新歳時記より 2020-12
十二月(じゅうにがつ)
切り揃え鉈振り下ろし十二月
霜月(しもつき)
霜月や篠刈り人の歩む如
短日(たんじつ):日短(ひみじか)暮早し(くれはやし)
短日や鎮守の森の長き影
冬の日(ふゆのひ):冬日(ふゆひ)冬日向(ふゆひなた)
街道の人を眺めて冬日向
冬の朝(ふゆのあさ)
冬の朝蒲団の中の着替えかな
冬の雲(ふゆのくも):凍雲(いてぐも)
風運ぶ数えきれなき冬の雲
冬霞(ふゆがすみ)
裏の畑大根扱ぎの冬霞
顔見世(かほみせ):歌舞伎顔見世(かぶきかほみせ)
顔見世や幟が立ちて始まりぬ
12/2
冬の空(ふゆのそら):寒天(かんてん)寒空(さむぞら)
冬の空待つ人のいて向こう岸
冬の鳥(ふゆのとり):寒禽(かんきん)
固まりて押し競饅頭冬の鳥
冬の雁(ふゆのかり)
田の向こう見張り役いて冬の雁
梟(ふくろふ)
長閑な夜梟鳴くや屋敷の木
木兎(みみづく):「づく」
声聞けど木兎の耳未だ見ず
冬田(ふゆだ)
空稲架の鳴く声淋し冬田かな
水鳥(みずとり)
水鳥や湖上の風に委ね揺れ
浮寐鳥(うきねどり)
ジーゼルの鉄橋響く浮寐鳥
鴨(かも)
河骨が葉を敷く池に鴨の寝る
12/3
鴛鴦(をしどり):「をし」
鳥小屋へ鴛鴦浮かぶ掃除番
鳰(かいつぶり):「にほ・にほどり」
鳰遥か向こうで首を振り
初雪(はつゆき)
初雪や証拠残らぬ下駄の跡
初氷(はつごおり)
掬い出す薄きガラスや初氷
寒さ(さむさ)
教室や遠い太陽寒さかな
冷たし(つめたし):「底冷え」
下校済む冷たし廊下暗くなり
息白し(いきしろし)
推進機後ろ向き行く息白し
冬木(ふゆき)
木道や樵の休む大冬木
冬木立(ふゆこだち)
冬木立武蔵野にて従妹逝き
12/4
枯木(かれき):「枯木宿」
たい付けを忘れず入れて負う枯木
枯木立(かれこだち):「寒林」
枯木立煙の登り開墾地
枯柳(かれやなぎ)
この道は柳通や枯柳
枯山吹(かれやまぶき)
しなやかに枯山吹の揺れる枝
枯桑(かれくわ):「桑括り」
風攫う縛る枯桑ヨガポーズ
枯萩(かれはぎ)
枯萩のトンネル淋し誘導路
枯芙蓉(かれふよう)
枯芙蓉毛深い実割れ現る実
枯茨(かれいばら)
枯茨衰えぬ棘風に振れ
冬枯(ふゆがれ)
冬枯や釣瓶の廻る家ありし
霜枯(しもがれ)
霜枯の教習場のバイクかな
12/5
冬ざれ(ふゆざれ)
冬ざれの三方原より富士望む
枯草(かれくさ):「草枯」
鎌光る枯草囲む墓参り
枯蔓(かれづる)
枯蔓や廃屋被ふ年月よ
枯蔦(かれつた)
白壁や枯蔦つたう赤き色
枯葎(かれむぐら)
河原へと行方阻むや枯葎
枯尾花(かれおばな):「枯芒・彼萱」
街道へ邪魔する長き枯尾花
枯蘆(かれあし)
頬に風揺れる枯蘆鳥の鳴き
枯蓮(かれはす)
枯蓮や鉄さび色が写す田面
枯芝(かれしば)
枯芝やボールが跳ねてライン割り
枯菊(かれぎく)
枯菊や束ねる束が匂いたち
12/6
枯芭蕉(かればせう)
枯芭蕉いよいよ寒く見えてきて
苗代茱萸の花(なはしろぐみのはな):たはらぐみの花
夕暮れや苗代茱萸の花の咲く
枇杷の花(びわのはな)
枇杷の花井戸端会議のらぬ朝
臘八會(らふはちゑ):「成道會(じゃうだうゑ)」
臘八や警策響く座禅堂
大根焚(だいこたき):「鳴瀧の大根焚」
気新た外の竃で大根焚
風呂吹(ふろふき)
