゆきがこいとる)
   物音や雪囲とる眩し朝
3/15
雪吊解く(ゆきつりとく)
   ニュースなく雪吊を解く時期知らず
農具市(のうぐいち)
   人いきれ外はあれてる農具市
種売(たねうり)
   種売場壁一面に花模様
物種蒔く(ものだねまく)
   花種蒔く一歩進みて小さき穴
苗床(なえどこ)
   苗床や触れれば崩れ振るいかけ
苗札(なえふだ)
   達筆の花の苗札艶やかか
苗木市(なえきいち)
   誘われて何も買わない苗木市
南瓜蒔く(かぼちゃまく)
   ふわふわの床にあなあけ南瓜蒔く
3/16
桑植う(くわうう)
   日曜の人手も多く桑植うる
剪定(せんてい)
   闇雲な剪定技術なれのはて
接木(つぎき)
   戯れに柿の木に桃を接木して
挿木(さしき)
   多彩色増やす挿木やひとつ色
根分(ねわけ)
   根分けせず庵の萩や自生なり
菊根分(きくねわけ)
   咲きし日を思い描きて菊根分
萩根分(はぎねわけ)
   萩根分筋肉痛が文机
牧開(まきびらき)
   牧開一斉牛や駆けだして
3/17
桑解く(くわとく)
   主ゐぬここはいつの日桑解くか
磯開(いそびらき)
   あやし雲祝詞短く磯開
磯菜摘(いそなつみ)
   灯台を見上げて続く磯菜摘
磯遊(いそあそび)
   干潮と道具も持たず磯遊
木流し(きながし)
   木流しの堰に響くや杣の声
初筏(はついかだ)
   初筏巨岩の上も満開に
摘草(つみくさ)
   泡白き摘草の手を染めにけり
蕨狩(わらびがり)
   切通し捩り昇りて蕨狩
3/18
春の風邪(はるのかぜ)
   濃厚接触避けねばならぬ春の風邪
落第(らくだい)
   昔はいた落第生は今はゐぬ
卒業(そつぎょう)
   いまはもう卒業をするものがない
春休(はるやすみ)
   待ち望む吟行にゆく春休
進級(しんきゅう)
   スタンプ押す祝進級と通信簿
春分の日(しゅんぶんのひ)
   坊主行く春分の日はけさのまま
雛市(ひないち)
   雛市や妻は全品立ち止まり
桃の節句(もものせっく)
   桃の節句菱餅の味青い黴
3/19
雛祭(ひなまつり)
   男だから庭から覘く雛祭
雛納め(ひなおさめ)
   窓を開け午前にひとり雛納め
雛流し(ひなながし)
   冷たいと水押しやりて雛流し
雁風呂(がんぶろ)
   雁風呂や五右衛門を焚く星降る夜
春場所(はるばしょ)
   マスクして春場所迎う桟敷席
三月場所(さんがつばしょ)
   三月場所大取り組に客はゐず
若狭のお水送(わかさのおみずおくり)
   若狭のお水送火の粉が映る鵜の瀬から
修二会(しゅにえ)
   商談すむ修二会の火の粉影の上
3/20
お水取(おみずとり)
   大きな影廊下を走るお水取
彼岸会(ひがんえ)
   富士山を彼岸会おえて僧眺む
遍路(へんろ)
   受ける波ごろ石続く遍路道
西行忌(さいぎょうき)
   温暖化花咲乱る西行忌
利休忌(りきゅうき)
   花一輪壺にさしたる利休の忌
大石忌(おおいしき)
   山科に花は咲いたか大石忌
犀星忌(さいせいき)
   ぬくとさに蕾剥きだす犀星忌
春の鹿(はるのしか)
   若草山草喰い尽くす春の鹿
3/21
蟇穴を出づ(ひきあなをいず)
   蟇穴を出づ去年と世間は変わりなく
蛇穴を出づ(へびあなをいず)
   蛇穴を出づ待つ子らおおき石を持つ
春の鳥(はるのとり)
   谷を越え響く鳴き声春の鳥
雉(きじ)
   飛び逃げる大きく広げ雉の羽根
雲雀(ひばり)
   羽音立て雲雀上より威嚇かな
燕(つばめ)
   短くも燕も浴びる水溜り
引鶴(ひずる)
   山の上引鶴が群れ徐々に消え
白鳥帰る(はくちょうかえる)
   白鳥帰る湖畔に残す羽根ひとつ
3/22
帰雁(きがん)
   上過ぎる帰雁の足や後ろ指す
引鴨(ひきがも)
   引鴨や子らの初旅風にのり
鳥雲に入る(とりくもにいる)
   昼の鐘鳥雲に入る一羽ずつ
囀(さえずり)
   草原の囀を上背が寒し
鳥の巣(とりのす)
   鳥の巣を掛ける木々にも子らの名が
諸子(もろこ)
   鮒よりも諸子を待ちて網の竿
桜貝(さくらがい)
   海岸を捜し歩いて桜貝
地虫穴を出づ(じむしあなをいず)
   地虫穴を出づ待ち構えしやコロナなり
3/23
初蝶(はつちょう)
   初蝶や何処に仲間探し舞ふ
蝶生る(ちょううまる)
   まだ寒き緑が野原蝶生る
紋白蝶(もんしろちょう)
   手を出せば紋白蝶が舞ひおりて
蜂(はち)
   花畑恐れを知らす鉢もゐて
蜂の巣(はちのす)
   蜂の巣や枝を切り詰め場所もなく
椿(つばき)
   椿咲くフォークダンスが廻る昼
彼岸桜(ひがんざくら)
   まず先に彼岸桜や我ありと
辛夷(こぶし)
   辛夷咲く隣りの庭も賑やかに
3/24
三椏の花(みつまたのはな)
   美しき香三椏の花包む紙
沈丁花(じんちょうげ)
   沈丁花屋敷抜け出しかをるかな
連翹(れんぎょう)
   連翹や胸抱く希望門に咲き
土佐水木(とさみずき)
   吊連ね黄鮮やかなり土佐水木
木蓮(もくれん)
   木蓮や白く膨らみ子らを見て
アザレア(あざれあ)
   アザレアや根元ふくらみ植木鉢
芽吹く(めぶく)
   洗面器垣根が芽吹く日が眩し
木の芽(このめ)
   気配れどやはりあの娘は木の芽時
3/25
春林(しゅんりん)
   春林や去年の葉が舞ふきらきらと
柳の芽(やなぎのめ)
   柳の芽剥きだしたくて背伸びして
楤の芽(たらのめ)
   崖つぷち楤の芽をもぐ帰り道
五加木(うこぎ)
   昼飯に頂き物の五加木味噌
枸杞(くこ)
   枸杞飯や湯治の帰り摘みしとは
赤楊の花(はんのきのはな)
   窓向こう赤楊の花満開に
木五倍子の花(きぶしのはな)
   にわか雨木五倍子の花も輝けり
柳絮(りゅうじゅ)
   山並みや棚田に光る柳絮舞ふ
3/26
柳の花(やなぎのはな)
   柳の花濃紫色慎ましく
柏落葉(かしわおちば)
   柏落葉一歩進みて一休み
黄水仙(きずいせん)
   斜面覆う風にも強し黄水仙
喇叭水仙(らっぱすいせん)
   お辞儀する喇叭水仙首重し
花簪(はなかんざし)
   吾子の髪花簪を編み飾り
諸喝菜(しょかっさい)
   道なりへ間隔揃え諸喝菜
君子蘭(くんしらん)
   我が家にも大きな葉振り君子蘭
菊の苗(きくのなえ)
   母の手が浅く挿し植え菊の苗
3/27
茎立(くくたち)
   茎立のキャベツが花は伸ぶ黄色
春菜(はるな)
   金魚ごと子ら引き連れて春菜摘む
春大根(はるだいこん)
   薹が立つ畑一角春大根
韮(にら)
   レバ韮が今夜のメニュー湯気の中
浅葱(あさつき)
   楽天に浅葱のあり新しか
分葱(わけぎ)
   うどんより青くて長い分葱あり
雪間草(ゆきまぐさ)
   尾瀬ヶ原先争いて雪間草
3/28
双葉(ふたば)
   風一陣双葉なめらか撫で過ぎぬ
菫(すみれ)
   側溝とわずかな土に菫咲く
薺の花(なずなのはな)
   薺の花終りを待ちてぺんぺんと
蒲公英(たんぽぽ)
   草の影隠れていても蒲公英よ
3/29
土筆(つくし)
   待ち人へ荒れ地に群れし土筆撮り
蕨(わらび)
   誘われど蕨狩ほどつまらなさ
薇(ぜんまい)
   薇やほどいてくれと首ひとつ
春蘭(しゅんらん)
   春蘭やひび走らせて破壊力
3/30
一人静(ひとりしずか)
   一人静咲く峠越し恋したし
二人静(ふたりしずか)
   吾子は逝く二人静な一年忌
嫁菜(よめな)
   包丁の切り刻む音嫁菜飯
茅花(つばな)
   耐え忍ぶ銀色茅花分離帯
3/31
水草生ふ(みずくさおう
   舟ゆらり波紋ひろがる水草生ふ
蘆の角(あしのつめ)
   波しぶき鯉はかきわけ蘆の角
紫雲英(げんげ)
   紫雲英原蜜吸いたしと白き紙

目次へ戻る



俳句手帖 2020-02


初春(しょしゅん)
   我一人初春の海へ漕ぎださぬ
二月(にがつ)
   二月には父は帰るか空いた席
二月早(にがつはや)
   二月早旅に出る夢二度も見る
睦月(むつき)
   寒さ溶け睦月に生まれこの名前
旧正月(きゅうしょうがつ)
   旧正月着るものだけは出し揃え
節分(せつぶん)
   節分や鬼女房の手へ豆を
寒明(かんあけ)
   寒明を待ちて兎もひとまわり
寒終る(かんおわる)
   寒終わる知らせなくとも出る畑
寒過ぎる(かんすぎる)
   寒過ぎるいよいよ硬し霰餅
立春(りっしゅん)
   立春を過ぎたら着るスプリングコート
春立つ(はるたつ)
   カーテンを突き抜け照らす春立つ日
早春(そうしゅん)
   早春に立つ帆柱や波静か
春浅し(はるあさし)
   春浅し日差しを受けて染物屋
春早し(はるはやし)
   春早し桶屋の土間は静かなり
春淡し(はるあわし)
   春淡し草の上立つ我が庵
冴返る(さえかえる)
   冴返る女医急ぎいる手術室
寒戻る(かんもどる)
   寒戻る変換キーを再度打つ
凍返る(いてかえる)
   凍返る納豆ごはんかき混ぜて
余寒(よかん)
   留守電や胃全摘報告余寒かな
残る寒さ(のこるさむさ)
   玄関や残る寒さに振るう朝
春寒(はるさむ)
   春寒やジャスミン茶どつと淹れ
春遅し(はるおそし)
   春遅し鯉が背鰭をくねらせし
春めく(はるめく)
   春めく朝玄関に置く手袋ぞ
春動く(はるうごく)
   頬紅を目尻に少し春動く
春きざす(はるきざす)
   春きざす博物館の聯を問う
魚氷に上る(うおひにのぼる)
   魚氷に上る郷土俳人個人展
雨水(うすい)
   中田島風紋も消す雨水かな
二月尽(にがつじん)
   あの笑窪あの歌手も逝く二月尽
二月果つ(にがつはつ)
   最果ての写真が届く二月果つ
春時雨(はるしぐれ)
   蛇の目傘どこか温きや春時雨
春の星(はるのほし)
   子を送る子も見るだろう春の星
春の雪(はるのゆき)
   ふわり舞うすぐに溶けぬか春の雪
春吹雪(はるふぶき)
   けふも降る麦の畑に春吹雪
淡雪(あわゆき)
   淡雪やあなたの地ではやさしかろ
牡丹雪(ぼたんゆき)
   牡丹雪跳ねてよろこぶ初赴任
涅槃雪(ねはんゆき)
   走りゆく列車の窓へ涅槃雪
春の霙(はるのみぞれ)
   厳寒にふりこむ春の霙かな
春の霰(はるのあられ)
   干す霰春の霰ぞ仕打がに
霞(かすみ)
   富士山はけふも霞て山向こう
朝霞(あさがすみ)
   朝霞白髪に杖の表れて
夕霞(ゆうがすみ)
   ちさき犬メタボの祖母と夕霞
焼野(やけの)
   舞いおりる灰も落ち着き焼野かな
焼原(やけはら)
   焔なく焼原広くなりにけり
末黒(すぐろ)
   風巻きぬ想定外が末黒なり
末黒野(すぐろの)
   末黒野や薪の針金輪の形
水の春(みずのはる)
   水盤へコップ一杯春の水
堅雪(かたゆき)
   下駄の歯をかんと返すや雪堅し
雪泥(ゆきどろ)
   雪泥を避けて通れぬ道の幅
薄氷(うすらい)
   薄氷の漂う池を鳥の発つ
残る氷(のこるこおり)
   吹く風や残る氷を押しにけり
春の氷(はるのこおり)
   手で遊ぶ春の氷や薄きかな
春袷(はるあわせ)
   浮き心裾も軽きや春袷
蕗味噌(ふきみそ)
   蕗味噌や甘味加えし黒し指
木の芽和(きのめあえ)
   誂えし器に盛るや木の芽和
木の芽味噌(きのめみそ)
   酢を利かせ香り引き立つ木の芽味噌
山椒味噌(さんしょうみそ)
   山椒味噌灯りの下にたつ緑
山椒和(さんしょうあえ)
   山椒和終の棲家の夕餉かな
若布和(わかめあえ)
   潮の香や蛸も喜ぶ若布和
田螺和(たにしあえ)
   田を探り今夜のおかず若布和
蜆汁(しじみじる)
   殻積もる閉じるものあり蜆汁
蜆採(しじみとり)
   二俣の流れ静かな蜆採
蜆舟(しじみぶね)
   天竜川帆揚げて上る蜆舟
青饅(あおぬた)
   籠を見せ今夜の膳は青饅よ
鮒膾(ふななます)
   川舟や瀬に乗り上げて鮒膾
胡葱膾(あさつきなます)
   皮硬し胡葱膾知る虫歯
目刺(めざし)
   七輪をだして遠火で目刺焼く
白子干(しらすぼし)
   白子干けふは無いのと問うは妻
鶯餅(うぐいすもち)
   鶯餅白あんが合ふ色と味
菜飯(なめし)
   障子開け菜飯が自慢庄屋跡
白魚捕(しらおとり)
   凪の朝軋む間隔白魚捕
白魚舟(しらおぶね)
   日の出を背次々帰る白魚舟
白魚飯(しらおめし)
   湯気挙げる茶碗一杯白魚飯
白魚鍋(しらおなべ)
   ふるさとの潮の香偲ぶ白魚鍋
味噌豆煮る(みそまめにる)
   音もなく味噌豆を煮る一斗釜
味噌玉(みそだま)
   べちゃべちゃと味噌玉造る話好き
野焼(のやき)
   雪ふれば野焼のトーチ戻しけり
野火(のび) 
   大室山黒く染まりて野火のあと
草焼く(くさやく)
   山頂に黒し煙や草焼く日
丘焼く(おかやく)
   丘焼くや長き棒持ち勢揃ひ
山焼く(やまやく)
   おだやかに山焼く煙頂へ
山火(やまび)
   奈良に来て花火で知るやけふ山火
畑焼く(はたやく)
   畑焼くや運転席にむせる顔
畦焼く(あぜやく) 
   畦焼くやあらぬ方向火を追ひて
畦火(あぜび)
   眺むれば黒縁続く畦火あと
芝焼く(しばやく)
   父歩む芝焼くトーチごーごーと
芝火(しばび) 
   段ボール持てど滑れぬ芝火あと
麦踏(むぎふみ) 
   麦踏や左から右冷える頬
耕(たがやし) 
   耕やエンジン臭き耕運機
耕人(こうじん)
   耕人や牛のうんこを踏みつけて
藍蒔く(あいまく)
   風止みて藍蒔くせなに陽はぬくし
藍植う(あいうう)
   もくもくと藍植う男進みゆく
慈姑掘る(くわいほる)
   慈姑掘る泥にまみれた太い指
若布刈る(わかめかる)
   揺れる舟リズム合わせて若布刈る
若布刈竿(めかりざお)
   若布刈竿探り当てたる根は太き
若布干す(わかめほす)
   輸送船眺めてけふも若布干す
若布刈舟(めかりぶね)
   網寄せる妻は操る若布刈舟
海苔掻(のりかき)
   海苔掻や波の来襲背中の目
海苔粗朶(のりそだ)
   干潮の海苔粗朶が碧いやまして
海苔簀(のりす)
   陽を浴びて日長一日海苔簀干す
海苔舟(のりぶね)
   海苔舟や櫓が音重く帰りきぬ
海苔干す(のりほす)
   風が来る海苔干す浜が忙しく
海苔拾(のりひろい)
   海苔拾赤く染めたる白い腕
鹿尾菜採(ひじきとり)
   鎌を手に足に波寄席せ鹿尾菜採
石蓴採(あおさとり)
   エンジン音ブラシが廻る石蓴採
魞挿す(えりさす)
   鳥は見る魞挿す湖へ着水
磯竃(いそがま)
   囲われて磯窯待つや浜女
磯焚火(いそたきび)
   サーファーや浜女のごとし磯焚火
梅見(うめみ)
   耐えかねて梅見の頃と口出して
観梅(かんばい)
   寒梅と行けど梅園更地なり
梅見茶屋(うめみぢゃや)
   最盛期ジャム漬物と梅見茶屋
春スキー(はるすきー)
   連れだせりマドンナ隣り春スキー
凧(たこ)
   凧はゆく糸従えて安房の国
鶯笛(うぐいすぶえ)
   唄いきる鶯笛か枝は枯れ
雲雀笛(ひばりぶえ)
   湿原を越して聞こゆや雲雀笛
入学試験(にゅうがくしけん)
   いつせいに入学試験捲る音
受験子(じゅけんし)
   受検子に言いてはならぬ禁句とけ
大試験(だいしけん)
   暁の門を目指して大試験
バレンタインデー 
     手に持ちしバレンタインデー入門書
追儺(ついな) 
   恐れつつ追儺が列を追うは子ら
豆撒(まめまき)
   豆撒きや膨らむ袋子ら抱え
柊挿す(ひいらぎさす)
   棘棘の庭の柊挿すは母
建国記念の日(けんこくきねんのひ)
   建国記念の日素直に祝ふいつのこと
建国祭(けんこくさい)
   日の丸や神社は揚げる建国祭
絵踏(ふみえ)
   浮気ばれ絵踏代わりがスマホなり
初午(はつうま)
   初午や思い出す味稲荷寿し
一の午(いちのうま)
   稲荷屋へ行列長し一の午
二の午(にのうま) 
   二の午や闇が境内白く咲く
三の午(さんのうま)
   三の午テントばたつく出店だけ
二月礼者(にがつれいじゃ)
   酒粕を匂はせ二月礼者かな
針供養(はりくよう)
   洋裁学校けふは喋らず針供養
針祭(はりまつり)
   まつしろき豆腐の角や針祭
針納(はりおさめ)
   風吹けど揺れぬ豆腐へ針納
菜種御供(なたねごく)
   稚児の列画像の記憶菜種御供
祈年祭(きねんさい)
   御簾揺らす風も柔らか祈年祭
春祭(はるまつり)
   皺と滲み幟があがる春祭
摩耶詣(まやもうで)
   この馬と今年が最後摩耶詣
涅槃会(ねはんえ)
   涅槃会や声掛け静か庫裏準備
涅槃像(ねはんぞう)
   目尻より雫が跡や涅槃像
涅槃図(ねはんず)
   レーザーポインター涅槃図指すや僧が指
涅槃寺(ねはんでら)
   鬼瓦倒れしままの涅槃寺
梵天(ぼんてん)
   梵天や先を競いて鳥居ぬけ
良寛忌(りょうかんき) 
   手鞠つく直す参道良寛忌
夕霧忌(ゆうぎりき)
   三味線の流るる小路夕霧忌
実朝忌(さねともき)
   大銀杏今は葉も無き実朝忌
かの子忌(かのこき)
   かの子忌や華やぎし頃思い出す
鳴雪忌(めいせつき)
   この年で迷い惑わさる鳴雪忌
多喜二忌(たきじき)
   シベリアより舟を背にして多喜二の忌
茂吉忌(もきちき)
   鳥海山裾野も白き茂吉の忌
逍遥忌(しょうようき)
   雲なくて雪がちらちら逍遥忌
猫の恋(ねこのこい)
   表から裏へと回り猫の恋
浮かれ猫(うかれねこ)
   よろけまい塀の幅視る浮かれ猫
孕み猫(はらみねこ)
   身重でも身軽に跳びて孕み猫
鱵(さより)
   焼きすぎず皮ごと喰らふ鱵かな
白魚(しらうお)
   皿に盛る白魚よりも惚れた指
公魚(わかさぎ)
   公魚や釣り糸避けて群れ泳ぐ
飯蛸(いいだこ) 
   飯蛸や蒸されて赤し日間賀島
蜷(にな)
   橋の下砂利の数より蜷の数
蜆(しじみ)
   おそれつつ買ひし蜆を味噌汁へ
大蜆(おおしじみ)
   大蜆バカ貝の子と戻されて
田螺(たにし) 
   俯きて雲風もなき田螺捕り
梅(うめ) 
   闇道や梅ほころびて道が見え
野梅(やばい)
   主いぬ野梅となりぬ栄華あと
飛梅(とびうめ)
   飛梅の宮からお札宅配で
白梅(しろうめ)
   白梅を散らすこの風清しかな
紅梅(こうばい)
   紅梅や荒む園咲くただ一つ
里の梅(さとのうめ)
   峠越し一本咲けり里の梅
盆梅(ぼんばい)
   盆梅を飾るすきまが文机
梅が香(うめがか)
   マスクとる闇の小路に梅が香よ
梅林(ばいりん)
   香が誘う梅林散歩緩くなり
牡丹の芽(ぼたんのめ)
   冷える日々未だ出らず牡丹の芽
薔薇の芽(ばらのめ)
   薔薇の芽を守るがごとし棘三つ
山茱萸の花(さんしゅのはな)
   入口へ山茱萸の花が陣をとり
黄梅(おうばい)
   黄梅と語る校長色忘れ
ミモザ
     フラワーアレンジメント下にミモザを玄関へ
金縷梅(まんさく)
   記事頼り金縷梅咲く地レンタカー
猫柳(ねこやなぎ)
   戦争ごっこ草で隠すや猫柳
えのころやなぎ
    管をまくえのころやなぎ芽吹く下
スノードロップ
    スノードロップ一角を占め咲きにけり
クロッカス
   石だらけ丈の短きクロッカス
ヒヤシンス
   ガラス鉢根元ぼんやりヒヤシンス
風信子(ふうしんし)
   美容室窓辺に並べ風信子
菠薐草(ほうれんそう)
   和らぐ風菠薐草に鍬を母
如月菜(きさらぎな)
   白粥やけふも入れたり如月菜
水菜(みずな)
   歯ごたえて筋あり嫌ふ如月菜かな
京菜(きょうな)
   京菜洗ふ母の手の色戻りけり
壬生菜(みぶな)
   ざつくりと母の刃物や壬生菜かな
糸菜(いとな)
   ふるさと市糸菜一束手にとりて
芥菜(からしな)
   芥菜や湯気の中なり今出さぬ
三葉芹(みつばぜり)
   ちょっと待って摘みて添えるは三葉芹
春菊(しゅんぎく)
   春菊のかき玉うどん早きなり
山椒の芽(さんしょうのめ)
   山椒の芽庭から摘まむひつまぶし
蕗の花(ふきのはな)
   外の庭片隅に咲く蕗の花
春の蕗(はるのふき)
   青々と地面を見せない春の蕗
蓬(よもぎ)
   風を避け堤の下に蓬摘む
餅草(もちぐさ)
   陽の下で餅草を摘むこの場所で
雀の帷子(すずめのかたびら)
   雀の帷子縛りて罠に遠きこと
片栗の花(かたくりのはな)
   木漏れ日や片栗の花一面に
春椎茸(はるしいたけ)
   ずる休み春椎茸を持ってきて
若布(わかめ)
   潮の香や若布を配る冷える朝
鳴門若布(なるとわかめ)
   水ぬるむ鳴門若布はしがみつき
出雲若布(いずもわかめ)
   乾いても出雲若布や姿なす
搗布(かじめ) 
   べちゃくちゃと搗布並べる浜の朝
黒布(くろめ) 
   箱メガネ鎌で一息黒布浮き
鹿尾菜(ひじき)
   掻きまわす豆腐に潜る鹿尾菜和え
海雲(もずく)
   黒酢あえトンガの海雲青き海
石蓴(あおさ)
   刈る石蓴跳び乗る岩に波を見て
海苔(のり)
   エンジン音海苔摘み舟や大山盛
流れ海苔(ながれのり)
   波をやり跳びつく岩の流れ海苔
篊海苔(ひびのり)
   篊海苔や風に揺れ待つ満る潮
岩海苔(いわのり)
   岩海苔掻く浜の女が黙し時
青海苔(あおのり)
   青海苔やまみれた網をまくり上げ
海髪(うご)
   陽が昇る波の音静か海髪を干す

目次へ戻る



俳句手帖 2020-01

 