風呂吹や度肝を抜かす竹の爆ぜ
雑炊(ざふすゐ)
時間とは言わず雑炊勧めけり
葱(ねぎ):ひともじ
捻じりあげひともじのあり夕餉かな
12/7
根深汁(ねぶかじる):葱汁
大鍋も縮み沈みて根深汁
冬菜(ふゆな):冬菜畑(ふゆなばたけ)
真っ直ぐな畝連なりて冬菜かな
白菜(はくさい)
止まる手や縛る白菜帽子跳ぶ
干菜(ほしな):懸菜・吊菜
陽を浴びせ風が揺さぶる干菜かな
干菜汁(ほしなじる)
浸し水かをる朝餉や干菜汁
干菜湯(ほしなゆ)
干菜湯や家中かをり温み来る
胡蘿蔔(にんじん):人参
スライサー人参サラダいと早し
蕪(かぶら):かぶ・緋蕪
十八番蕪の漬物薄く切り
蕪汁(かぶじる)
蕪汁や味噌と争うそのかをり
12/8
納豆汁(なっとうじる)
糸引かぬ納豆汁になじめなく
粕汁(かすじる):酒の粕
大吟醸甘さもかをり酒の粕
闇汁(やみじる)
闇汁や霜降り牛を忍ばせて
のっぺい汁
のっぺい汁けふは来ないか黒い梁
寄鍋(よせなべ)
長男の寄せ鍋仕切る夕餉かな
鍋焼(なべやき):芹焼・鍋焼饂飩
風邪ひけば鍋焼饂飩母の味
おでん:おでん屋
白い湯気かきこの踊るおでんかな
焼藷(やきいも)
夕暮れの焼藷の笛切れ切れに
湯豆腐(ゆどうふ)
電灯や湯豆腐浮かぶ赤い椀
12/9
夜鷹蕎麦(よたかそば):夜鳴饂飩
覗くマンガ「早く寝なさい」夜鳴饂飩
蕎麦掻(そばがき)
何も無い昼は蕎麦掻妻の技
蕎麦湯(そばゆ)
啜り終え店の味知る蕎麦湯かな
葛湯(くずゆ)
腹チクチク母が差し出す葛湯かな
熱燗(あつかん)
ちんちんの熱燗の飛ぶアルコール
玉子酒(たまござけ)
小ジョッキ飲む玉子酒下がる熱
生姜酒(しょうがざけ)
コロナ禍や今宵は一人生姜酒
事始(ことはじめ)
新しき製図用紙や事始
貞徳忌(ていとくき)
太鼓橋松友として貞徳忌
12/10
神楽(かぐら)
獅子鼻の中の恐さや神楽かな
里神楽(さとかぐら)
頭とり隣りの親父里神楽
冬の山(ふゆのやま):冬山・冬山家(ふゆやまが)
葉も落としじっと静かに冬の山
山眠る(やまねむる):眠る山
画面や頭上PCの山眠る
冬野(ふゆの)
石跳ねる冬野を一人漕ぐペダル
枯野(かれの)
静かなる枯野はじっと風を待ち
熊穴に入る(くまあなにいる):熊
まんぷくの熊穴に入る野菜畑
熊突(くまつき)
熊突やへっぴり腰の竹の先
熊祭(くままつり)
神様に汁の熱さや熊祭
12/11
狩(かり):猟犬(れふけん)・猪狩(ししがり)・鹿狩
満面の獲物担ぎて狩自慢
猟人(かりうど):猟夫(さつを)
赤いベスト被る狩人黄色かな
狩の宿(かりのやど)
熊打や猟銃光る狩の宿
薬喰(くすりぐひ):鹿売(ろくうり)
大物を隣も誘いて薬喰
山鯨(やまくぢら)
山鯨囲炉裏が宿に鍋の湯気
狼(おほかみ)
風止みて狼聞こゆ山の宿
狐(きつね)
自転車と狐の招き藪の中
狐罠(きつねわな)
化かせぬか知恵絞りあひ狐罠
狸(たぬき)
ふわふわとヘッドライトの狸かな
12/12
狸罠(たぬきわな)
この餌喰ふ閉まるシャッター狸罠
狸汁(たぬきじる)
白はんぺん浮かべて今宵狸汁
兎(うさぎ):兎汁
耳赤き兎の餌と土手の草
兎狩(うさぎがり)
柴犬やにほひ一杯兎狩
鼬罠(いたちわな)
鼬罠暴れる眺む通る人
笹鳴(ささなき):冬鶯(ふゆうぐいす)・鶯の子・笹子
笹鳴や修行の後変声期
鶲(ひたき)