1/1
一月(いちがつ)
   一月や予定埋まらぬカレンダー
正月(しょうがつ)
   正月や二人しずかに迎えけり
新年(しんねん)
   新年の挨拶長し新社長
年明くる(としあくる)
   行事終え年明くる朝迎えけり
1/2
年立つ(としたつ)
   年立つやエンジン始動とびら音
初春(はつはる)
   初春や開扉に祢宜がうなり声
新春(しんしゅん)
   新春やウィーンの音届け物
明の春(あけのはる)
   甘酒を参拝すみて明の春
今年(ことし)
   鐘の音この一発は今年なり
去年(こぞ)
   鐘の音去年の別れは消え終わる
去年今年(こぞことし)
   最終回終えて新たな去年今年
初昔(はつむかし)
   陽を拝み鐘の音忘る初昔
元日(がんじつ)
   元日が松の痛みや新しき
鶏日(けいじつ)
   鶏日や人日待たず句を作り
1/3
元旦(がんたん)
   文句ある元旦だけは飲み込みて
元朝(がんちょう)
   元朝の影を連ねて宮参り
大旦(おおあした)
   蝋燭を灯し迎える大旦
二日(ふつか)
   胃もたれる二日の夜は芋をする
三日(みっか)
   行事なく小遣い握り三日かな
三が日(さんがにち)
   酒くらい駅伝を観る三が日
寒の入り(かんのいり)
   風凪げど凍る夜空も寒の入り
小寒(しょうかん)
   小寒や父の形見は窮屈で
人日(じんじつ)
   人日や未踏の道を探し行く
1/4
七日正月(なぬかしょうがつ)
   七日正月遠い親戚訪ひて
松の内(まつのうち)
   松の内残業せぬとパチンコへ
松過ぎ(まつすぎ)
   松過ぎて仕事が動く電話とる
小正月(こしょうがつ)
   小正月一臼餅を搗きにけり
女正月(めしょうがつ)
   女正月姉の友達手を火鉢
大寒(だいかん)
   大寒や芯まで冷たき顔洗う
寒の内(かんのうち)
   寒の内豊作願ひ田をおこし
寒気(かんき)
   傾きて柱に隙間入る寒気
冴ゆ(さゆ)
   Uターン赤きランプが冴え続く
厳寒(げんかん)
   厳寒を火鉢一つへ集う部屋
1/5
しばれる
   故郷はしばれる言わぬ寒くなく
冬深し(ふゆふかし)
   冬深し石臼回し豆を挽く
三寒四温(さんかんしおん)
   陽の角度三寒四温と高くなり
日脚伸ぶ(ひあしのぶ)
   風吹けど手袋いらぬ日脚伸ぶ
春待つ(はるまつ)
   打ち明ける春待つ心ゆめごこち
春近し(はるちかし)
   隣り部屋引っ越し準備春近し
冬尽く(ふゆつく)
   待ちわびる障子が鳴らぬ冬尽く日
初茜(はつあかね)
   今切れ橋伸び浮きし弧の伸び初茜
初東雲(はつしののめ)
   ははは前初東雲の髪の色
初明り(はつあかり)
   初明り雨戸の節穴知らせけり
1/6
初日の出(はつひので)
   初日の出手袋外しシャッター音
初空(はつぞら)
   初空へ黄金色染むネールかな
初御空(はつみそら)
   どこまでも青澄みわたる初御空
初霞(はつかすみ)
   手も温い山の裾には初霞
初東風(はつごち)
   ウィンドサーフィン初東風受けてすべりだす
初松籟(はつしょうらい)
   中田島初松籟に葉が舞ひて
初凪(はつなぎ)
   初凪や貝殻投げる浜名湖に
御降(おさがり)
   御降やおうどが湿り下駄の跡
淑気(しゅくき)
   淑気満つ墨の黒さを八つ切りへ
1/7
冬天(とうてん)
   冬天へ八本あり飛行機雲
凍雲(いてぐも)
   凍雲の影来るグランド
寒月(かんげつ)
   寒月を真上に仰ぐ帰り道
寒の雨(かんのあめ)
   止めば来る願いて帰る寒の雨
霧氷(むひょう)
   陽を受けて満開霧氷舞い散りて
樹氷(じゅひょう)
   スキーゆく大きなループ樹氷林
雨氷(うひょう)
   手袋をものとせずに雨氷かな
風花(かざはな)
   風花や舞えば雪だと大騒ぎ
1/8
吹雪(ふぶき)
   落ちつけぬ外は吹雪と影動く
雪晴れ(ゆきばれ)
   雪晴れや畝の目見えぬ棚田かな
雪しまき(ゆきしまく)
   雪しまくドアーばたりと閉めりけり
雪時雨(ゆきしぐれ)
   雪時雨かじかむ指でハンドルを
雪女郎(ゆきじょろう)
   かきわけてまみれ姿の雪女郎
雪女(ゆきおんな)
   雪女けふはどこまで舞いゆきぬ
しづり雪(しづりゆき)
   しづり雪横切りわたる棚田かな
寒雷(かんらい)
   寒雷や光吸われしとどく音
雪起こし(ゆきおこし)
   黒雲や腹にこたえる雪起こし
寒茜(かんあかね)
   道具箱担ぎてそとは寒茜
1/9
初景色(はつげしき)
   新築増え見通し変わる初景色
初富士(はつふじ)
   陽は横へ初富士拝む宮へ道
初筑波(はつつくば)
   新築の影に隠れし初筑波
初比叡(はつひえい)
   琵琶湖より今年も拝む初比叡
初浅間(はつあさま)
   凍みる手を強く合わせて初浅間
若菜野(わかなの)
   厚着して若菜野へ行く母を追い
寒の水(かんのみず)
   井戸覗く釣瓶避けるか寒の水
氷(こおり)
   チャンバラや氷の刀光散る
氷点下(ひょうてんか)
   氷点下ニュース知らせる羽根蒲団
凍る(こおる)
   歯磨きや凍る釣瓶の水しみる
1/10
氷柱(つらら)
   水車小屋けふは休みと氷柱かな
冬滝(ふゆだき)
   刻一刻明けの冬滝色かわり
滝凍る(たきこおる)
   滝凍るニュース頼りに車繰る
凍滝(いてだき)
   凍滝や命を繋ぐ水流る
氷壁(ひょうへき)
   氷壁の強さに耐える綱ありや
氷江(ひょうこう)
   氷江へ沈む夕日が揺らぎなく
氷湖(ひょうこ)
   氷湖掃く我先コース滑り出す
御神渡(おみわたり)
   御神渡り神官はゆく滑る足
氷海(ひょうかい)
   氷海をかき分け進む巡視艇
波の花(なみのはな)
   白くなし水の汚れか波の花(
1/11
春着(はるぎ)
   ぽくぽくと八幡様へ春着かな
喰積(くいつみ)
   喰積や紅白交互詰めにけり
草石蚕(ちょろぎ)
   小さくも紅い草石蚕やここにいて
数の子(かずのこ)
   高価なり数の子残る歯の間
結昆布(むすびこんぶ)
   重箱へ結昆布を詰め〆る
ごまめ
   一摘みごまめが香る台所
切山椒(きりざんしょう)
   切山椒この味出来ぬ妻の腕
屠蘇(とそ)
   父注ぐ鼻つく屠蘇を飲み干さぬ
年酒(ねんしゅ)
   二軒目が年酒が味を遠のかせ
大服(おおぶく)
   大服や今年の茶碗見事なり
1/12
福沸(ふくわかし)
   肩すくめ水を運びて福沸
初炊ぎ(はつかしぎ)
   俎へ一尾鯛あり初炊ぎ
年の餅(としのもち)
   明後日と杵振り下ろす年の餅
雑煮(ぞうに)
   水菜入れ彩りとりて雑煮炊く
雑煮餅(ぞうにもち)
   中学生一つ増やして雑煮餅
俎始(まないたはじめ)
   俎始一人だいどこ一礼す
太箸(ふとばし)
   新妻の太箸ごとし指をして
門松(かどまつ)
   門松へ済まして宮へマーキング
注連飾(しめかざり)
   注連飾省きたいけど外せない 1/13
蓬莱飾(ほうらいかざり)
   蓬莱や酒はまだかと眺めいる
鏡餅(かがみもち) 
   細き腕叩けど割れぬ鏡餅
松納(まつおさめ)
   定め年あふれる袋松納
飾納(かざりおさめ)
   風強し飾納が人の列
鳥総松(とぶそうまつ)
   朝日待つ緑仄かに鳥総松

鏡開き(かがみびらき)
   鏡開き気もそぞろなりこの年も
餅花(もちばな)
   気を付けど揺れる餅花奥の間へ
繭玉(まゆだま)
   風もない長押に揺れる繭玉よ
年木(としぎ)
   風抜ける一人暮らしが年木積む 1/14
掃初(はきぞめ) 
   掃初や門から家へ掃き目かな
初暦(はつこよみ)
   病院へ予定を埋める初暦
初風呂(はつぶろ)
   炬燵だけ汚れを見せぬ初風呂よ
初灯(はつともし) 
   気をしめて向かう神棚初灯
初電話(はつでんわ)
   おれおれと九日にかかる初電話
笑初(わらいぞめ)
   年近い叔母もまぜてと笑初
初髪(はつがみ)
   初髪の新妻嬉々と里帰り
初夢(はつゆめ)
   初夢は見るべし茄子と富士に鷹
宝船(たからぶね)
   喜寿の夢極楽へ行く宝船
獏枕(ばくまくら)
   新妻の障子震わす獏枕
1/15
初寝覚(はつねざめ)
   初寝覚父とドライブ弟もいて
寝正月(ねしょうがつ)
   あれこれと諸事雑事あり寝正月
年賀(ねんが)
   水かける吾子が奥津城年賀かな
賀状(がじょう)
   賀状こぬ思うあれこれ友のこと
女礼者(おんなれいじゃ)
   大戸開く女礼者は傘を持ち
年玉(としだま)
   年玉や行儀よろしくもらうまで
初便り(はつだより)
   初便りいいことばかり書けぬ我
書初(かきぞめ)
   書初や貼る場所決める三学期
1/16
読初(よみぞめ)
   読初め今や離せぬ句入門
初旅(はつたび)
   初旅や現れ待てど富士かすか
乗初(のりぞめ)
   乗り鉄の迎える朝が乗初よ
初日記(はつにっき)
   初日記今年の目標書き記し 
ひめ始め(ひめはじめ)
   ひめ始め箪笥のとって鳴りにけり
初稽古(はつげいこ) 
   汗の湯気ライバル相手初稽古
舞初(まいぞめ)
   舞初の舞台に上がる心地よく
謡初(うたいぞめ)
   見台を掴みて声は謡初
初釜(はつがま)
   初釜や使い慣れたる茶筅かな
新年会(しんねんかい)
   あらためて荒れることなき新年会
1/17
初句会(はつくかい)
   俳句手帖買い替えのぞむ初句会
仕事始(しごとはじめ)
   手帳出す仕事始の電話受く
縫初(ぬいぞめ)
   絎台をたてて縫初冷える朝
初市(はついち)
   初市へ向かう荷車白き旗
初荷(はつに)
   連なりて初荷の車出陣す
買初(かいぞめ)
   買初やマウスを繰りてシャットダウン
歌留多(かるた)
   丸暗記吾子とたたかう歌留多とり
双六(すごろく)
   双六や行きつ戻りつ人模様
福笑ひ(ふくわらい)
   目を隠すくるりと廻し福笑ひ
1/18
羽子板(はごいた)
   羽子板のリズム続かぬ子らの声
手毬(てまり)
   かじかむ手こすりこすりて手毬巻く
破魔弓(はまゆみ)
   破魔弓や突然ぽんとはじく音
福引(ふくびき)
   福引を当てんと子らは抽選所
獅子舞(ししまい)
   獅子舞を見下ろす丈となりにけり
寒餅(かんもち)
   寒餅や甘い醤油を浴びにけり
水餅(みずもち)
   水餅や澄たる甕の深き底
氷餅作る(こおりもちつくる)
   氷餅作る太陽透けて見え
1/19
寒晒(かんざらし)
   風揺らす手延べそうめん寒晒
寒造(かんづくり)
   豆つぶす杵の重さや寒造
凍豆腐(しみどうふ)
   編む如し藁で縛りて凍豆腐
寒卵(かんたまご)
   寒卵風吹き抜ける抜け羽舞う
寒天造る(かんてんつくる)
   突っ突きて寒天造る冷える足
寒厨(かんくりや)
   白々と背の紐縛る寒厨
葛晒(くずさらし)
   三度目の水が澄めるや葛晒
1/20
砕氷船(さいひょうせん)
   砕氷船けふはどこまで進むやら
寒紅(かんべに)
   寒紅をさして鏡を閉じにけり
寒見舞(かんみまい)
   ネーブルを一箱かかえ寒見舞
雪見(ゆきみ)
   雪見へと四駆を用意山へ行く
探梅(たんばい)
   探梅や上る汗かきらしからず
寒釣(かんづり)
 寒釣や静かな流れ櫓がきしむ
1/21
雪投げ(ゆきなげ)
   身を守り雪投げ準備様変わり
   ゴーグル、ヘルメット
雪達磨(ゆきだるま)
   小さくも雪達磨作る雪無き地
雪像(せつぞう)
   雪像を汗かき作る自衛隊
スキー
   天気予報明日はスキーで出勤
スケート
   初スケート手摺磨いて一回り
寒稽古(かんげいこ)
   湯気上がるはだしの足で寒稽古
寒中水泳(かんちゅうすいえい)
   寒中水泳熱き甘酒舌の上
1/22
若水(わかみず)
   若水や溢さぬ様天秤棒
初詣(はつもうで)
   初詣おさる人なく人ながる
恵方詣(えほうもうで)
   空見つめ恵方詣へ行くと言ふ
歌会始(うたかいはじめ)
   テレビ前歌会始身を正し
成人の日(せいじんのひ)
   探せどない成人の日の銀狐
七種(ななくさ)
   七種や思い出したるぼけた父
1/23
若菜摘(わかなつみ)
   野はなきて堤の法面若菜摘
なまはげ
   なまはげの面のしたから髭男
かまくら
   かまくらへ供え物あげ父と母
左義長(さぎちょう)
   遠くから左義長けむる丈高し
どんど
   どんど焚く火と昇り去るつみけがれ 
鷽替(うそかえ)
   鷽替の祢宜の祝詞や長き事
1/24
初天神(はつてんじん)
   初天神今年こそはと父と行く
初場所(はつばしょ)
   初場所や小兵にぎわす大取組
蕪村忌(ぶそんき)
   蕪村忌やまだ白梅は芽もあらず
久女忌(くめき)
   さかくれを毟りて痛し久女の忌
初雀(はつすずめ)
   陽の当たる求めて群れる初雀
初鴉(はつがらす)
   川むこう一羽さびしく初鴉
1/25
初鶏(はつどり)
   初鶏の声整いて鳴きにけり
嫁が君(よめがきみ)
   全員が着席したか嫁が君
寒禽(かんきん)
   寒禽と会いたく林檎吊るしけり
笹鳴(ささなき)
   細葉垣笹鳴の影見え隠れ
寒雀(かんすずめ)
   寄り添って風で膨らむ寒雀
寒鴉(かんがらす)
   寒鴉急いでわたる縞の道
1/26
凍鶴(いてづる)
   凍鶴や獲物隠れる細き足
寒鯉(かんごい)
   寒鯉や背鰭を立てる浅き川
寒鮒(かんぶな)
   寒鯉や寄る絹網夢の中
寒蜆(かんしじみ)
   寒蜆波立つ川のむこう行く
歯朶(しだ)
   枯原に歯朶の緑が鮮やかに
楪(ゆずりは)
   垣根越し色は楪橙ぞ
1/27
福寿草(ふくじゅそう)
   つつまし気福寿草持つ毒見せず
薺(なずな)
   花よりもぺんぺんの種薺かな
早梅(そうばい)
   早梅を横目でちらり試験前
1/28
寒梅(かんばい)
   枝を打ち寒梅の紅咲く描く
蠟梅(ろうばい)
   惚けし彼蠟梅咲くを感ずるか
冬桜(ふゆざくら)
   冬桜花先週も咲くこの堤
1/29
冬牡丹(ふゆぼたん)
   いざ咲けと騙され咲くや冬牡丹
寒椿(かんつばき)
   寒椿曲がる生垣灯る家
寒木瓜(かんぼけ)
   寒木瓜や通りに面し咲きにけり
1/30
水仙(すいせん)
   法面を風と登るや水仙花
葉牡丹(はぼたん)
   葉牡丹を並べ午前は陽にあたる
冬菜(ふゆな)
   柔らかき膝の寒さや冬菜摘む
冬菫(ふゆすみれ)
   山路行く風にこまかく冬菫
1/31
寒芹(かんぜり)
   寒芹や葉茎根っこと鍋の香と
冬萌(ふゆもえ)
   杉木立根元に群れて冬萌る
寒海苔(かんのり)
   寒海苔や今朝の浜名湖塩しぶき

一日には、鶏(とり)を占っていたので、『鶏日(けいじつ)』、
     その朝を『鶏旦(けいたん)』と呼ぶようになりました。 ちなみに…
二日は狗(いぬ)を占うので『狗日(くじつ)』
三日は猪(いのしし)で『猪日(ちょじつ)』
四日は羊(ひつじ)で『羊日(ようじつ)』
五日は牛(うし)で『牛日(ぎゅうじつ)』
六日は馬(うま)で『馬日(ばじつ)』。
七日になり、やっと人を占い『人日(じんじつ)』と言います。

目次へ戻る


俳句手帖 2019-12




12/1
冬ざれ(ふゆざれ)
   冬ざれや欅箒が屋根の上
冬帝(とうてい)
   冬帝の威厳に隠す陽の温み
厳冬(げんとう)
   厳冬の朝スチームバルブ鳴りて来る
冬将軍(ふゆしょうぐん)
   冬将軍今年も雪を引き連れし
玄冬(げんとう)
   玄冬や一巡りくる木に花芽
暖冬(だんとう)
   暖冬と云えども水は突き刺さり
仲冬(ちゅうとう)
   仲冬の本屋の古きグルメ地図
十二月(じゅうにがつ)
   白髪染め床屋忙し十二月
12/2
霜月(しもつき)
   霜月の色の褪せたる紅葉道
大雪(たいせつ)
   大雪やカレンダー来る忙し朝
冬至(とうじ)
   小屋の篭冬至の南瓜緋色なり
冬の日(ふゆのひ)
   縁側へ冬の日ほしく猫あくび
極月(ごきげつ)
   極月の闇の通りで買うは蟹
年の暮(としのくれ)
   年の暮柱時計を値引くかな
師走(しわす)
   乳飲み子を追いかけていく師走かな
年末(ねんまつ)
   年末はすること少し青き年
12/3
年果つる(としはつる)
   血糖値エラー表示年果つる
年の内(としのうち)
   急がない豊富な在庫年の内
数へ日(かぞえび)
   数へ日の岸辺に映る鵜の影よ
行く年(ゆくとし)
   行く年の水道水の洗車かな
年歩む(としあゆむ)
   年歩む手術の跡が一つ増え
小晦日(こつごもり)
   小晦日常識知らず訪ね来る
大晦日(おおみそか)
   大晦日けふばかりはと早くも寝
大年(おおどし)
   大年や宮の仕度がおいかけて
12/4
年惜しむ(としおしむ)
   年惜しむまた一つ増え手術跡
年越(としこし) 
   年越へ氏子総代集まりぬ
年の夜(としのよる)
   年の夜や寝た子の頬を撫でにけり
除夜(じょや)
   時計買う除夜の時刻に帰り着く
凍つ(いつ)
   歯磨けど力まかせが凍つ釣瓶
冬空(ふゆぞら)
   冬空へ願い託すは今は無し
寒空(さむぞら)
   寒空に煌めく星もなかりけり
冬の雲(ふゆのくも)
   南方の西から流る冬の雲
12/5
寒雲(かんうん)
   寒雲や明日も寒かろ下着入れ
月冴ゆる(つきさゆる)
   月冴ゆる心も冴ゆる田舎道
星冴ゆる(ほしさゆる)
   きれいねと顎の先には星冴ゆる
荒星(あらぼし)
   荒星や最終列車家揺する
凍星(いてぼし)
   凍星や指差すように一本杉
冬北斗(ふゆほくと)
   さよならを言いたくなくて冬北斗
寒昴(かんすばる)
   三方原我行く先寒昴
寒波(かんぱ)
   我一人潜む家にも寒波来る
12/6
北風(きたかぜ)
   北風やスカートまるめゴム跳びて
空っ風(からっかぜ)
   空っ風書初めが舞う北廊下
北颪(きたおろし)
   北颪スパッと鋏髪短か
ならひ(ならい)
   ならひ吹く十年祭の墓場かな
虎落笛(もがりぶえ)
   空の稲架虎落笛聞く朝の道
鎌鼬(かまいたち)
   鎌鼬技伝えしや鈴之助
冬の雨(ふゆのあめ)
   似た人が窓の向こうに冬の雨
霰(あられ)
   霰降る合格息子はしゃぎけり
12/7
霙(みぞれ)
   ハンドルの手を隠したし霙かな
霜(しも)
   白い息霜降る朝の光かな
強霜(つよしも)
   強霜やワイパー固定冷える鍵
雪催(ゆきもよい)
   夕暮れに風の来る先雪催
初雪(はつゆき)
   初雪や新聞配達タイヤあと
雪(ゆき)
   雪降れば喜ぶ息子雪国へ
雪の声(ゆきのこえ)
   誰もゐぬ棚田の朝に雪の声
冬の雷(ふゆのらい)
   暗闇の光とどかぬ冬の雷
12/8
鰤起し(ぶりおこし) 
   漁に出る合図一斉鰤起し
川涸る(かわかる)
   川涸れて素足の鷺が探すとこ
沼涸る(ぬまかる)
   沼涸れて去年の倒木列をなし
涸滝(かれたき)
   涸滝や果たせぬ夢や白い滝
冬景色(ふゆげしき)
   荒るる風川面削るも冬景色
冬の泉(ふゆのいずみ)
   陽を受けど冬の泉が粒尖る
冬の川(ふゆのかわ)
   服のまま渡れそうなり冬の川
冬の海(ふゆのうみ)
   荒風や眺め居られぬ冬の海
12/9
寒潮(かんちょう)
   寒潮へ連絡船は今朝も出で
初氷(はつごおり)
   妹はしゃぐ初氷すべる丸い石
冬シャツ(ふゆしゃつ)
   一枚の冬シャツだけの床磨き
外套(がいとう)
   河原にてうすい外套風が押す
オーバーコート
   電柱横オーバーコートが襟を立て
綿入れ(わたいれ)
   綿入れを着込んで風邪をやり過ごし
蒲団(ふとん)
   打ち直し蒲団の海へ沈み込み
蒲団干す(ふとんほす)
   パンパンと蒲団干す音絶えてなく
12/10
毛布(もうふ)
   温度より蒲団に毛布さかしまに
角巻(かくまき)
   角巻で払うポストに内地行
膝掛(ひざがけ)
   膝掛けを抑える左廻す右
ちゃんちゃんこ
   お座りと躾の菓子はちゃんちゃんこ
ねんねこ
   保育園へねんねこがない背が寒き
重ね着(かさねぎ)
   風通すセーターばかり重ね着て
着ぶくれ(きぶくれ)
   肥えてきた着ぶくれて見えこの鏡
毛皮(けがわ)
   毛皮ある成人式の銀きつね
アノラック
   アルバイト最初に買うはアノラック
冬帽子(ふゆぼうし)
   つけ始め取るに取れない冬帽子
12/11
マスク
   見とれてるマスク美人の睫毛かな
襟巻(えりまき)
   風を背に襟巻拡げ帆駆け足
ショール
   ショール巻く婦人の裾も翻り
手袋(てぶくろ)
   手袋をしたままポケット探りけり
足袋(たび)
   洗いたて足袋のこはぜが爪を割る
樏(かんじき)
   樏を欲しいほど積もる棚田
毛糸編む(けいとあむ) 
   胎動がリズム合わせし毛糸編む
春着縫う(はるぎぬう)
   春着縫う着丈あわせに背伸びして
乾鮭(からざけ)
   海風とあわす乾鮭鳴るリズム
塩鮭(しおざけ)
   塩鮭を担ぎ大叔父売り歩く
12/12
雑炊(ぞうすい)
   貧乏飯脱出変わる名雑炊へ
焼芋(やきいも)
   座敷に一つ焼芋中に籾火鉢
餅搗(もちつき)
   餅搗や重い石臼一仕事
霰餅(あられもち)
   霰餅乾ききれぬを盗み食い
蕪蒸(かぶらむし)
   蕪する何と蒸そうか蕪蒸
風呂吹(ふろたき)
   風呂焚きへ我先座る寒き夕
煮凝(にこごり)
   煮魚や煮凝りおもふ朝の鍋
冬籠(ふゆごもり)
   襖にも壁に絵もなく冬籠
冬館(ふゆやかた)
   塀越しに甍冷たき冬館
隙間風(すきまかぜ)
   傾きて防ぎきれない隙間風
12/13
雪囲(ゆきがこい)
   念入りにあつらえて待つ雪囲
雁木(がんぎ)
   喫茶店雁木が柱匂いつく
雪掻(ゆきかき)
   貼り紙や雪掻仕事ありますと
雪下し(ゆきおろし)
   厚着脱ぎ汗かきするや雪下し
冬灯(ゆきともし)
   LED電球色が雪灯
冬座敷(ふゆざしき)
   我が庵火鉢ひとつの冬座敷
畳替(たたみがえ)
   庭に出る肘で糸引く畳替え
障子(しょうじ)
   霧吹けば突っ張る障子音もよし
襖(ふすま)
   地震あと襖にできる隙間かな
屏風(びょうぶ)
   あがりはな屏風がむこう気配あり
12/14
絨毯(じゅうたん)
   まるめれど絨毯長し収まらず
暖房(だんぼう)
   顔溶ける暖房の部屋次は手を
ストーブ(すとーぶ)
   母いぬ子ストーブの横授業中
炭(すみ)
   炭を立て火を強くして部屋温し
埋火(うずみび)
   埋火を掻き出し追加菊花炭
懐炉(かいろ)
   ベンジンが香る懐炉を納む腰
榾(ほた)
   榾たして釜戸が煙あまり出る
湯気立つる(ゆげたつる)
   湯気立つる牛のしょんべん越す朝日
蒟蒻掘る(こんにゃくほる)
   細葉陰蒟蒻を掘る母の鍬
牡蠣剥く(かきむく)
   牡蠣剥くや殻の内側美しき
12/15
牡蠣船(かきぶね)
   牡蠣船や山盛りに積む青い線
炭焼(すみやき)
   炭焼が煙が昇る山の午後
年木樵(としきこり)
   年木樵谷の向こうに人らしき 
寒柝(かんたく)
   たわむれに寒柝鳴らす玄関
火事(かじ)
   火事の声先ず走り探すや炎
消防車(しょうぼうしゃ)
   サイレンと鐘を鳴らして消防車
夜咄(よばなし)
   夜咄や息深くもつ手燭かな
縄飛(なわとび)
   埃たて縄飛続くぴゅんぴゅんと
竹馬(たけうま)
   まず十センチ竹馬高く父縛る
押しくら饅頭(おしくらまんじゅう)
   押しくら饅頭遅れ来る子を待つ間
12/16
ラグビー
   新興宗教ラグビーの彼のめり込み
湯ざめ(ゆざめ)
   早く寝なゆざめきにして母急かす
風邪(かぜ)
   風邪ひけば枕元には欲しきもの
咳(せき)
   咳出れば肺から痰が治りかけ
水洟(みずばな)
   キーボード水洟一滴落にけり
くさめ
   畑鋤くくさめ一発響きけり
息白し(いきしろし)
   通学路朝日を受ける息白し
懐手(ふところで)
   井戸端やくだまく叔母ら懐手
12/17
日向ぼこ(ひなたぼこ)
   部屋よりも足袋も脱ぎたし日向ぼこ
年末賞与(ねんまつしょうよ)
   年末賞与それより多き買う予定
年用意(としようい) 
   今年こそ思えど減らぬ年用意
煤払い(すすはらい)
   天気よい手拭巻いて煤払い
社会鍋(しゃかいなべ)
   風強し少なし揺れる社会鍋
歳暮(せいぼ)
   石鹸とあかずと答ふ歳暮かな
賀状書く(がじょうかく)
   除夜の鐘墨をすりつつ賀状書く
日記買ふ(にっきかう)
   今年こそ日記買ふおもひ三日まで
古日記(ふるにっき)
   ベストセラー越す物語古日記 
12/18
暦売(こよみうり)
   ベストセラー暦売場が広くなり
古暦(ふるごよみ)
   子年くる亥は駆け抜ける古暦
門松立つ(かどまつたつ)
   慌ただし門松立つとなお忙し
注連飾る(しめかざる)
   注連飾るあとはせぬまい思えども
御用納(ごようおさめ)
   見切りつけ御用納の午前中
年忘(としわすれ)
   クリスマスせぬ父やれと年忘
冬休(ふゆやすみ)
   宿題を忘れそうなる冬休
顔見世(かおみせ)
   はやきもの顔見世幟あがるかな
12/19
ぼろ市(ぼろいち)
   ぼろ市や人の頭を品比べ
年の市(としのいち)
   整えど心せき立つ年の市
羽子板市(はごいたいち)
   羽子板市我が家には無し飾る場所
飾売(かざりうり)
   リヤカーへ仕立て運ぶや飾売
柚子湯(ゆずゆ)
   豊作と底の見えない柚子湯かな
晦日蕎麦(みそかそば)
   どんなものうちはうどんや晦日蕎麦
秩父夜祭(ちちぶよまつり)
   秩父夜祭冷えた夜空へ花火咲く
大根焚(だいこんたき)
   大根焚寺それぞれの汁の味
12/20
義士会(ぎしかい)
   義士会や提灯掲げ雪を踏み
神楽(かぐら)
   つき歩く面白くない神楽かな
里神楽(さとかぐら)
   獅子頭なかに顔あり里神楽
除夜詣(じょやもうで)
   越えかける甘酒いかが除夜詣
除夜の鐘(じょやのかね)
   寺男碁石を並べ除夜の鐘
クリスマス
   魅せられしカードの色がクリスマス
一茶忌(いっさき)
   句をはじめ一茶忌初めて迎えたり
近松忌(ちかまつき)
   心中を推して量らん近松忌
12/21
漱石忌(そうせきき)
   草枕するには寒し漱石忌
石鼎忌(せきていき)
   葉脈紅し窓に貼りつく石鼎忌
熊(くま)
   谷越えて雪の木のぼる熊を見ゆ
冬の鹿(ふゆのしか)
   ジャンプして雪駆け抜けり冬の鹿
狸(たぬき)
   ヘッドライトは毛をふわふわ狸かな
兎(うさぎ)
   川わたる風を背にして兎の餌
鷹(たか)
   鷹が追う鴉再び戻り来て
冬の鷺(ふゆのさぎ)
   動かない餌も動かぬ冬の鷺
12/22
冬の鵙(ふゆのもず)
   誰もゐぬ公園にこゑ冬の鵙
冬雲雀(ふゆひばり)
   雲低く野原を低く冬雲雀
水鳥(みずとり)
   水鳥の足元泳ぐ土鯉かな
鴨(かも)
   鴨来れば鷺は一羽で離れたり
千鳥(ちどり) 
   堤道先ゆく千鳥追い描けて
田鳧(たげり)
   風避けて冠羽繕う田鳧かな
都鳥(みやこどり)
   舞いおりて水面白くす都鳥
冬鷗(ふゆかもめ)
   冬鷗足を短く縮めたり
12/23
鶴(つる)
   餌あれど越されぬ山が鶴は来ぬ
白鳥(はくちょう)
   白鳥や奪われし餌鴨の中
鯨(くじら)
   水平線潮吹く鯨けふも見ず
鱈(たら)
   鱈ちりと母が重たき土鍋かな
鰤(ぶり)
   鰤大根養殖よりも氷見の味
鮟鱇(あんこう)
   どこにある鮟鱇鍋は汁のみぞ
河豚(ふぐ)
   忘年会幹事頑張り河豚づくし
牡蠣(かき)
   波打てど音だけ残す牡蠣の殻
12/24
冬の蝶(ふゆのちょう)
   隠れたし繁る葉捜す冬の蝶
冬の蠅(ふゆのはえ)
   じつと待つ主いる部屋冬の蠅
室咲(むろざき)
   テレビの上室咲の花温めし
冬薔薇(ふゆばら)
   咲き出せば短き命冬の薔薇
ポインセチア
   ラップの色ポインセチアは透ける紙
千両(せんりょう)
   花生ける赤き千両裏も占め
万両(まんりょう)
   覚えなき万両増えし庭掃除
南天の実(なんてんのみ)
   南天の実真っ赤な色は色褪せず
12/25
冬林檎(ふゆりんご)
   ナイフ入れ蜜の多くに冬林檎
枇杷の花(びわのはな)
   陽を受けて蜜の香流る枇杷の花
枯葉(かれは)
   枯葉舞う田舎の道もパリ気分
冬木立(ふゆこだち)
   句が詠めぬ本を抱えて冬木立
12/26
寒林(かんりん)
   日をとおす寒林が上すべて空
枯木(かれき)
   流されし河原の枯木いずくんか
枯柳(かれやなぎ)
   揺すぶれど波長合わせぬ枯柳
枯桑(かれくわ)
   リヤカーや枯桑くくる老夫婦
12/27
冬枯(ふゆがれ)
   冬枯れて野原やひとつ低くなり
冬芽(ふゆめ)
   温暖化冬芽も早き太さなり
12/28
寒菊(かんぎく)
   寒菊を無粋な男切り刻む
冬菊(ふゆぎく)
   冬菊を鉢一杯に写真前
人参(にんじん)
   人参を炒めて甘しカレーかな
12/29
冬草(ふゆくさ)
   冬草や日毎の丈が導なり
枯葦(かれあし)
   枯葦が向こうに響く水車小屋
枯尾花(かれおばな)
   風に耐え岸辺に残り枯尾花
12/30
枯芝(かれしば)
   枯芝に寝転ぶ誘う陽の温さ
枯葎(かれむぐら)
   枯葎躊躇させるやかくれんぼ
12/31
藪柑子(やぶこうじ)
   積もる古葉そこだけみどり藪柑子
竜の玉(りゅうのたま)
   細葉下青く光るや竜の玉