果物やぺこぺこお辞儀鶲かな
鷦鷯(みそさざい):三十三才(みそさざい)
人絶えて分校の屋根三十三才
都鳥(みやこどり)
都鳥等間隔の二人達
12/13
千鳥(ちどり):鵆(ちどり)・磯千鳥・濱千鳥・川千鳥・夕千鳥・小夜千鳥・群
千鳥・友千鳥・遠千鳥
汐汲や天秤棒の千鳥越え
冬の海(ふゆのうみ)
本当に誰もいないと冬の海
鯨(くぢら)
桂浜潮吹き鯨行脚かな
捕鯨(ほげい):捕鯨船
轟音や白波高く捕鯨船
鯨汁(くぢらじる):鯨鍋
柔らかき野菜歯たたぬ鯨汁
河豚(ふぐ):ふぐと・河豚汁・ふぐと汁・河豚鍋・河豚ちり・鰭酒・河豚の宿
近畿路で店を梯子の河豚の味
鮟鱇(あんかう):鮟鱇鍋(あんかうなべ)
パック詰め鮟鱇鍋がとろみかな
12/14 (12/1 ツイート)
鮪(まぐろ):鮪船
大将の鮪の解凍店の味
鱈(たら)
たらちねの母の鱈ちり去りし味
鰤(ぶり):寒鰤・鰤起し
寒鰤や一本で売る安売り店
鰤網(ぶりあみ)
立山のゆれて鰤網あぐ重さ
魦(いさざ)
粉まみれ揚げて魦の塩加減
杜父魚(かくぶつ):霰魚(あられうお)
杜父魚や下る九頭竜霰あり
潤目鰯(うるめいわし)
嫁入りて潤目鰯の指剥き
塩鮭(しほざけ):あらまき・しほひき
あらまきや吊られ電球末近し
乾鮭(からざけ)
乾鮭や酒の肴の喰いちぎり
12/15
マスク
コロナ禍やマスク美人が距離を置く
襟巻(えりまき):首巻
襟巻や指で絡めて顔隠し
ショール:肩掛
昼高し絹がショールの照り返し
手袋(てぶくろ):皮手袋
指開き皮手袋を見びらかし
マッフ
古行李祖母のマッフが褪せて色
股引(ももひき):もんぺ・ぱっち
股引を履かぬ男の脛の色
足袋(たび)
物干し台別珍の足袋色ごとに
外套(ぐわいたう)
外套を引きはがしたき帰る人
12/16
海鼠(なまこ):海鼠突(なまこつき)
げて姿味知る者が海鼠なり
海鼠腸(このわた)
海鼠腸や父の箸先僅かなり
牡蠣(かき):牡蠣打(かきうち)
心込め選び出し詰め牡蠣フライ
牡蠣むく(かきむく)
殻の山牡蠣むき女眺む午後
牡蠣船(かきぶね)
牡蠣船や豊量祝ふ重き音
牡蠣飯(かきめし)
レモン汁牡蠣飯かをり夕餉かな
味噌搗(みそつき):味噌作る
石臼や躍り出ぬよう味噌搗きぬ
根木打(ねつきうち)
根木打分捕り棒が丸い山 迫る夕闇火花散り
12/17
冬の蝶(ふゆのてふ)
冬蝶の枯れて花の香舞ひおりぬ
冬の蜂(ふゆのはち)
弱弱し寝ぼけ眼が冬の蜂
冬の蠅(ふゆのはへ)
日の当たる赤い座布団冬の蠅
冬籠(ふゆごもり)
都落ち丸太のこ挽く冬籠
冬座敷(ふゆざしき)
ガラス越し障子明るし冬座敷
屏風(びやうぶ):金屏風・銀屏風・銀屏・檜屏風(ゑびやうぶ)
白屏風誘惑に負け太き文字
障子(しやうじ)
姉が友障子向こうの内緒かな
炭(すみ):木炭・堅炭
膨らまし炭火育てて頬の色
消炭(けしずみ)
消炭や天井を這ふ白煙(しろけむり)
12/18
炭団(たどん):練炭
練炭の沸かす鉄瓶ちんちんと
炭火(すみび):炭頭・燻炭・跳炭
消壺に納めて炭火けふ終い
埋火(うづみび)
夕まぐれ掘りて埋火もみじの手
炭斗(すみとり):炭取・炭籠・十能
炭斗と火箸が行き来早き朝
12/8 (この日より)
炭竃(すみがま)
炭竃の煙にむせて熊の去り
炭焼(すみやき)
炭焼が煙を頼り愛し人