目次へ戻る

俳句手帖 2019-11


11/1
冬(ふゆ)
    火鉢には冬と言うのに五徳だけ
立冬(りっとう)
    立冬や影長並ぶ朝の道
冬に入る(ふゆにいる)
    冬に入るポケットが好き僕の手ぞ
冬来る(ふゆきたる)
    新品の手袋出番冬来る
今朝の冬(けさのふゆ)
    息白し影に映るや今朝の冬
初冬(はつふゆ)
    初冬やボイラーバルブ鳴りて来る
十一月(じゅういちがつ)
    布団からあまりの寒さ十一月
神無月(かんなづき)
    神無月裏の神様ひっそりと
神去り月(かみさりづき)
    宝くじ誰を頼るか神去り月
神有月(かみありづき)
    神有月西風と来し寒さかな
11/2
初霜月(はつしもづき)
    手もみして便りを待や初霜月
水始めて氷る(みずはじめてこおる)
    水始めて氷る右から左吾子握る
小雪(しょうせつ)
    小雪や浴衣を払い露天風呂
小春(こはる)
    通らない静けさだけの小春かな
小六月(ころくがつ)
    縁側に眠るじいじが小六月
小春空(こはるぞら)
    小春空鍬を漉き込む芋があと
小春凪(こはるなぎ)
    吾子の凧走れど落ちる小春凪
冬浅し(ふゆあさし)
    冬浅し隣りの家は湯めぐりへ
冬めく(ふゆめく)
    信楽焼冬めく朝も火鉢干す
冬日(ふゆび)
    枯れ花や煙が昇る冬日かな
11/3
冬の朝(ふゆのあさ)
    遅刻する母に怒鳴られ冬の朝
冬曙(ふゆあけぼの)
    冬曙三度目覚める暗き部屋
日短(ひみじか)
    テラス席日短な午後持つ仕草
暮早し(くれはやし)
    売り出しやテレビが煽る暮早し
夜半の月(よわのつき)
    夜半の月鋲が打てりアスファルト
霜夜(しもよ)
    一ツ家へ霜夜が原に灯り見ゆ 
冷し(つめたし)
    冷し手リコーダーテスト五時間目
寒し(さむし)
    朝寒し母の力が蒲団剥ぐ
冬暖か(ふゆあたたか)
    醤油絞り冬暖かし雫の音
冬晴(ふゆばれ)
    冬晴の人影見えぬ棚田道
11/4
冬日和(ふゆびより)
    冬日和右から左おうど掃く
冬青空(ふゆあおぞら)
    冬青空葺き替え屋根草を剥ぎ
冬銀河(ふゆぎんが)
    冬銀河靴音高く田舎道
冬の星(ふゆのほし)
    名を知らぬここの場所から冬の星
御講凪(おこうなぎ)
    提灯が街並みへ子ら御講凪
凩(こがらし)
    凩や軽き体ぞ流されし
朔風(さくふう)
    朔風や早くあたりたく竈の火
神渡し(かみわたし)
    陽がかげる藪が騒ぐや神渡し
初時雨(はつしぐれ)
    ぽつぽつと多くなる点初時雨
時雨(しぐれ)
    楠木の葉より静かに時雨かな
11/5
朝時雨(あさしぐれ)
    傘ささず走りいけるか朝時雨
北時雨(きたしぐれ)
    暖簾揺れあてない客に北時雨
小夜時雨(さよしぐれ)
    小夜時雨父は何時に帰るかと
片時雨(かたしぐれ)
    虹かかる傘は開かず片時雨
初霰(はつあられ)
    初霰音に誘われ窓辺より
初霜(はつしも)
    初霜やおりた朝が寒さなり
露凝る(つゆこる)
    透き通る露凝る朝の井戸の水
冬霞(ふゆがすみ)
    我が町も隅々見せぬ冬霞
冬の霧(ふゆのきり)
    冬の霧静かに街へ流れなり
冬の靄(ふゆのもや)
    冬の靄突然現る帆掛け船
11/6
寒靄(かんあい)
    寒の靄田んぼアートが株の址
冬の虹(ふゆのにじ)
    青空の棚田を包む冬の虹
冬夕焼(ふゆゆうやけ)
    障子が色冬夕焼が染にけり
冬茜(ふゆあかね)
    辞表出すここの席にも冬茜
枯野(かれの)
    サナトリューム目指して一人枯野ゆく
冬田(ふゆた)
    にぎやかに穭も靡く冬田かな
冬田道(ふゆたみち)
    風が押すマフラーとける冬田道
冬の庭(ふゆのにわ)
    つむじ風枯葉舞い上げ冬の庭
庭枯る(にわかる)
    静かなる庭枯る夜の葉の騒ぎ
枯園(かれその)
    枯園やビニール袋迷い込み
11/7
冬の園(ふゆのその)
    松の下大き岩石冬の園
渇水期(かっすいき)
    蓮田にも渇水期一本立ち守る
水涸る(みずかる)
    雲低し藁舞い上がる水涸る田
冬の色(ふゆのいろ)
    鳥も居ぬ誰も居ぬ先冬の色
冬の水(ふゆのみず)
    動かない底まで見える冬の水
冬渚(ふゆなぎさ)
    濡れまいと波を右目に冬渚
冬の浜(ふゆのはま)
    風紋を崩さず流す冬の浜
霜柱(しもばしら)
    霜柱踏み砕く音寒くとも
狐火(きつねび)
    狐火や出ぬこと願ひ祠横
冬服(ふゆふく)
    鼻水や冬服の袖かあばりて
11/8
冬着(ふゆぎ)
    風吹けば寒がり坊ちゃん冬着着る
セーター
    誕生祝セーター編めと毛糸かな
毛糸(けいと)
    腕出せば腕はおろすな毛糸巻く
酢茎(すぐき)
    年を経て味わうこと知る酢茎かな
千枚漬(せんまいづけ)
    出張中千枚漬に寄り道を
沢庵漬(たくわんづけ)
    空のはず沢庵漬へ風さらす
納豆(なっとう)
    納豆に混ぜ訝しがられヨーグルト
味噌作る(みそつくる)
    味噌作る道具は一つスマッシャー
生姜味噌(しょうがみそ)
    豊作とぱくぱく食えぬ生姜味噌
雲腸(くもわた)
    大海から我が胃へたどる雲腸
11/9
海鼠腸(このわた)
    窘める海鼠腸が皿なめる癖
酢海鼠(すなまこ)
    酢海鼠を隣りへ渡すさり気なく
甲羅煮(こうらに)
    甲羅煮や椀からはみ出夕餉かな
蒸鮓(むしずし)
    御馳走と蒸鮓仕度祭の夜
蕪鮓(かぶらずし)
    作れない母が手際の蕪鮓
蕪汁(かぶらじる)
    皮厚くへたそに見えし蕪汁
蒸饅頭(むしまんじゅう)
    湯気話す蒸饅頭が旨いぞと
今川焼(いまがわやき)
    行列が今川焼も今はなし
鯛焼(たいやき)
    鯛焼や餡子かころも味左右
熱燗(あつかん)
    熱燗を母へ教えし父の年
11/10
鰭酒(ひれざけ)
    鰭酒や暖簾が香る宵の口
玉子酒(たまござけ)
    玉子酒熱燗の汗冷める熱
生姜酒(しょうがざけ)
    生姜酒喉に染み入る枕元
寝酒(ねざけ)
    煙草もて寝酒ももてと酔うた父
葛湯(くずゆ)
    口すぼめ母が差し出す葛湯かな
生姜湯(しょうがゆ)
    生姜湯や喉元過ぎて香るかな
蕎麦湯(そばゆ)
    判り出す蕎麦湯が味この店で
蕎麦掻(そばがき)
    よく練れば蕎麦掻香る椀持つ手
夜鷹蕎麦(よたかそば)
    発車ベル敢て立ち寄る夜鷹蕎麦
鍋焼(なべやき)
    鍋焼うどん艶やかな色鍋つかみ
11/11
釜揚饂飩(かまあげうどん)
    テーブルへ載らぬ大きく釜揚饂飩
河豚汁(ふぐじる)
    河豚汁は妻持つ疑問しびれない
葱鮪(ねぎま)
    けふ知りて葱鮪の肉は鮪とは
三平汁(さんぺいじる)
    いれればいい三平汁を得意とす
薩摩汁(さつまじる)
    湯気立つ鍋負けられぬ鶏薩摩汁
粕汁(かすじる) 
    純米吟醸旨味とコクが粕汁ぞ
けんちん汁(けんちんじる)
    蒟蒻や細かく刻みけんちん汁
闇汁(やみじる)
    若き日や白ネギだけが闇汁ぞ
鋤焼(すきやき)
    鋤焼や牛肉を出す父の顔
桜鍋(さくらなべ)
    妻ねだる手に入らぬが桜鍋
11/12
牡丹鍋(ぼたんなべ)
    豚肉や猪より旨い牡丹鍋
成吉思汗鍋(じんぎすかんなべ)
    成吉思汗鍋士幌の町の旨さかな
寄鍋(よせなべ)
    寄せ鍋と具味変わらず水炊きと
ちり鍋(ちりなべ)
    ちり鍋や長ネギたっぷり鱈の味
鮟鱇鍋(あんこうなべ)
    鮟鱇鍋つるりと少し腹八分
石狩鍋(いしかりなべ)
    腕自慢鮭が入れば石狩鍋
薬喰(くすりぐい)
    薬喰言わず食べたし肉の味
おでん
    大根や見ればメニューぞおでんなり
湯豆腐(ゆどうふ)
    湯豆腐や年取り判る苦汁加減
冬構(ふゆがまえ)
    風が吹く急かされ縛る冬構
11/13
北窓塞ぐ(きたまどふさぐ)
    この景色北窓塞ぐ味気なき
目貼(めばり)
    目貼せど隙間ぞ多き我が庵
霜除(しもよけ)
    このあたり霜除はがし芋を掘り
風除(かぜよけ)
    風除や新聞押さえ昼下がり
藪巻(やぶまき)
    藪巻や未だ新しき縄の色
雪吊(ゆきつり)
    雪吊や広がり渡る縄投げる
炬燵(こたつ)
    炬燵より出る気が湧かぬテレビかな
火鉢(ひばち)
    股火鉢信楽焼が鼻を曲げ
湯湯婆(ゆたんぽ)
    湯湯婆湯や母は温もりそっと入れ
炉開(ろびらき)
    炉開や去年が匂いにはやる気よ
11/14
囲炉裏開く(いろりひらく)
    囲炉裏開くお昼が前に一仕事
敷松葉(しきまつば)
    石灯籠強き葉香り敷松葉
口切(くちきり)
    お茶壷道中口切役へ渡し終え
口切茶事(くちきりちゃじ)
     口切茶事先ずは拝見床の壺
橇(そり)
    暦より遅れてけふは橇おろす
冬耕(とうこう)
    冬耕や父振り上げる四本鍬
蕎麦刈(そばかり)
    静けさや蕎麦刈る音が切れ切れに
大根引(だいこんひき)
    北風に追われる如く大根引
大根干す(だいこんほす)
    大根干す笛を鳴らすや稲架の竹
切干(きりぼし)
    切干や母が味する銀杏切り
11/15
蕪引(かぶひき)
    長靴や孫の手伝い蕪引き
干菜(ほしな)
    漬け終りほどかず吊るす干菜かな
蓮根掘る(はすねほる)
    蓮根掘る水の冷たきポンプかな
麦蒔(むぎまき)
    ふわふわの畝に麦蒔き暮れゆけり
フレーム
    胡蝶蘭フレーム占めて連なりぬ
狩(かり)
    猪狩や草に纏われ声も出ず
猟期(りょうき)
    鉄砲と派手なベストが猟期なり
猟夫(さつお)
    夕暮れや鋭眼もどす猟夫かな
猟犬(りょうけん)
    猟犬をほーいとほーい木霊呼ぶ
網代(あじろ)
    さざ波とながれ任せる網代かな
11/16
竹瓮(たっぺ)
    竹瓮浮く大石探す砂利が底
泥鰌掘る(どじょうほる)
    逃さぬと羊羹の如泥鰌掘る
棕櫚剥ぐ(しゅろはぐ)
    背が伸びた棕櫚剥ぐ力生かしけり
馬下げる(うまさげる)
    馬下げる厩が温度馬の息
紙漉き(かみすき)
    ちゃぷちゃぷとけふの音聴き紙漉きぬ
紙干場(かみほしば)
    陽に当たる白さ冴えたり紙干場
紙漉女(かみすきめ)
    華奢な腕リズム崩さず紙漉女
楮晒す(こうぞさらす)
    楮晒す冷たき風の棘の如
焚火(たきび)
    温もりは手のひらよりと焚火かな
落葉焚(おちばたき)
    白い煙だんだん黄なる落葉焚
11/17
木の葉髪(このはがみ)
    仕事より恋を邪魔せし木の葉髪
文化の日(ぶんかのひ)
    憲法より勲章が記事文化の日
勤労感謝の日(きんろうかんしゃのひ)
    勤労感謝の日我働きて誰の日ぞ
十日夜(おおかんや)
    十日夜我が家の神は酔いつぶれ
七五三(しちごさん)
    子の丈や糸をほじきて七五三
千歳飴(ちとせあめ)
    ぶら下げる膝の高さに千歳飴
牡丹焚火(ぼたんたきび)
    炭の山牡丹焚火が香る宵
神の旅(かみのたび)
    寒そうとフリース詰めて神の旅
神迎へ(かみむかえ)
    鴨居の上供え甲斐あり神迎へ
恵比須講(えびすこう)
    絹網ですくいし鮒や恵比須講
11/18
酉の市(とりのいち)
    縁のない遠くの神社酉の市
一の酉(いちのとり)
    熊手持ち通り賑やか一の酉
二の酉(にのとり)
    二の酉や熊手にビニール夜の雨
三の酉(さんのとり)
    餃子屋が二階に集う三の酉
熊手(くまで)
    枯葉舞う熊手担いで婿が庭
十夜(じゅうや)
    僧の嫁幾度も運ぶ十夜粥
芭蕉忌(ばしょうき)
    桜庭や紅く染まりて蛤塚忌
白秋忌(はくしゅうき)
    あの歌を口ずさみたき白秋忌
波郷忌(はきょうき)
    波郷忌や悩み持つ友訪ね来る
一葉忌(いちようき)
    詠み終えて焼くやステーキ一葉忌
11/19
冬眠(とうみん)
    冬眠の熊がゐるぞと山にいる
熊穴に入る(くまあなにいる)
    熊打ちや熊穴に入る山に入る
隼(はやぶさ)
    隼や影と競ひて江戸に着く
鷲(わし)
    音もなく鷲が羽搏き飛びたてり
木菟(みみずく)
    木菟や今宵の茶の間に入り込み
柳葉魚(ししゃも)
    炭弱火あれこれ云ひて柳葉魚焼
蟷螂枯る(とうろうかる)
    蟷螂枯る景色になじむ色になり
冬の虫(ふゆのむし)
    冬の虫何処に潜む鳴きてみよ
帰り花(かえりばな)
    帰り花おぼしき花が多き森
11/20
侘助(わびすけ)
    妻の母床壺に活く侘助ぞ
山茶花(さざんか)
    刈り込まれ山茶花縮み咲く垣根
八手の花(やつでのはな)
    天狗持つ八手の花が白きなり
柊の花(ひいらぎのはな)
    刺々し柊の花寄せつけぬ
茶の花(ちゃのはな)
    見つけるは寒き夕方お茶の花
枯芙蓉(かれふよう)
    枯芙蓉風のリズムがからからと
青木の実(あおきのみ)
    青木の実紅がほんのり夕間暮れ
蜜柑(みかん)
    寒さ増し蜜柑の甘さ増しにけり
仏手柑(ぶしゅかん)
    仏手柑や幸運招く黄色かな
橙(だいだい)
    橙や新旧まぜて生りにけり
11/21
朱欒(ザボン) 
    厚い皮いと剥き易き朱欒かな
冬紅葉(ふゆもみじ)
    息切らす階段半ば冬紅葉
紅葉散る(もみじちる)
    紅葉散る瞬間狙い待つ時間
落葉松散る(からまつちる)
    落葉松散る下駄で階段下る朝
木の葉(このは)
    木の葉舞う風の下より掃けぬ暮
落葉(おちば)
    落葉より木の実を探す子供栗鼠
朴落葉(ほおおちば)
    朴落葉筆をしたため切手貼る
銀杏落葉(いちょうおちば)
    フィナーレと銀杏落葉舞い散りて
冬枯(ふゆがれ)
    冬枯れやサナトリウムへ道一人
冬苺(ふゆいちご)
    冬苺供えさびしや吾子の墓
11/22
冬葵(ふゆあおい)
    冬葵母が躾の糸を切り
カトレア
    カトレアと撮りて鏡を磨きけり
11/23
枯菊(かれぎく)
     枯菊や匂ひ放ちて焚き終えぬ
枯蓮(かれはす)
     枯蓮や茎の鋭き水に伏す
11/24
枯芭蕉(かればしょう)
     草を食む首を垂らして枯芭蕉
白菜(はくさい)
     白菜が上赤鮮やかな鳳来肉
11/25 
芽キャベツ(めきゃべつ)
     店頭へ芽キャベツ見つけ苗を買え
葱(ねぎ)
     葱ぱらり彩大事みそ汁へ
11/26
大根(だいこん)
     大根や夜の寒さに白々と
蕪(かぶ)
     味噌汁へ煮たてずさつと香る蕪
11/27
セロリ
     年ととも慣れか失せたかセロリの香
カリフラワー
     カリフラワーブロッコリーとは異なるぞ
11/28
ブロッコリー
     ブロッコリーあれにはなれぬ色失せど
寒竹の子(かんちくのこ)
     寒竹の子末は釣り竿傘の柄か
11/29
麦の芽(むぎのめ)
     谷挟み丘へと続く麦の芽よ
石蕗の花(つわのはな)
     荒れ草や主なき屋敷石蕗の花
11/30
新海苔(しんのり)
     新海苔や舟に一杯飛沫あぶ
榎茸(えのきだけ)
     繊維質今朝の味噌汁榎茸