炭俵(すみだわら)
炭俵けふは軽きと運び上げ
炭売(すみうり)
炭売や髭は書かまい痒くとも
焚火(たきび)
焚き火の香子ら探し当て焼けて芋
榾(ほだ):榾の宿・榾の主
榾の火や梁の黒さと艶やかさ
爐(ろ):爐明・爐話
爐話の続きを語る夜の鳥
囲爐裏(ゐろり)
天井の囲爐裏の煙帰り来て
暖房(だんぼう)
暖房や戸の開け閉めのしつけ方
12/9
ストーヴ:暖爐
ストーヴの横妹座らして起立礼
スチーム
スチームやカチンとバルブ開く朝
ぺーチカ
ぺーチカの埃の積もり薪かな
炬燵(こたつ):切炬燵・炬燵布団
炬燵人顎であれこれ指図かな
置炬燵(おきごたつ)
姉の友一人独占置炬燵
助炭(じょたん)
おもむろに母貼替えて助炭かな
火鉢(ひばち)
一部屋に一つの火鉢人の息
火桶(ひおけ)
白き灰朱塗りの火桶青炎
12/10
手焙(てあぶり):手爐(しゅろ)
父配り手焙九谷鉢に化け
行火(あんくわ)
日が暮れど行火が温き足抜けず
懐爐(くわいろ):懐爐灰
柔肌や懐爐で火傷やせ男
温石(おんじゃく)
温石と決めて取り出し焚火かな
湯婆(たんぽ)
蒲団剥ぐ湯婆のまえの冷気かな
足温め(あしぬくめ):足焙・足爐
靴下に丸い穴あり足温め
湯気立(ゆげだて)
湯気立の焼鏝あてて折目つけ
湯ざめ(ゆざめ)
クライマックス湯ざめ忘れて見入りけり
12/11
風邪(かぜ):風邪薬(かざぐすり)
うんちくを並べ父だけ風邪薬
咳(せき)
気圧配置咳の苦しく課長席
嚏(くさめ)(くしゃみ)
爆破力自転変えんや我が嚏
水洟(みづばな)
水洟や今宵邪魔するプロポーズ
吸入器(きふにふき)
泡音や空いて冷たく吸入器
竈猫(かまどねこ)
火をいれどまだまだ居れる竈猫
綿(わた):綿打
裏返す紅き花柄真綿張り
蒲団(ふとん):干蒲団・羽根蒲団・絹蒲団
老女見ゆ似合わぬ色が干蒲団
12/12
背蒲団(せなぶとん):負真綿
老い楽やダサい気にせず背蒲団
肩蒲団(かたぶとん)
肩蒲団丸い窓より湖眺む
腰蒲団(こしぶとん)
腰蒲団あてて漁師や舵を切り
衾(ふすま)蒲団のこと:紙衾
母抑えおなら漏らさぬ衾哉
毛布(まうふ)
温暖化毛布が出番減りにけり
夜着(よぎ)
耳元のラヂオはひとり夜着の外
褞袍(どてら)
サナトリューム褞袍を父が迎えけり
綿入(わたいれ):布子・綿子
おしくらべ綿入厚く体当たり
12/13
紙衣(かみこ):紙子
如何着す柳行李へ紙衣かな
ちゃんちゃんこ:袖無
ちゃんちゃんこ上げを外してもう二年
ねんねこ
ねんねこや髪を抑えてゆらゆらと
厚司(あつし)
網を挽く厚司が列のリズムかな
胴着(どうぎ)
粋極む見えぬ胴着や紅裏地
毛衣(けごろも)
毛衣の下のTシャツ緋色なり
毛皮(けがは):毛皮売
小口瓶スルリ出し入れ毛皮売
皮羽織(かはばおり)
火事もなくえこうで待つや皮羽織
12/14
重ね着(かさねぎ)
気にかかり重ね着が色下着にも
着ぶくれ(きぶくれ)
肥えたねと痩せに嬉しや着ぶくれて
冬服(ふゆふく)
小開きて冬服を縫ふ昼下り
冬帽(ふゆばう):防寒帽・毛帽子
北支より冬帽の父温き顔
頭巾(づきん)
念願のとんがり頭巾飛びまわり
綿帽子(わたぼうし)
厳寒や老婆も被り綿帽子
頬被(ほほかむり)
頬被むこうの畑父のいて
耳袋(みみぶくろ):耳掛
しもやけや羨ましくて耳袋
12/15