俳句手帖 2019-10



10/1
白秋(はくしゅう)
   静けさや白秋の夜聞く汽笛
錦秋(きんしゅう)
   音もなく錦秋の苑葉ぞ光り
晩秋(ばんしゅう)
   晩秋の一つ家集う筆自慢
十月(じゅうがつ)
   十月や我が身に授く世の重き
長月(ながつき) 
   長月の半纏の裾ほつれけり
寒露(かんろ)  
   水鳥の潜りて食みし寒露の日
10/2
秋の暮れ(あきのくれ)
   道ひかる草の実飛ばす秋の暮れ
秋の夜(あきのよる)
   戸を閉めて一部屋集う秋の夜
身に入む(みにしむ)
   父居ぬと夕餉身に入む席ひとつ
秋寒(あきさむ) 
   秋寒や雨戸を閉めるせわし音
そぞろ寒(そぞろさむ)
   云わずとも布団がせかすそぞろ寒
10/3
漸寒(ややさむ)
   漸寒しつるり滑るはだし下駄
うそ寒(うそさむ)
   祭り間近床屋へ後がうそ寒し
肌寒(はださむ)
   肌寒し十時の光よこになり
朝寒(あささむ)
   朝寒や車の息も白くなり
夜寒(よさむ) 
   狭き部屋夜寒は火鉢各々が
霜降(そうこう) 
   息白し霜降る朝の固き砂利
10/4
秋の暮れ(あきのくれ)
   道ひかる草の実飛ばす秋の暮れ
秋の夜(あきのよる)
   戸を閉めて一部屋集う秋の夜
身に入む(みにしむ)
   父居ぬと夕餉身に入む席はあり
秋寒(あきさむ)
   秋寒や雨戸を閉めるせわし音
そぞろ寒(そぞろさむ)
   云わずとも布団がせかすそぞろ寒
10/5
冷まじ(すさまじ)
   冷まじきごいさぎが立つ水なき田
秋深し(あきふかし)
   秋深し隣りの家が動く夜
行く秋(ゆくあき)
   行く秋を追うが如くの落ちる柿
秋惜しむ(あきおしむ)
   紅い花囲むスタジアム秋惜しむ
冬隣(ふゆどなり)
   温暖化雲のかたさま冬隣
10/6
秋晴(あきはれ)
   秋晴や運動会があと黙す
秋日和(あきびより)
   秋日和子犬腹ばい庭を占め
秋の声(あきのこえ)
   風静かくぐる草むら秋の声
秋の空(あきのそら)
   声響く万国旗揺る秋の空
秋の雲(あきのくも)
   いつ見ても明日を思わす秋の雲
10/7
鰯雲(いわしぐも)
   豊漁の予感も空し鰯雲
後の月(のちのつき)
   約束を果たしてくれぬ後の月
十三夜(じゅうさんや)
   明日よりと輝き上り十三夜
秋風(あきかぜ)
   秋風や草の波立ち絮の舞う
色無き風(いろなきかぜ)
   浜名湖や色無き風がわたる朝
10/8
爽籟(そうらい)
   爽籟やウッドカーテンを上に揚げ
秋霖しゅうりん
   秋霖や関所が跡で砂利の音
秋時雨(あきしぐれ)
   秋時雨社映した水溜り
秋雪(秋雪)
   不作にも秋雪の白青き嶺
露時雨(つゆしぐれ)
   急ぐ足裾を濡らすか露時雨
露寒(つゆさむ)
   露寒やカバン揺らして早歩き
10/9
露霜(つゆじも)
   露霜を避けて通れぬ裏の道
秋の霜(あきのしも)
   身震ひて微かに白し秋の霜
釣瓶落し(つるべおとし)
   戯れて釣瓶落して水を汲む
秋の山(あきのやま)
   収穫を見せびらかして秋の山
山装ふ(やまよそおふ)
   温暖化山装ふ日バスは来ず
10/10
秋の野(あきのの)
   忙し世としばし訪ぬ秋の野へ
秋園(しゅうえん)
   秋園や鳥囀りぬ日笠さし
落とし水(おとしみず)
   静けさや水琴如し落とし水
刈田(かりた)
   待ちわびた刈田がベースホームラン
穭田(ひつじだ)
   穭田や風に追われし靡きけり
10/11
秋の川(あきのかわ)
   絹網をさして鮒待つ秋の川
秋の海(あきのうみ)
   輸送船左へ静か秋の海
浅漬大根(あさづけだいこん)
   浅漬大根つれあいが味懐かしき
菊膾(きくなます)
   父が好き母残す味菊膾
氷頭膾(ひずなます)
   氷頭膾色鮮やかも酸いと知り
10/12
柚餅子(ゆべし)
   土産にはふるさとの味柚餅子あり
柚味噌(ゆみそ)
   食欲を誘ふ香りが柚味噌かな
新蕎麦(しんそば)
   新蕎麦や打つと招きし客二人
新米(しんまい)
   新米を載せて自転車重きけり
新麹(しんこうじ)
   切り溜めや花咲く香り新麹
10/13
夜食(やしょく)
   夜食にも息子はマンガ読みふけり
零余子飯(むかごめし)
   零余子飯語るふるさと家もなし
栗飯(くりめし)
   行事とす栗飯の栗買いに行く
橡餅(とちもち)
   橡餅を搗く石臼の重きこと
干柿(ほしがき)
   待ちきれぬ甘き干し柿歯の裏へ
10/14
新酒(しんしゅ)
   新酒でき知らす杉玉つるす朝
古酒(こしゅ)
   古酒には古酒の趣き有ると知る
温め酒(ぬくめざけ)
   野暮抜けぬ息子嗜む温め酒
菊枕(きくまくら)
   野に摘みぬ母にもおくる菊枕
火恋し(ひこいし)
   火恋しや鞄持つ手の冷たさよ
10/15
秋の炉(あきのろ)
   きみしじま秋の炉囲む茶の香り
風炉名残(ふろなごり)
   短冊の軸に替えたる風炉名残
冬支度(ふゆじたく)
   父建てることり垣根や冬支度
松手入(まつていれ)
   五之三と枝を払えと松手入
案山子(かかし)
   稲のない田んぼに残る案山子かな
10/16
鳴子(なるこ)
   鳴子鳴ろ俺が頭と紐引く童
鳥威(とりおどし)
   作れども雀遊ぶや鳥威
脅し銃(おどしづつ)
   目覚ましやけふは不要と威し銃
鹿火屋(かびや)
   鹿火屋にて便りを書かぬ江戸の友
鹿垣(ししがき)
   山の枝鹿垣作り刈り集め
10/17
稲刈り(いねかり)
   稲刈りの三時に口へパンの味
稲架(はざ)
   稲架作り藁より重き丸太かな
新藁(しんわら)
   新藁に残れるぬくみ山と積む
藁塚(わらづか)
   藁塚をラガー配置に積み上げて
夜なべ(よなべ)
   オールナイト落すボリユーム夜なべかな
10/18
砧(きぬた)
   力なく姉は振り上げ砧打つ
新煙草(しんたばこ)
   棚の束光遮り新煙草
新綿(しんわた)
   種ぽろり新綿ふわり母が繰る
新絹(しんきぬ)
   あつあつと新絹の糸繰り出して
種採(たねとり)
   種採りぬ根元に残り次の春
菜種蒔(なたねまく)
   柔肌の如き畑地へ菜種蒔く
萩刈る(はぎかる)
   萩刈りて見上げる山に雲もなく
菱取る(ひしとる)
   波静か菱取り舟が跡伸びる
蘆刈(あしかり)
   蘆刈を追いかけ鳥のせわしこと
葦火(あしび)
   むこうにも葦火の煙立ち昇り
10/19
桑括る(くわくくる)
   皮採りと桑括る束軽きかな
秋繭(あきまゆ)
   農業祭秋繭を選り並ぶ卓
初猟(はつりょう)
   初猟や散弾銃屋根を打つ
崩れ簗(くずれやな)
   台風や時期を早めて崩れ簗
鮭打(さけうち)
   鮭打の極意極めていくら食う
鮭番屋(さけばんや)
   温し石あと少しなり鮭番屋
菊花展(きくかてん)
   菊花展すぐに見つかる母の作
菊人形(きくにんぎょう)
   菊人形顔に似合わぬ色使い
茸狩(きのこがり)
   去年採りし根元荒らされ茸狩
紅葉狩(もみじがり)
   紅葉狩せわしく歩き上を見ず
10/20
芋煮会(いもにかい)
   庄内へ匂いかぎたし芋煮会
重陽(ちょうよう)
   重陽の風母の自慢を倒しけり
登高(とうこう)
   登高す汗の元なる水ぐびり
赤い羽根(あかいはね)
   赤い羽根季節替わりを胸につけ
体育の日(たいいくのひ)
   特異日を体育の日と決め五輪
鹿の角切(しかのつのきり)
   麻酔銃鹿の角切静かなり
べったら市(べったらいち)
   麹の香べったら市の帰りかな
鞍馬の火祭(くらまのひまつり)
   火祭や汗照らしだす松明よ
時代祭(じだいまつり)
   時代祭侍烏帽子傾きて
菊供養(きくくよう) 
   くらがりに紛れゆきたく菊供養
10/21
去来忌(きょらいき)
   去来忌や未だ渋柿ぞ混じりたり
ハロウィン 
   ハローウィン昼の仮装や厚化粧
猪(いのしし)
   軽トラックのびた猪触りたし
馬肥ゆる(うまこゆる)
   馬肥ゆる流鏑馬神事かりだされ
渡り鳥(わたりどり)
   屋根覆ふ今年も来たか渡り鳥
鷹渡る(たかわたる)
   鷹渡る門の木とまる鋭き目
坂鳥(さかどり)
   坂鳥が来たと騙され朝仕度
稲雀(いなすずめ)
   稲雀飛竜がごとし飛びまわり
鵯(ひよどり) 
   鵯や窓辺が枝へけふは来ず
鶫(つぐみ)
   鶫鳴く霞網を張る林なり
10/22
連雀(れんじゃく)
   冠毛やせわしく揺らし連雀よ
獦子鳥(あとり)
   風揺らす獦子鳥さえずり葦の中 
頭高(かしらだか)
   武蔵野へ林を越して頭高
鴿(しめ) 
   鴿狙う空気銃は空を打つ
鶲(ひたき) 
   かちかちと鴿は何処屋敷跡
田雲雀(たひばり)
   田雲雀や葦の河原も風強し
鵲(かささぎ) 
   鵲橋横風に耐え渡り切り
鴇(とき) 
   昼下り刈田に鴇ぞ舞降りぬ
雁(かり) 
   雨あいの月に入る雁一羽づつ
雁行(がんこう)
   ドローン撮る雁行型にある我が家
10/23
初鴨(はつがも)
   初鴨や湖の波たゆく眼を閉じぬ
鴨来る(かもきたる)
   鴨来る水上に立ち羽ばたきぬ
鶴来る(つるきたる)
   双眼鏡山のは彼方鶴来る
落鮒(おちぶな)
   笹舟や落鮒すくう川下る
紅葉鮒(もみじぶな)
   味噌にあうことこと煮込む紅葉鮒
木の葉山女(このはやめ)
   浮かぶ葉をかき分け背鰭木の葉山女
落鰻(おちうなぎ)
   すだれ屋根ベンチに埃落鰻
江鮭(あめのうお)
   瀬田の堰満水染めし江鮭
江鮭(あきがつお)
   江鮭夕日と染める浮御堂
秋鯖(あきさば)
   酢にしめて秋鯖食わす里帰り
10/24
鰯(いわし)
   料理下手鰯が刺身捌けなく
秋刀魚(さんま)
   秋刀魚焼く味が左右塩加減
花咲蟹(はなさきがに)
   閉じられぬ花咲蟹が子持ち腹
残る虫(のこるむし)
   皆去れど余韻に浸る残る虫
蝗(いなご)
   蝗捕るげてもの喰えず塵場行
浮塵子(うんか)
   浮塵子よぶ灯りも絶えて田も暗く
蓑虫(みのむし)
   絶命危惧種すでに蓑虫仲間入り
栗虫(くりむし)
   栗の虫毬鬼渋に守られし
秋の蜂(あきのはち)
   巣近し羽音さびしく秋の蜂
木犀(もくせい)
   木犀の香障子むこう控え待ち
10/25
金木犀(きんもくせい)
   金木犀の林七十七里むせかえる
銀木犀(ぎんもくせい)
   銀木犀財布にしたし犀の肌
洎夫藍(サフラン)
   洎夫藍や瓶に栓して売られおり
芙蓉の実(ふようのみ)
   芙蓉の実咲し謳歌の面影よ
木瓜の実(ほけのみ)
   木瓜の実や転がる先の坂きびし
水木の実(みずきのみ)
   水木の実熟女が襟ほくろあり
椿の実(つばきのみ)
   熟せどもけして落ちまい椿の実
枳橘の実(からたちのみ)
   枳橘の実目立たぬように匂いけし
梔子の実(くちなしのみ)
   梔子の実やまい癒して黄膨れて
藤の実(ふじのみ)
   藤の実や棚から上が透かし彫り
10/26
秋果(しゅうか) 
   ただいまに留守番電話秋果あり
柿(かき)
   柿食えど鐘は聞こえぬパチンコ屋
渋柿(しぶがき)
   渋柿や季節が終り目出番なり
熟柿(じゅくし)
   指先や熟女食らう熟柿かな
林檎(りんご)
   籾探る林檎の色を指でみる
紅玉(こうぎょく)
   紅玉や味の歴史に燦然と
無花果(いちじく)
   フォーク染む無花果ケーキ喉をこし
胡桃(くるみ)
   胡桃パン試食の残りバイト先
鬼胡桃(おにぐるみ)
   細動に耐え握りしめ鬼胡桃
沢胡桃(さわぐるみ)
   登り着く食べられぬとは沢胡桃
10/27
酢橘(すだち)
   薬指昨日刺されし酢橘棘
柚子(ゆず) 
   豊作と柚子の隙間にはいる風呂
柑子蜜柑(こうじみかん)
   久々の照日一杯柑子摘む
金柑(きんかん)
   金柑の皮の旨さが年ごとに
オリーブの実(オリーブのみ)
   オリーブの実あれどこの木は何の木か
檸檬(レモン)
   みかん畑片隅一本檸檬かな
榲桲(マルメロ)
   葉が落ちて榲桲並木丸い影
榠樝の実(かりんのみ)
   流行の風邪を止めるか榠樝の実
茘枝(れいし)
   中華料理冷凍茘枝がじゃりじゃりと
冬瓜(とうがん)
   種まかぬうちの冬瓜木を登り
10/28
紅葉(もみじ)
   ひとはみな紅葉背にしてはいポーズ
照葉(てりは)
   照葉染め紅いセーター色増して
照紅葉(てりもみじ)
   築山と石橋染める照紅葉
紅葉かつ散る(もみじかつちる)
   夕並木紅葉かつ散るボンネット
黄落(こうらく)
   黄落や五十路迎えた友が逝く
雑木紅葉(ぞうきもみじ)
   森林公園雑木紅葉を踏み散歩
楓紅葉(かえでもみじ)
   古寺まもる楓紅葉が鐘の脇
漆紅葉(うるしもみじ)
   かぶれると漆紅葉が毒々し
櫨紅葉(はぜもみじ)
   櫨紅葉疲れ目休め轆轤繰る
10/29
銀杏黄葉(いちょうもみじ)
   銀杏黄葉麓いきたし窓をこし
柞紅葉(ははそもみじ)
   柞紅葉ハンドルは向く仕事すて
柿紅葉(かきもみじ)
   柿紅葉永久の別れあから顔
七竈(ななかまど)
   七竈葉を脱ぎ全て赤を見せ
銀杏散る(いちょうちる)
   銀杏散る車も速度上げ抜けぬ
名の木散る(なのきちる)
   抗へど押し寄せる年名の木散る
色変えぬまつ(いろかえぬまつ)
   色変えぬまつ私も変えず来るをまつ
新松子(しんちぢり)
   主なき庭にも青く新松子
五倍子(ふし)
   大雨と崖崩れあと木五倍子咲く
木の実(このみ)
   真夜中や寝間の庇に木の実落つ
10/30
団栗(どんぐり)
   団栗や袴をやにわ外す昼
椎の実(しいのみ)
   誰見せる缶の椎の実一人っ子
菩提子(ぼだいし)
   菩提子の実翼に載りて遠き地へ
榧の実(かやのみ)
   榧の実や将棋勝負駒の音
無患子(むくろじ)
   声かける無患子が音羽根と飛び
銀杏(ぎんなん) 
   境内の自販機の下銀杏あり
紫式部(むらさきしきぶ)
   上品に紫式部実を熟し
破芭蕉(やればしょう)
   廃寺へ誰ぞ植えしか破芭蕉
残菊(ざんぎく)
   皆枯れど色度いよいよ残菊
落穂(おちぼ)
   誰も居ぬ落穂拾いが風に負け
10/31
落花生(らっかせい)
   振り落とす土に混じらぬ落花生
敗荷(やれはす)
   敗荷や曲がり葉先は地につかず
末枯(うらがれ)
   末枯の野一つ家があり歩く先
萱(かや) 
   萱をさす趣きも無き我が庵
郁子(むべ) 
   郁子みつけ身をほぐしつつ登る山
美男葛(びなんかずら)
   美男葛雌花雄花が出合い待つ
牛膝(いのこずち)
   野原ゆく足を離さじ牛膝
草虱(くさじらみ)
   草虱赤い手甲にハート型
吾亦紅(われもこう)
   想い出す顔も忘れし吾亦紅
烏瓜(からすうり)
   照らし出す夕日が紅く烏瓜
茸(きのこ)
   五種まぜてけふは特別茸飯
松茸(まつたけ )
   松茸や杉の葉の上寝そべりし
湿地(しめじ)
   ばらばらと湿地ほぐして鍋の湯気
椎茸(しいたけ)
   こんこんと椎茸菌が打ち込まれ




今日の季語 2021-4





「万愚節」
     あちこちで恋の伝達万愚節
鐘霞(かねかす)む
    つなぐ手や二つの寺が鐘霞む
「新社員」
    挨拶や偏差値露わ新社員
木の芽時(このめどき)
    静寂な生垣通り木の芽時
「清明(せいめい)」二十四節季
    清明や淡路の橋の潮流れ
花曇(はなぐもり):「養花天」
    花曇連続ドラマテーマ曲
「春荒(はるあれ)」
    春荒やどちらで送る一句二句
若鮎(わかあゆ):「稚鮎(ちあゆ)・上り鮎」
    きらきらと花びらが影上り鮎
「牧開(まきびら)き」
    牧開き一目散にあのブース
海女(あま):「海女の笛」
    てんてんと桶の揺れ音海女の笛
「山独活(やまうど)」
    山独活を判別出来ぬソロキャンプ
桜草(さくらそう):「乙女桜・雛桜」
    歓迎と法面染めて桜草
「別れ霜(わかれじも)」
    くるくると扇風機今朝別れ霜
蜃気楼(しんきろう):「海市(かいし)・喜見城(きけんじょう)」
    海の城あの人もゐぬ蜃気楼
「花水木(はなみずき)」
    向こう岸今年も咲いて花水木
伊勢参(いせまいり):「抜参(ぬけまいり)」
    追い抜かる白い航跡伊勢参 
八重桜(やえざくら):「牡丹桜」
    遅れ人八重の歓待八重桜
蜂(はち):「女王蜂・雄蜂・働蜂」「蜜蜂・熊蜂・足長蜂」
     蜜の満つタンク交換蜂の飛ぶ
「春濤(しゅんとう)」
    春濤の砕けて続く白い浜
穀雨(こくう):二十四節気
    放棄田も紫雲英田も撒く穀雨かな
残る鴨(のこるかも)
    ブラジルへ千切れてテープ残る鴨
磯開(いそびらき):「海下(うみおり)・磯の口開(いそのくちあけ)」
    焼け野原一艘も出ぬ磯開
「猫の子(ねこのこ)」
    行列へ猫の子譲る声密か
薊(あざみ):「野薊・花薊・眉はき・眉つくり」
    薊咲く野原電話ボックスへ知らせ
「春時雨」
    傘がない飛び込む先の春時雨 
炬燵塞ぐ(こたつふさぐ)
    炬燵塞ぐ四畳半テレビ体操
「豆の花(まめのはな)」
    豆の花最後のひとり村はずれ
竹秋(ちくしゅう):「竹の秋」
    人目避けはらはらと舞ふ竹の秋
「河豚供養(ふぐくよう)」
    空に舞ふぶつぶつ唱え河豚供養
勿忘草(わすれなぐさ)
    勿忘草名前と花の結びつき

今日の季語 2021-3

今日の季語 2021-03
 

ミモザ:「銀葉アカシア」
    庭園の大樹真ん中ミモザ咲く
春動く(はるうごく):「春萌す」
    空っぽのかたい鞄の春動く
雛(ひな/ひいな)
    縁ありて奇遇な出逢い吾子と雛
春の夕(はるのゆうべ/はるのゆう):「春夕(しゅんせき/はるゆうべ)」
    御膳だぞ春の夕の父の呼ぶ
啓蟄(けいちつ)
    啓蟄や虫殺させぬこの日本
観梅(かんばい)
    観梅や去年が製品並べ売り
白鳥帰る(はくちょうかえる):「白鳥引く」
    群舞して白鳥帰り点と化す
雛納(ひなおさめ):「雛しまふ」
    柔らかき和紙の年輪雛納
ものの芽(め):「芽」
    ものの芽や静かなり撮影開始
凍(いて)ゆるむ
    じわじわと万物に色凍てゆるむ
東日本震災忌(ひがしにほんしんさいき):震災忌
    白波や晴れど冷え込み震災忌
春景色(はるげしき):「春色・春景」
    染めあがる靡き手拭春景色
柳の芽(やなぎのめ):「芽柳」
    隣脱ぐ愚図愚図出来ぬ柳の芽
春嵐(はるあらし):「春荒(はるあれ)」
    ポリ袋どこまで見えて春嵐
進級(しんきゅう)
    進級や万年筆の届け物
落椿(おちつばき):「椿落つ」
    丘の上ぐるり囲みて落椿か
春北風(はるきた・はるならひ)
    ざらざらと黄色雲ゆく春ならひ
紫雲英(げんげ):「蓮華草(れんげそう)」
    伸ばして手ゴロゴロゴロと紫雲英かな
星朧(ほしおぼろ):「春星」
    ウナギパイ分けてふたつに星朧
残る雪(のこるゆき):「残雪・去年(こぞ)の雪・雪形」
    登山帽丸いアーチが残る雪
霾(つちふる)
    ふんわりと霾朝の鏡肌
春の蝿
    咲き乱る誘惑の外春の蠅
朧夜(おぼろよ)
    我が家は近し朧夜の遠吠えよ
「春の雷」
    名跡や閉ざして蕾春の雷
物種蒔(ものだねま)く:「○○蒔く」
    種を蒔く振るわれ土やふわふわと
「春服」
    春服や立ち回り見せ仕付糸
蒜(にんにく・ひる):「大蒜(おほびる)」
    就活やウーバーが箱匂う蒜
春分
    春分や禰宜ギシギシと御霊様
卒業
    卒業や忘れ去られて通信簿
沈丁花(じんちょうげ)
    防臭剤あがりはな占む沈丁花
桜雨:「花の雨」
    四ツ池や観る人もなく桜雨
    ぽつぽつと染めてや水面花の雨
    ふわりふわ作り始めて花筏

今日の季語 2021-2

今日の季語 2021-02



寒木瓜(かんぼけ):「冬木瓜」
    今朝弾く赤き寒木瓜庭の口
冬の果(ふゆのはて):「果つ・去る・送る」
    キックオフ音柔らかき冬の果て
立春(りっしゅん):「春立つ・春来る」
    春立つや未だ音も無き三時半
垂氷(たるひ):「立氷(たちひ)・銀竹」
    夜もすがらわずかに伸びて垂氷かな
二月(にがつ):「にんがつ」
    しわ寄せて予定一杯二月メモ
初午(はつうま):「一の午・午祭・三の午」
    初午やけふは賑やか煙たつ
残る寒さ(のこるさむさ):「余寒」
    盆石に残る寒さや白き形
雪割草(ゆきわりそう)
    けふは閉ず雪割草や待つ晴日
岩海苔(いわのり):「海苔」
    乱る調べ岩海苔を掻く波の息
薄氷(うすごおり):「春の氷」
    捕まえど消えて指より薄氷
春(はる)スキー
    花弁に押され登るや春スキー
踏絵(ふみえ)
    足袋の跡破れ始めて踏絵かな
芝火(しばび):「芝焼」
    煙色変えて去りゆく芝火かな
春遅(はるおそ)し:「遅き春」
    春遅し胃カメラはみず去年の跡
浅蜊汁(あさりじる):「浅蜊飯・酒蒸し浅蜊」
    初めての一人の夕餉浅蜊汁
草萌(くさもえ):「草萌ゆ・萌ゆ」
    草萌や赤き杭打ち道路際
春の雨(はるのあめ):「暖雨」
    春の雨傘もち出待ち親が群
雨水(うすい)
    舞ふような未だ柔らかき雨水かな
獺祭(だっさい:おそまつり):「獺(かわうそ)魚を祭る」
    獺祭の眺めてみたく熊村へ
白梅(はくばい):「梅白し・梅真白」
    もう遅い寺の白梅散り始む
春(はる)ショール:「春マフラー」
    シヨーウィンド歩き軽やか春ショール
寄居虫(やどかり):「がうな(>ごうな)」・ヤドカリ(宿借)
    やどかりやあらず安住殻探し
蕗の芽(ふきのめ):「蕗の薹(とう)」
    ニョキニョキと蕗の芽の伸びて受く朝日
浅春(せんしゅん):「浅き春」
    弁当や色いろいろなり浅春
菜種御供(なたねごく):「梅花祭」
    波打つ幕今朝晴れ上がり菜種御供
焼山(やけやま)
    つんつんと残り焼山道標
木の芽田楽(きのめでんがく):「田楽・田楽豆腐」
    木の芽田楽山椒の香部屋にみつ
二月逝く(にがつゆく):「逝く・果つ・尽く・過ぐ」
    人並みに動く日多く二月逝く

今日の季語 2021-01

今日の季語 2021-01



年迎(としむか)ふ:「新年・年立つ・年明くる・年越ゆ・来る年・新しき年」 
   白頁一句詠みこみ年迎ふ
初東風(はつごち)
   初東風やくるりと回り凧揚げぬ
三が日(さんがにち):「三ヶ日」
   改まり挨拶交わし三が日
破魔矢(はまや):「破魔弓」の傍題
   電車揺れ和服が胸に破魔矢かな
小寒(しょうかん)
   小寒や小波たてず池の鯉
冬障子(ふゆしょうじ):「障子」だけでも三冬の季語
   娘らが声聞こえぬか冬障子
人日(じんじつ):正月七日
   人日や母の刻みし粥かをる
松明(まつあけ):「注連(しめ)明」
   松明や釘の間隔広めたり
歯固(はがため)
   歯固に外し金冠治して歯
猿曳・猿引(さるひき)
   猿引や指でくるりと宙返り
鏡割(かがみわり)
   女子社員才槌効かぬ鏡割
初句会(はつくかい):「句会始・初運座」
   電子辞書変えて臨むや初句会
白鳥(はくちょう):「スワン・黒鳥」
   白鳥や波もたてずと湖上ゆく
餅の花(もちのはな):「花餅・餅木」
   しなる枝障子に映り餅の花
小正月(こしょうがつ)
   七並べ叔母もかたせて小正月
雪掻(ゆきかき):「雪掻く・雪除け」
   後ろから追ひて雪掻き降り積もり
阪神忌(はんしんき):「阪神淡路震災忌・関西震災忌」
   ダンプ通る揺れの記憶や阪神忌
霜焼(しもやけ)
   霜焼や翳して火鉢熱き足
薬喰(くすりぐい):「寒喰(かんぐい)」
   天井に湯気をあげるや薬喰
大寒(だいかん)
   大寒や耳鳴り在庫総披露
冬凪(ふゆなぎ):「寒凪・凍(いて)凪」
   冬凪や時々ぴょんと兎島
雪礫(ゆきつぶて):「雪丸(まろ)げ・雪ころばし」
   こきこきと鳴るや大きく雪礫
寒烏・寒鴉(かんがらす):「冬鴉」
   夕日染む羽の疲れて寒鴉 
天狼(てんろう):「青星(あおぼし)・狼星(ろうせい)」「シリウス」の青白い光
   天狼や群れず野原の立ち別れ
寒泳(かんえい):「寒泳ぎ」
   寒泳や消て水滴手をかざし
寒椿(かんつばき)
   棚田へとひとつ咲かせて寒椿
   寒椿ひとつだけあり棚田道
採氷(さいひょう):「氷切る・氷挽く」
   氷切るよしの一声響く湖
裸木(はだかぎ):「枯枝・枯木立」
   裸木や峠は遥か道標
冬安居(ふゆあんご):「雪安居」
   灯明の揺れぬ静寂冬安吾
寒卵・寒玉子(かんたまご)
   産みたてや温み消えゆく寒卵
滝凍(たきい)つる:「凍滝(いてだき)・冬の滝・氷瀑」
   通学路坂の真ん中滝凍つる

目次へ戻る