マスク
コロナ禍やマスク美人が距離を置く
襟巻(えりまき):首巻
襟巻や指で絡めて顔隠し
ショール:肩掛
昼高し絹がショールの照り返し
手袋(てぶくろ):皮手袋
指開き皮手袋を見びらかし
マッフ
古行李祖母のマッフが褪せて色
股引(ももひき):もんぺ・ぱっち
股引を履かぬ男の脛の色
足袋(たび)
物干し台別珍の足袋色ごとに
外套(ぐわいたう)
外套を引きはがしたき帰る人
12/16
コート:東コート(あづまこーと)
果物籠東コートの叔母が来て
被布(ひふ)
叔母来訪良きなき話被布を着て
懐手(ふところで)
玄関へ父立ち待ちて懐手
日向ぼこり(ひなたぼこり):日向ぼっこ・日向ぼこ
背が伸びて裾も寒かろ日向ぼこ
毛糸編む(けいとあむ)
呼びかけど毛糸編む妻目数よむ
飯櫃入(おはちいれ):ふご
占有権唱えて猫が飯櫃入
藁仕事(わらしごと)
がしゃがしゃと夕日差し込む藁仕事
楮蒸す(かうぞむす)
煙立つ隣りの庵楮蒸す
紙漉(かみすき)
ぱしゃぱしゃとリズム崩さず紙漉きぬ
12/17
藺植う(ゐうう)
あと僅か手足の凍みて藺を植うる
甘蔗刈(かんしょかり)
甘蔗刈夕映の見ゆこの畑も
薪能(たきぎのう):若宮能・後宴の能
薪能萬斎と遭ふ方広寺
一茶忌(いっさき)
一茶忌や雀と遊ぶ馬もゐて
北風(きたかぜ):寒風
北風に押され登校足軽ろき
空風(からかぜ)
空風に向けて小便服の濡れ
隙間風(すきまかぜ)
線香の煙も早し隙間風
虎落笛(もがりぶえ)
虎落笛ハモる調子が合わぬ朝
12/18
鎌鼬(かまいたち):鎌風
鎌鼬秘伝披露と回す腕
冬凪(ふゆなぎ)
冬凪げてサーファーが座防波堤
霜(しも):霜柱・大霜・深霜・朝霜・夜の霜・霜の聲・霜凪・霜雫
冷える朝白いベールが霜を知り
霜夜(しもよ)
切干が旨さも増して霜夜かな
霜柱(しもばしら)
ザクザクと砕けぬけふの霜柱
霜除(しもよけ)
霜除の白さも増して陽も低し
敷松葉(しきまつば)
ところどこ芝の青さや敷松葉
雪圍(ゆきがこい):雪垣・雪除・雪構
老骨と縄竹揃え雪圍
雪吊(ゆきつり)
雪吊が舞い拡がりて兼六園
12/19
藪巻(やぶまき)
藪巻の千本松原暮ゆき
雁木(がんぎ)
雪止みて声の飛び交う雁木市
フレーム:温床
フレームの温し空気の鼻をつき
潤目鰯(うるめいわし)
嫁入りて潤目鰯の指剥き
塩鮭(しほざけ):あらまき・しほひき
あらまきや吊られ電球末近し
乾鮭(からざけ)
乾鮭や酒の肴の喰いちぎり
冬の雨(ふゆのあめ)
冷え具合今に変わるか冬の雨
12/20
霙(みぞれ)
ハンドルとポケット交互霙かな
霧氷(むひょう)
ヘッドライト地平線まで霧氷林
雨氷(うひょう)
朝日受け雨氷名残の庭の池
冬の水(ふゆのみず)
冬の水逆さの富士の雪の色
水涸る(みづかる):川涸る・沼涸る・瀧涸る
凧高し水涸る田圃見下ろして
冬の川(ふゆのかわ):冬川原
冬の川さざ波も無く流れけり
12/21
池普請(いけぶしん):川普請
池普請打つ数増えて鋼矢板
狐火(きつねび)
狐火と火球行く先同じとは
火事(くわじ):船火事・大火・小火(ぼや)・半焼・類焼・近火・遠火事・火事見舞
暗闇の煙真っ直ぐ照らす火事
火の番(ひのばん):夜番小屋・夜廻り・夜警・夜番・火の見櫓
エンジンの夜警の響きパトライト
冬の夜(ふゆのよ):夜半の冬・寒夜
冬の夜蝋燭の影ながながし
柚湯(ゆずゆ):柚風呂
効能は浮かぶ楽しさ柚湯かな
12/22
近松忌(ちかまつき):巣林子忌
道行や手を引き引かれ近松忌
大師講(だいしかう):大師粥
飾りつけ我が家当番大師講
蕪村忌(ぶそんき):春星忌
蕪村忌やおもひは遠き大江山
クリスマス:降誕祭・生誕祭
4インチ父が昔のクリスマス
社会鍋(しゃくわいなべ):慈善鍋
社会鍋夕暮れ喇叭旗の揺れ
師走(しはす)
急かされて師走はいつも風の吹き
極月(ごくげつ)
極月や日々変わりなくひきこもり
暦売(こよみうり)
祝日や一日増えて暦売
12/23
古暦(ふるごよみ)
物入れにそっと重ねて古暦
日記買ふ(にっきかふ)
初志貫徹と五年日記買ふ
ボーナス
ボーナスやなくなり暮らし楽もなく
年用意(としようい)
新しき道具揃えて年用意
春仕度(はるじたく)
奥の部屋箪笥のにほふ春支度
春着縫ふ(はるぎぬふ)
うきうきと明るき色の春着縫ふ
年木樵(としきこり):年木・年木積む
同じ山何故か気忙し年木樵
歯朶刈(しだかり)
歯朶刈やポエムに遠き鎌の音
12/24
注連作(しめつくり)
忙しさへ遠くのぼやと注連作
年の市(としのいち)
母の後欲しいものなき年の市
羽子板市(はごいたいち)
羽子板市いつも同じの顔ばかり
飾売(かざりうり)
声もなく人集まりて飾売
角松立つ(かどまつたつ)
角松立つ「ひっくり返す」子らの歌
注連飾る(しめかざる)
掃除終へ神に拝礼注連飾る
煤拂ひ(すすはらひ):煤掃・煤竹
梁の上積もり積もった煤拂ひ
煤籠(すすごもり)
煤籠ふりして二人珈琲と
12/25
煤湯(すすゆ)
安堵顔さもいもこじの煤湯かな
畳替(たたみがへ)
へそくりや出ては来ぬかと畳替
冬休(ふゆやすみ)
慌ただし寝転べぬ部屋冬休
歳暮(せいぼ)
歳暮着く都の母の弾む声
12/26
札納(ふだおさめ)
分類を規則厳しく札納
御用納(ごようおさめ)
大行列御用納に中廊下
年忘(としわすれ):忘年会
小さくてたった一度の忘年会
餅米洗ふ(もちごめあらふ)
幾臼も餅米洗ふ腕太き
12/27
餅搗(もちつき)
餅搗や杵の重さの気にならぬ
餅(もち):鏡餅・切餅・熨斗餅
子の育ち大きさ変り鏡餅
餅筵(もちむしろ)
光り受け餅筵の香部屋に満つ
餅配(もちくばり)
門先に人の気配や餅配
12/28
年の暮(としのくれ):歳末・歳晩
突然の他人行儀に年の暮
節季(せっき)
二学期の封筒を待ち大節季
年の内(としのうち):年内
年内が提出期限焦るかな
行年(ゆくとし):年惜む
行年や惜しむことだけ残りけり
12/29
大年(おほどし)
大年や水道局の蛇口から
大晦日(おほみそか)
大晦日書家の半紙が煙い顔
掛乞(かけごひ)
掛乞に設定温度高くして
掃納(はきおさめ)
玄関から門先向かふ掃納
12/30
晦日蕎麦(みそかそば):年越蕎麦
中学生一玉増えて晦日蕎麦
年の夜(としのよ)
静かなる妻の湯浴み年の夜
年越(としこし)
年越や湯舟に届く鐘を聞き
年取(としとり)
年取の膳が並びて紅白を
12/31
年守る(としまもる):としもる
年守る遠くに鐘が聞きながら
年籠(としごもり)
年籠大樹が隠す星の舞
除夜(じょや)
暗闇や除夜の銀杏が隠れ星
除夜の鐘(じょやのかね)
0 件のコメント:
コメントを投稿